17.ルグンドス遺跡へ
それから駅へ向かい、今は列車に乗っている。
道中この二人、カレンにアニスが腕を組んでくるので、昨日の事件?を知ってる兵や騎士の皆さんから、驚いた顔をされたのは一度や二度じゃない。
何故か、町の女性達も、信じられないものを見るかのように、私を見ていた。
うん、この両隣の二人、すっごい良い笑顔してるんだよね。
「蓮華お姉様、蓮華お姉様!まだルグンドス遺跡までは時間がかかりますし、トランプでもしませんか?」
今も、こんな事を言ってくるんだから。
この世界にもトランプあるんだ。
ルールを聞いて、一緒に遊ぶ。
元の世界にあったのとさほど変わらなかったので、覚えやすかった。
勝ったり負けたりだったけど、二人とも終始楽しそうだったので、よしとする。
そしてアナウンスが流れる。
そっか、次か。
「二人とも、そろそろ降りる準備をしようか」
その言葉に。
「「はい!蓮華お姉様!」」
と眩しいばかりの笑顔で答えてくれる二人。
誰だ、女性に冷たいなんて言ってた人は。
そして列車から降り、駅から出る。
目の前の砂漠に目が遠くなる。
「これ、近くに遺跡なんて見えないんだけど、ひょっとしてまだすんごく遠いの……?」
「はい蓮華お姉様。ですがご安心ください。移動用の砂漠専用の車をご用意しておりますので、数日と掛からずに着きますよ」
なんて言ってきた。
車、車あるんだ!?
だって、街中で車なんて見た事ない。
表情に出ていたのか、カレンが言ってくる。
「街中は危ないので、車は使用禁止なのです。ですが、街の外では比較的多くの者が利用していますよ?」
と。
そっか。
皆使ってるのか。
魔物とか出ても、それなら逃げられるか、最悪車でひけそうだな。
「ふふ、おかしな蓮華お姉様。まるで、初めてその話を聞いたように思えますよ?」
なんて笑って言ってくる。
うん、初めて聞いたんだよ。
うーん、どうしようかな。
でもまだ私の事を全部話していいか分からない。
だから
「あ、あはは」
と苦笑しておく事にした。
幸い、変には思われなかったようだ。
車に乗り込み、カレンが運転をする。
結構な速度が出る。
冷房もあるようだが、外との温度差が凄すぎるのか、あまり効いているように感じない。
これでも大分マシなんだろうけど……。
そこで、母さんが言っていた事を思い出したので、私だけじゃなく、二人も包むように氷の魔力で包む。
すると、二人がハッとしたような顔をした。
どうしたんだろう?
「蓮華お姉様、いけません!貴重な魔力を、蓮華お姉様ご自身にだけならまだしも、私共にまで使われるなんて!」
「そうです蓮華お姉様!私共は耐えられますから!」
なんて言ってくる。
この二人、本当は良い子すぎじゃないか。
役割の事もあるんだろうけど、私の事を気遣って、自分達の事を良いと言う。
私、こういう子達好きなんだよね、ほっとけない。
「大丈夫。私と二人に掛け続ける程度なら、私の自然回復量の方が高いから、減らないよ」
と言ったら、二人は驚いた顔をする。
「蓮華お姉様は、ひょっとして、魔力が恐ろしく高いのですか?」
なんて聞いてくるので。
ん?と思いながら。
「そりゃ、オーブに魔力注ぎに行く私が、低いわけないじゃない」
って笑って答える。
その言葉に。
「「!?」」
心底驚いた顔をする二人。
どういう事だろう。
不思議に思っていると。
「れ、蓮華お姉様、私達は、その。大魔道師マーガリン様から、魔力を込められた物を通じて、オーブに注ぐのだと、理解しておりました」
「は、はい」
と二人が言う。
成程、だから私は何もできない、持ち運びをする為だけの存在と思われていたわけか。
それが戦ってみたら強くて、おまけに魔力が高いとなったら、驚きもするか。
「んー。母さんが意図的に伝えてない可能性もあるから、なんとも。ほら、あの人お茶目な人だから」
苦笑しながら言ったら。
「「あの氷の大魔女が、お茶目……」」
なんて言ってきた。
氷の大魔女?
なんか、周りの人達の母さんの評価が、私やアーネストと随分違う気がする。
だから、聞いてみる事にした。
「ねぇカレン、アニス。母さんって、どんな人に見えてるの?」
と。
だって気になるし、第三者視点で聞いてみたかったのだ。
すると、おずおずと答えてくれる。
「誰に対しても、決して笑みを零す事はなく、氷のような視線で見てきます。ついた名が、氷の大魔女」
「はい。それに、魔術、魔法に対する知識の量が凄まじく、魔術を学ぶ者からは大賢者、魔法を学ぶ者からは大魔道師、と呼ばれています」
ああ、成程。
その二つ名は、そういう由来があったのか。
でも、笑みを零す事が無い?
「そうなの?母さん、笑ったら凄い可愛いのになぁ」
なんて言ってしまったのだが、二人はというと。
「「……」」
固まっていた。
前、前見てカレン!車の運転してるんだよ君!?
想いが通じたのか、すぐにカレンは運転に意識をやってくれたようだ。
「蓮華お姉様は、とんでもないお方ですね……」
なんて小声で言ったのを、こんな狭い空間で聞き逃すはずもなく。
苦笑していると、魔物の気配を感じた。
車を止めるカレン。
「蓮華お姉様はここに。掃討して参ります」
「お任せください」
言うが早いか、二人は飛び出していった。
かなりの速度だ、私と変わらないかもしれない。
そして現れた魔物達を斬り捨てて行く。
「蓮華お姉様の邪魔になるなら、全て排除するっ!」
「くたばれ、下種が」
なんて言いながら屠ってる。
アニスさん、若干口が悪いですね……とか考えていると、
「「終わりました、蓮華お姉様」」
気付けば戻ってきている二人。
辺りには魔物の死骸が散らばっている。
ちょっと引きながら
「うん、ありがとう二人とも」
と言ったら。
「「はいっ!」」
凄く可愛らしい笑顔で言ってくれた。
頼りになるし、可愛いし、最初が最初だっただけに、その差が激しかった。
車が再度走り出す。
魔物と戦った後だというのに、二人は汗の一つもかいていない。
「蓮華お姉様の魔力に包まれていて、涼しいはずなのに温かくなります」
「蓮華お姉様の魔力、凄い、です。姉さんと同じ気持ち、です」
なんて言ってくる。
ホント可愛いなこの二人。
見た目もそうだけど、中身もこんなに可愛かったのか。
そのままずっと進んでいたら、夜が近づいてきたので。
「えーと、家を出すのかな?」
と聞いてみたら。
「はい、今日は私の方を出しますね。明日はアニスが出してね」
と言ってきた。
出てきた家は、シリウスが出した家よりも大きかったが、何より印象的だったのが。
「ピンク一色……」
つい声に出てしまった。
「あ、あの、蓮華お姉様。やっぱり私なんかには、似合いませんよね……」
と俯いているカレン。
いや、ピンク一色な内装には驚いたけど。
「ううん、そんな事ないよ。女の子らしいんじゃないかな。カレンもアニスも可愛いからね」
と言ったら、花が咲くような笑顔で……。
「ありがとうございましゅっ!」
と言って噛んでいた。
言った後滅茶苦茶照れている。
アニスに大丈夫です、可愛かったですって慰められているカレン。
本当に仲が良いなこの二人は。
中に入って、ソファーに腰かけて、気になっていた事を聞く。
「あの、二人とも。悪いんだけど、私料理できないんだよね……二人はどう?」
と恐る恐る聞いたら。
「「できますので、蓮華お姉様はお寛ぎください」」
と姉妹揃って言われてしまった。
料理できないの私だけかい……と項垂れていると。
「蓮華お姉様にもできない事があるんですね、嬉しいです」
とか言われてしまった。
いや、私にはできない事ばかりなんだけど、美化しすぎなんじゃなかろうか。
その後、二人は台所に行ってしまった。
シリウスの時は、食事の後手合せする事になってしまったけれど、今回はそんな事はないだろう。
あれ、でも順番が違うだけで、結局戦ってるような……うん、気にしない事にしよう。
それから食事をして、お風呂に入って、寝る事にした。
お風呂に一緒に入ってこようとする二人に手を焼かされたけど、
そんなこんなで遺跡に向かって1日目が終わった。
翌朝。
また車に乗り込んで進む。
見渡しても砂漠なので、なんの面白味もない。
カレンは運転しているので、アニスと二人でトランプのババ抜きをしていたら、私も蓮華お姉様と遊びたいです!って言ってきたので、アニスが運転をする事に。
それからは交代で運転をして、私は遊び続けている。
なんか罪悪感がでてきたので、昔は運転もしていたし、できるだろうと声をかけたのだが。
「「蓮華お姉様は道が分からないじゃないですか」」
と至極真っ当な事を言われてしまった。
いや、運転するから道を案内してくれたら良いんじゃ……と言ったのだが。
「「蓮華お姉様は私達と遊ぶのはお嫌ですか……?」」
なんて二人して悲しそうに言ってくるので、もう諦めた。
それから何の変哲もない時間だった。
時々魔物が現れるが、この二人が一瞬のうちに片づけてくれる。
いや、本当に強いなこの二人。
流石インペリアルナイトって思ったよ。
二人は治癒魔法も使えるようで、多少手傷を負っても自分で治していた。
自分よりはるかに大きいサンドワームのような魔物も、一太刀の元に斬り捨てていたし。
私と戦った時は、まだ手加減をしていたのかもしれない。
そして数日、そんな日々を繰り返し、ようやく着いた。
「ここが、ルグンドス遺跡?」
なんというか、ここだけ草木が生えていて、本当に、ザ・遺跡!という感じだった。
「はい、蓮華お姉様。この遺跡の奥に、オーブが安置されております」
という答えが返ってきたので。
「それじゃ、行こっか二人とも」
と声を掛けた。
「「はいっ!蓮華お姉様!」」
元気の良い返事が返ってきたのは言うまでもない。