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177.時の狭間からの生還

 カレンとアニスが時の狭間へ入ってから一日が過ぎた。

 ミレニアは静かに目を瞑っていたが、時空の歪みを感じ、三人が戻ってきた事を感じ取る。


「ほぅ、シャルの手腕があったとはいえ、想定よりも速いな」


 そう一人呟いて、ミレニアは立ち上がり、向かう。

 その姿を直接確認する為に。


「これはミレニア様。おはようございます」


「うむ、ご苦労じゃったな。して、どうじゃった?」


「はい。中々の才能でございました。そして、彼女達の想いは本物でしょう。辛い状況でも決して諦めず、不満も漏らさず、ただひたすらに努力しておりました」


「ほぅ……お主がそこまで褒めるか」


 そう言い、後ろに控える二人を見る。

 昨日見た時と、明らかに違う。

 雰囲気もそうであるが、その身から発する魔力の桁が違った。


「フ、ようやく少しはマシになったようじゃな」


 そう二人に向け微笑むミレニア。


「ありがとうございます。強くなればなるほど、シャルロッテ先生との力の差をより感じるようになりましたわ」


「はい、それに……今ミレニア様にお会いして、そのお力を感じ、よりとてつもないお方であったと実感致しました」


 その言葉に笑うミレニア。


「ククッ!それはお主らが成長したからこそ感じる事だ。海は広大で壮大だ、などと聞いても、そうなのか程度じゃろう?じゃが、実際に見るとその気持ちは変わる。本当の意味での壮大さを味わうじゃろう。お主らはようやく、スタート地点に立てたのじゃ」


「「はいっ!!」」


 そこで一旦言葉を区切り、ミレニアは言う。


「じゃが……ようやった。シャルの修練に耐えきれた者はそうおらぬ。どれだけの決意を秘めていようが、途中で挫折する者を見てきた。お主らは本当の意味で、強い」


「そうですね。私はこれよりメイドに戻りますが、剣士として言わせて頂きましょう。今の貴女達は強い。これからミレニア様の指導を受ければ、その力は更に上がる事でしょう。自信をもって構いません、よく頑張りましたね」


 厳しい師匠であったシャルロッテからも、思わぬ言葉を聞いた。

 その言葉に、二人は思わず涙が出てしまう。 


「「あり、がとうござ、いますっ……!」」


 涙をこぼしながらも、そう伝える彼女達を優しい目で見るミレニアにシャルロッテ。


「シャル、お主は食事の用意をせよ。あの中では美味しい食事はできなかったじゃろう」


「畏まりました」


 そう言い、シャルロッテは厨房へ向かう。

 時の狭間の中では、確かに食事はできるが、保存食だけなのである。


「そういえば、私達服が綺麗になってますわね……」


「あ……私も言われて気が付きました」


 その二人の言葉に、笑うミレニア。


「それはそうじゃろう。お主らが時の狭間へ行っている間、その体はこの世界で眠っていただけじゃ。ボロボロになりようがなかろう」


「「えぇっ!?」」


 そう笑って言うミレニアに、驚く二人。


「時の狭間に行くのは、その精神じゃ。肉体は狭間の門をくぐったと同時に、近くのベッドに転送されるようにしておる。じゃから、お主らは実際には歳はとっておらぬぞ」


「良かった……私達、蓮華お姉様の年上にならずにすんだのですわね……!」


「はいカレンお姉様!」


「お主ら……」


 喜ぶ所はそこなのかと、ミレニアは笑う。

 我が子のように思う蓮華。

 その蓮華を慕うこの二人の事を、その想いが本物である事を感じたミレニアは気に入っていた。


「ですが、それなら私達は、実際には強くなれていないのでしょうか……?」


 カレンの疑問に、笑って答えるミレニア。


「ククッ!そんなわけがなかろう。確かに肉体的な強さは鍛えられておらぬが、体内に宿る魔力量の桁が上がっているのを感じぬか?」


「「!!」」


「肉体など、魔力でいくらでも強化できる。大事なのは、魂を磨く事じゃ。そして、その肉体を操る術も、シャルから学んだであろう。時の狭間で得た全ての事が、お主らの血となり肉となっておるのじゃ。安心せい、お主らが昨日ここに来た時と、今のお主らでは次元が異なる。お主らは強くなっておる、妾が認めてやろう」


「「はいっ……!」」


 敬愛する蓮華と、尊敬する師匠であるシャルロッテ。

 そして、その師匠であるシャルロッテが尊敬する、絶大な魔力量を誇る吸血鬼の真祖、ミレニア。

 カレンとアニスは、この二人と知り合えるきっかけとなった蓮華に心から感謝するのだった。


「食事が済んだら、早速指導してやるでな。肉体は疲れておらぬだろうが、精神は摩耗しておるじゃろう。ついてこい、こちらでしばしの休息をするがよい」


 そうミレニアに案内された場所に腰を下ろす二人。

 それから数秒と経たずして、二人は眠りに落ちた。

 頭をお互いに預け、寄り添うように眠る二人。

 その姿を見て、ミレニアは微笑んだ。


「フ……こうして見ると、蓮華と同じまだ幼い少女よな。それが、この国の守護者となり、その小さな肩に……責任という名の重りを背負っておるのじゃな」


 二人に近づき、頭を撫でるミレニア。


「ん……蓮華、お姉様……必ず、私達は……んみゅぅ……」


 聞こえてくる可愛らしい寝言に、ミレニアは更に笑みを深くするのであった。


「ミレニア様、お食事の用意が……あら」


「うむ、今は寝かせてやれ。慣れぬ環境での毎日の修練。肉体が疲労していなかったとしても、魂が疲労しておるじゃろうからな」


「畏まりました。この二人は、蓮華様に並ぶ事ができるでしょう。競い合う友として」


「ほぅ、剣士としてのお主がそう思うのか?」


「はい、ミレニア様。才能もあり、その想いも本物でございました。私の指導は、ミレニア様もご存知の通り、生半可なものではございません。それを、乗り切ったのです」


「そうか、蓮華は良い友を持ったな」


「はい、ミレニア様」


 仲が良さそうに眠る二人を見る。


「今は、眠るが良い。起きたら、妾が直接指導してやるでな。妾はシャルよりもきついぞ?心して掛かるが良い、ククッ……!」


 そう言って、ミレニアは場所を移動する。

 それに付き従うシャルロッテは、心なしか楽しそうに見える主人に、笑みが零れるのであった。




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