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173.抑えられない気持ち

 家に帰り、母さんと兄さんに事情を説明した。

 二人とも真面目に聞いてくれていたのだが、兄さんが立ち上がる。


「兄さん?」


「兄貴?」


「ロキ、どうしたの?」


 三人で一斉に聞いた。

 兄さんは、普段見せない、怒った顔をしていた。


「アーネスト、蓮華。私に任せなさい。そのカス共を塵も、魂さえも残さず消し去ってやりましょう」


 兄さんが静かに怒りを爆発させていた。

 や、やばい、これは本気でやる目だ!


「ま、待って兄さん!」


「蓮華、貴女の優しさは美徳です。ですが、敵に情けなどかけるべきではありません。今回ばかりは、いくら蓮華の頼みでも聞けませんよ。私の大切な二人の命を狙った。それは私の命を狙うよりも重い罪だ。殺す……!」


 こ、これは本気で怒ってる。

 ど、どどどどうしよう!?

 ……そうだ!


「兄さん、聞いて。そこで兄さんに加勢しようとしてる母さんも」


 ビクッと座りなおす母さん。

 見えてるんですよ母さん、気付かないと思いましたか。


「私も、アーネストも……いつも守られてるって自覚してる。だけど、それだけじゃ嫌なんだ。私も、私達も、母さんや兄さんを守りたい!大切な家族を守る力が欲しいんだ!」


「蓮華……」


「レンちゃん……」


「ああ。それに、今回のような事が、また起こらないとも限らねぇ。こういう事がある度に、母さんや兄貴に迷惑を掛けたくねぇんだ。分かってくれよ母さん、兄貴!」


 アーネストも必死に説得する。

 確かに、母さんや兄さんなら、簡単に解決してしまうだろう。

 でも、それじゃダメなんだ。

 いつも守られてばかりじゃ、私達は成長できない!

 この異世界を謳歌する為に、気持ち良く毎日を生きる為には、力が要るんだ!


「……ふぅ、二人の気持ちは良く分かりました。ですが、少し時間をください。マーガリン師匠、少し私は出ます」


「え?ええ。大丈夫、よね?」


 その大丈夫の意味が、兄さんの身を案じての言葉ではない事は、私にだって分かる。


「安心してください。二人の意思を、尊重しますとも」


「兄さん!」


「兄貴!」


 そう呼ぶ私達に、微笑む兄さん。

 相変わらずのイケメンである。

 そうして、兄さんは部屋を出て行った。


「さて、話は分かったわ。アーちゃん、レンちゃん。まずはご飯を食べて、栄養をつけましょ」


「母さん、私達は今すぐにでも……!」


「ああ、そうだぜ母さん!」


 そう焦って言う私達に、母さんは人差し指を口に持っていって、ウインクをしながら言う。


「大丈夫。二人の友達は、そんなに頼りにならないの?」


「「!!」」


 はぁ、母さんには敵わないな。

 アーネストと顔を見合わせ、笑う。


「母さん、手伝うよ料理」


「俺も皿出しくらいなら」


 母さんは微笑んで、お願いねって言ってくれた。




-天上界-




 大聖堂にて、いつも通り瞑想を行っているラケシスの元に、けたたましい音が鳴り響く。


「ら、ラケシス様!!」


「騒々しいですね。何事ですか」


「ろ、ろろロキ様が、結界を破りこちぐはぁっ!!」


 ドゴォォォォォン!!


「案内ご苦労。死んで構いませんよ」


 ロキの膨大な魔力により、ラケシスに伝令を伝えた兵は息絶える。


「ろ、ロキ!?」


 かつての旧友であり、原初の神であるロキの登場には、流石のラケシスも驚きを隠せない。


「失礼しますよラケシス。ああ、別に旧交を温めに来たというわけではありません」


 そう言ってラケシスに近づくロキ。

 その身から負の魔力を感じ取ったラケシスは、身動きが取れずにいた。

 その首元へロキの手が伸びる。


「ぐぅっ……ろ、ロキ、何を、するのです……!」


「いえね、貴女が私の大切な宝物を奪おうとしていると聞いたのですよ。許しておけませんよねぇ……?」


 そう言いながら、手に力を込めるロキ。

 天上界の中でも、屈指の力を持つラケシスであったが、ロキの力はそれすらも容易く超えていた。

 まるで赤子の手を捻るかのように、ラケシスの防御壁を破る。


「あぐぅ……!なん、の事、です、か……」


「白を切るつもりですか?蓮華にアーネストを消そうと企んでいるのでしょう?」


「!?」


 そこで初めて、ラケシスの表情が変わる。


「ほら、知っているではないですか」


 ロキの魔力が更に高まる。

 しかし、ラケシスは逆に落ち着いた。


「私は、狙っていません」


「どういう事です?」


「バルビエルから話は聞きました。ですが私は……ユグドラシルの意思を、尊重します」


 その言葉を聞き、首元から手を放すロキ。


「……成程。そういえば貴女は、最後まで何もしませんでしたね」


 その言葉に、体を震わせるラケシス。

 彼女は、その事をずっと悔やんできた。

 けれど、あの時どうすれば良かったのか、今でも答えが出せずにいるのだ。


「私は……ユグドラシルに生きていて欲しかった……ウルズの気持ちだって分かります。けれど、私は……!」


 その言葉を最後まで聞かず、ロキは背を向ける。


「貴女は見逃しましょう。ですが、バルビエルにウルズ、この私を敵に回した事、後悔させてあげましょう」


「ロキ、貴方は今も、ユグドラシルを守っているのですか……?」


「……その役目は、マーガリンに任せていますよ。私は一度、この世界を滅ぼそうとした。どの面下げて守るなどと言えましょう」


「なら、どうして……」


 ユグドラシルの化身を、守ろうとするのか。

 そう言おうとして、ロキが振り向いている事に気付き、口を閉じる。

 その表情が、怒りに震えているのが分かったからだ。


「私はねラケシス。あの子達がユグドラシルの化身であるかどうかなど、どうでも良いのですよ」


「え……?」


「あの子達は私に家族というものを教えてくれた。こんな気持ちは初めてでしてね。大切な家族であるあの子達を奪おうとする者に、私は一切の容赦をしない」


 そう告げ、ロキは去って行った。

 後に残されたラケシスは思う。

 あのロキを、こうまで変えた者達の事を。


「蓮華、アーネスト、ですか。私も、会ってみたいですね……」


 再度瞑想を始めながら、ラケシスはそう零すのだった。




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