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172.決心

「申し訳ございません、アリスティア様……」


「んー、残念だけど、仕方ないよ。その漆黒の刃"奏音"って人も、相当な強さだったって事でしょ?」


「はい……」


 アリス姉さんとヘラクレスが会話しているが、内容が頭に入ってこなかった。

 漆黒の刃"奏音"……奏音、それは、彩香ちゃんが名乗っていたこの世界での名前だと聞いた。

 彩香ちゃん、君は……この事件に関係しているのか。

 君が、この学園の生徒達を攫っているのか。


「……さん!蓮華さん!」


 私を呼ぶ声にハッとする。


「大丈夫?蓮華さん。奏音って人が蓮華さんの昔の知り合いなんだよね?」


 アリス姉さんの言葉に頷く。

 ヘラクレスが驚いているのが分かる。

 そういえば、ヘラクレスには伝えていなかった事を思い出した。


「蓮華、あや……奏音ちゃんは、お前の為にその組織に残ってるんだろ?なら、従ってるだけだ。本心からやりたくてやってるわけじゃないはずだぜ」


「うん、分かってるよアーネスト」


「蓮華様、その奏音という者、戦ってはいませんが……かなりの実力者であると思われます。俺が戦った神雷の刃"徹"という者も、かなりの強さでした。その者と同クラスかと思われます」


 ヘラクレスは、アーネストの事は呼び捨てにするようになったのに、私の事は未だに様と呼ぶ。

 呼び捨てで良いって言ってるのに、聞いてくれない。


「そっか……私も軽く手合わせしたんだけど、確かに軽くあしらわれちゃったんだよね」


 周りの皆が驚いている。

 私も皆に強いと思われてるから、その私をって事なんだろう。

 けど、今回の事で分かった。

 私は今のままじゃダメだ。

 今のままじゃ、私は大切な人達を守るどころか、自分すら守れない。


「皆、少し良いかな?」


 周りを見渡して、皆が私の方へ向く。


「こんな状況だけど、狙いが私である事は明白。今後、もっと戦いは激化するかもしれない。だから私は……学園から少しの間、離れようと思う」


 皆驚いているけど、構わず続ける。


「もちろんそれには理由があってね。母さんに修行をつけてもらいに帰ろうと思うんだ。強くならないと、私は皆を守るどころか、自分自身すら守れない」


 そう真剣に、心を込めて言う。


「はぁ、ったく……分かった蓮華。俺もホントは行きてぇけどよ、この状況で俺まで離れるわけにゃいかねぇ。強くなって帰ってこい、蓮華!」


「アーネスト……」


 その言葉にジーンときていたら、思わぬ人から声がかかる。


「アーネスト、お前も一緒に行ってこい。お前達が居ない間は、俺がアーネストの姿に変化して代わりにやっておいてやる」


「「タカヒロさん!?」」


 魔界に戻っていたタカヒロさんが、帰ってきたのだ。


「状況はアリシアから聞いてる。アーネスト、蓮華。お前達は一旦帰って強くなって帰ってこい。それが一番良い」


「良いのか、タカヒロさん」


「ああ、任せろ」


 その言葉に、アーネストは笑う。


「任せた、頼りになるぜ」


 それから、アーネストはクルセイダーズの皆に話し始める。

 私はアリス姉さんを見た。


「アリス姉さんは」


「もちろん一緒に帰るよ?」


「……ううん。今回は、学園に居て欲しいんだ。これ以上、被害が出ないように。もしまた襲われたら、アリス姉さんが居るのと居ないのとじゃ、雲梯の差だから」


 そう、私もアーネストも、アリス姉さんに何度窮地を救ってもらっているか分からない。

 アリス姉さんが居たから、私達は今、こうしていられるんだ。


「うぅ、蓮華さんと離れるなんてぇ……でも、ユグドラシル領ならマーガリンにロキも居るし……安全だよね。分かったよぅ……」


 悲しそうにするアリス姉さんを、抱きしめる。


「大丈夫、すぐに強くなって帰ってくるよ。それまで、皆を守ってあげて。必要なら、皆を鍛えてあげて欲しい」


「うん、絶対だよ蓮華さん」


「セルシウスも、アリス姉さんを支えてあげて欲しい」


「はぁ、一人で……ってアーネストもだったわね。仕方ないわね……でも、必ず帰ってくるのよ。後、あんまり遅いと迎えに行くわよ」


 その言葉に苦笑してしまう。

 本当に過保護なんだから。


「蓮華」


 そう呼ぶのは、ノルンだった。


「どうしたの?ノルン」


「私も一旦魔界に帰るわ。タカヒロは会長の変わり、アリシアは副会長だしそのまま残るから、問題ないでしょ」


 タカヒロさんとアリシアさんが苦笑するのが分かる。


「ノルンも?あ、もしかして……」


 リンスレットさんに、修行してもらうつもりなんだろうか。


「アンタが今考えた通りよ。私も、もっと強くなる。今回狙われてるのはアンタ達みたいだけど、私も狙われる可能性あるし、何より……」


 そこで言葉を止めるノルン。

 何も話さずに、続きを待つ。

 じっくり数十秒経った後に、続きを言う。


「何より……アンタ達に差をつけられるなんて、冗談じゃないわっ!!」


 ぶはっ、そんな理由!

 こんな状況だと言うのに、そんな事を言うから笑ってしまった。

 話が聞こえていたのだろう、アーネストもこっち見て笑っていた。


「あはは!うん、それじゃノルン、強くなってから、また会おう!」


「ええ、私の方がぶっちぎりで強くなっててあげる。蓮華に私が強くなった意味無かったなぁって思わせてあげるわ」


 それはつまり、私の事を守ろうと強くなる、と言ってくれているわけで。

 私は顔のにやつきを止められなかった。


「アンタ、そこで笑うのはなんでよ!?」


「ノルン」


「な、何よ」


 急に真面目になった私に、戸惑うノルン。

 だけど、これだけは伝えておかないとね。


「ありがとう。ノルンも大事な友達なんだから、無事で」


「……フン、当然でしょ。アンタに心配されるほど私は弱くないわよ」


 真っ赤になって顔を背けるノルンが可愛かった。


「アーネスト、私はこのまま帰るつもりだけど、アーネストは何か準備要るか?」


「いや、俺もこのままで良い。タカヒロさん、理事長に説明頼んだぜ。それじゃ皆、また後でな!」


 皆に別れを告げ、私達は学園を後にする。

 久しぶりに、アーネストと母さん、兄さんの四人になるのか。

 とりあえず学園街までは徒歩なので、二人で認識阻害の魔法を掛けてから歩く。


「なぁアーネスト。異世界に来てさ、色々な事が起こりすぎだと思わないか?」


「あー、そうだな。お前も一回死にかけるし、あん時は目の前が真っ暗になったぜ」


「ポケ〇ンかよ」


「ああ、あれも負けたら真っ暗に……ってそうじゃねぇよ!?」


「あはは、ごめんごめん。心配かけたな、謝ったじゃないか」


「ったく……でもよ、次はあんな想いしたくねぇし、お前にあんな想いはさせねぇ」


「……うん」


「強く、なろうぜ」


「うん」


「そして、この異世界を謳歌するんだ!」


「ああ、そうだな!」


 私達は、最初に召喚された場所、ユグドラシル領に帰る。

 そこで、私達に掛けている封を、解いてもらう為に。

 これから激化するであろう戦いを、乗り切る為に。



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