170.十傑最強、轟炎の刃
セルシウスと共に、西門付近へ『ワープ』する。
西門に『ワープ』して、いきなり戦いの中に混ざるのも危険だからだ。
そうして走る事少し、剣撃の音が聞こえる。
離れた位置から、ノルンとアリシアさんが戦っているのが見えた。
「セルシウス、念の為憑依するよ!」
「ええ、了解よレンゲ!」
そうして、セルシウスを憑依させてノルンとアリシアさんの元へ辿り着く。
丁度、二人と間合いが開いた所だった。
「蓮華、良い所に来てくれたわ」
「すみません蓮華さん、奴はかなり手強いですよ……」
そう聞いて、相手を見据える。
一見ローブに見えなくもない姿だが、右手には大鎌を携え、左手には炎を纏っている。
「レンゲ=フォン=ユグドラシルだな?私は"ウロボロス"十傑筆頭、轟炎の刃"大蛇"だ。お前に罪はないが、その命……奪わせてもらう」
「「!!」」
二人が驚いた顔をする。
どうしたんだろう?
「アンタ、蓮華を狙っていたの!?」
もしかして、ノルンは知らなかったのか。
「そうだ。魔界のイグドラシルの化身ノルン、お前を狙えばユグドラシルの化身であるレンゲが来るだろうと思ってな」
その言葉に悔しそうに顔を歪ませるノルン。
「ごめん蓮華、狙われてるアンタを呼んじゃった……」
優しいノルンは、気に病んでるんだろう。
でも、そんな事気にしないでほしい。
「気にしないでノルン。それに、ノルンやアリシアさんと一緒に戦う方が、勝率が上がるよ」
そう笑って言って、ソウルを構える。
「蓮華……ええ、そうね」
ノルンにアリシアさんもまた、剣を構える。
立っているだけなのに、凄まじい威圧感を感じる。
流石ノルンとアリシアさんを相手に今まで耐えていただけの事はあるかもしれない。
「ノルンとそこの女の強さは分かった。お前も大体同じくらいなのだろう?なら、私には勝てないぞ」
そう言って、腕に纏っていた炎が巨大な柱となる。
「蓮華、上に飛んで!」
ノルンがそう言うのを聞いて、すぐに跳躍する。
下を見たら、先程まで居た場所に凄まじい炎の渦があった。
その一瞬の隙に、大蛇と名乗った人が攻撃を仕掛けてきた。
「受けてはダメです蓮華さん!」
ブォン!!
アリシアさんに襟元を引っ張られて、鎌が私が先ほどまで居た場所を薙ぎ払う。
「ぐぇっ!?」
「あ、ごめんなさい蓮華さん……!」
いやうん、緊急時だから仕方ないけど、喉が痛いです。
「あの鎌を防ぐと、剣が溶けて使い物にならなくなります!」
マジですか。
ソウルが溶けるとかちょっと困る。
"我は溶けませんよ主。それに、修復も可能です"
後方に着地してから、それを伝えたら苦笑された。
少し間合いを開けて、こちらを見据える大蛇。
「私の攻撃にこれだけ耐えられる者は、同じ十傑の漆黒や神雷くらいだと思っていたが……中々やるようだな。これは少し、計画を修正しなければならないか」
なんて聞き捨てならない事を言った。
「計画?私の命を狙う事が、その計画なのか?」
そう聞いたら、意外にも答えてくれた。
「計画の一部、なだけだ。お前の命を奪う事はきっかけにすぎない。その後こそが、こちらの狙いだ」
その、後?どういう事だろうか。
「そういう事ね。蓮華を殺し、世界樹を枯れさせる。マナの枯渇したこの地上と魔界の大地は、劣悪な環境になる。必然的に、争いが多発するようになるでしょうね」
なんだって……!?
「察しが良いな。そう、それこそが私達の狙いだ」
「アンタはそれがどういう事になるか、分かってんの?」
「もちろんだ。私達、いや私は……そんな世界を望んでいる。だからこそ、バルビエルに賛同したのだからな」
「狂ってるわね」
「おしゃべりはここまでだ。イグドラシルの化身ノルン、お前もユグドラシルを支える存在だからな……共に、消してやろう」
大蛇が魔力を高めるのが分かる。
凄まじい魔力だ。
十傑って言ったっけ。
こんな奴が後9人も居るのか……!
「チッ……私達より高いわね。アリシア、アスモデウスには成れないの?」
「成れたら成ってるんですけど、本体は魔界で調べもの中なんですよねぇ」
アリシアさん、貴女分身体なんですか。
衝撃なんですけど。
「まったく、そんなだから押されるのよ」
「こらこら、ノルンがもっと強くなれば良い話でしょう?」
「ぐっ……」
押し黙るノルン。
こんな時だというのに、二人はいつも通りで笑ってしまう。
「余裕だな。だが、これを受けて生きていられるかな?行くぞ、塵も残さん!『魔炎粧・轟炎』!!」
凄まじい炎がこちらへ放たれる。
「「「『アイスシールド』!!」」」
それに対抗し、防御結界の中でも炎に対する効果が一番高い、氷の結界を三重に張る。
けれど、炎は萎える事なく、私達を包み込み燃え上がる。
「チッ……蓮華、この炎は竜巻みたいになってるけど、上ががら空きみたいよ。恐らく術者のあいつを攻撃すれば、炎も四散するはず」
「このまま防いでいてもジリ貧だし……うん、任せるよノルン」
「何言ってるのよ。アンタが行くのよ」
「へ?」
「セルシウスを纏ってるアンタが一番有効打を与えられるでしょ。ほら、私とアリシアでアンタの分もカバーするから、一撃入れてきなさい!」
「……了解、すぐに炎を散らせるよ」
「任せますね蓮華さん。最悪、この体は消滅しても本体に戻りますが、ノルンはそうはいかないので……」
「アンタは一言多いのよ……」
「あ、あはは……それじゃ、行くよ!」
炎の天上まで、大ジャンプする。
見えた、大蛇!!
「でやぁぁぁぁっ!!」
そのまま空中から急降下する。
アーネストが使う技、『鳳凰天空牙』みたいな形になった。
術を放っている大蛇は、防げ……鎌!?
ギィィィィン!!
「ほぅ、炎を避け、上からの奇襲とは……やるな。だが、俺は術を発動しながらでも戦えるぞ」
「片腕でどこまで耐えられるかな!!」
ギンギンギンギンギンッ!!
私の剣撃を、大鎌を巧みに扱い、全て防ぐ。
くっ……直撃できないっ!
「良い腕だ、それ故に惜しい。もう少し修練を積めていれば、私にも届いたやもしれぬ」
そう言ったかと思うと、大鎌を炎が包み込む。
「喰らえ。大鎌術壱之型『炎舞』」
大鎌に繋がっている鎖分銅が炎によって燃え上がり、鎌と共に避けようのない乱撃となり、ガードするも耐えきれずに吹き飛ばされる。
兵舎の壁にぶつかり、崩れ落ちた。
よろよろと立ち上がる。
大蛇はノルン達に術を放ったままだ。
私を相手にしながら、ノルン達すら防いでいる。
こいつ、本当に強い……!
「まだ意識はあるようだな。ならば、とどめをさしてやろう」
大蛇の片腕から色の違う青い炎が、すでに大鎌に纏っていた赤い炎の上から侵食していく。
分かる、あの温度はヤバイ。
多分、受けたら一瞬で何もかもを溶かす温度だ。
「私の奥義で殺す事を、せめてもの手向けとさせてもらう」
セルシウスの魔力を全身に行きわたらせ、なんとか対抗しようと試みるが……分かる。
これは、無理だ。
私の思考の冷静な部分が言う、諦めろと。
でも、私の中にある想いが、諦めるなと言う。
そうだ、アーネストとこの世界を楽しもうと、謳歌しようと約束したんだ。
こんな所で、終われるかっ!!
「死ね!奥義『真魔炎粧・轟炎波動砲』!!」
左腕で『魔炎粧・轟炎』をノルン達に放ちながら、それよりも巨大な炎を私に向かって放つ大蛇。
死んで、たまるかぁぁぁっ!!
「全て、凍れぇっ!!『アイシクルプリズン』!!」
私の全魔力を込め、大蛇の放った魔法を凍らせていく。
「やるな、だが……その程度の温度では、私の炎を消せはしない!!」
私の魔法が、蒸発していく。
くっ……!ここまで、なのかっ……!!
そう思った、その時。
頼もしいあいつの声が、聞こえた。
「隙だらけだぜ!『緋凰絶炎翔』!!」
ズドオオオオオッ!!
「がはっ!?」
大蛇が西門入口へ吹っ飛んでいく。
魔法がきれ、私はその場に座り込んだ。
ノルンとアリシアさんへの魔法も切れたようで、こちらへ駆け寄ってくる。
「大丈夫か蓮華!?それにノルン、アリシア!」
「ああ、アーネスト……助かったよ……」
魔力を大分消費したので、ちょっと息切れしている。
「お前……」
その私を見て、アーネストは真面目な顔をして、大蛇の方を向いた。
大蛇は丁度立ち上がった所だった。
「見事な不意打ちだ。流石の私も、奥義を放った所では防げなかったぞ」
「テメェ、明達を攫って何を企んでやがる!」
「明?その名は知らないが、連れ去った者の一部なのだろうな。時期に分かる、と言いたい所だが……お前達はここで死ぬ」
アーネストがきて四対一となった状況でも、こいつはまだ戦うつもりみたいだ。
けれど、私は先程の魔法でかなりの魔力を使ったのに、大蛇は少しも魔力が衰えていない。
ここにきて、制限を受けた身である事が悔やまれる。
襲い来る強敵達に、今のままじゃ……皆を助けるどころか、自分の身も守れない……!
「蓮華、お前さっきのでかなり魔力使ってんだろ、少し休んでろ」
「そういう、わけにはいかないよ。あいつは、強い。多分、私達全員で掛からないと、負ける……!」
「蓮華……分かった」
そう言って、大蛇の方を向くアーネスト。
対峙する私達。
そこへ。
「蓮華さーん!!」
颯爽と登場する、私より小柄でありながらも、私よりも数段上の実力者のアリス姉さん。
その可愛らしい風貌からは想像できない程、パワフルな女の子。
「アリス姉さん!!」
「アリス!」
「アリスティアさんっ!」
私達が口々に名を呼ぶ。
アリス姉さんがきてくれた。
それだけで、こんなにも安心感がある。
「大丈夫だった?さっき容疑者一人捕まえたから、後で尋問しよーね!」
「なんだと!?」
大蛇が驚いているのが分かる。
「はは、流石だなアリス」
アーネストが笑ってる。
うん、気持ちはよく分かる。
「さって、ここからは私も混ざるよー?逃げ帰るなら、今のうちだよー!」
その言葉に。
「……そうだな。私でも、貴女には勝てない。ここは退かせてもらう」
「へ?」
そう言って、本当に去ってしまった。
「まさか本当に逃げるとか思わなかったよー!?」
そう叫ぶアリス姉さんが面白くて。
だけど、それに和んでる場合じゃない。
今回襲撃があったのは、私を狙ったものだった。
攫われた生徒達も、大蛇が関係している事が分かった。
一旦状況を整理する為に、皆で集まる事にするのだった。