169.十傑三強との戦い
-アリスティア視点-
正門をアーくんに任せ、蓮華さんの言う通りに東門へ向かう。
ヘラクレスは、今のアーくんや蓮華さんよりも上の実力だ。
そのヘラクレスが苦戦しているほどの相手なら、私を向かわせた蓮華さんの判断は正しい。
ただ、ノルンちゃんが苦戦しているというのが気になる。
ノルンちゃんの元には、大罪の大悪魔の一人、"色欲"のアスモデウスこと、アリシアちゃんが居るからだ。
彼女も本気になれば、蓮華さんやアーくんよりも上の実力を秘めているはず。
その二人が苦戦となると、相当厄介な奴が居るという事になる。
色々考えていたら、東門に着いた。
そこでは、ヘラクレスが片膝をすでについていた。
すぐに助けに入ろうと思ったけれど、何か会話をしているようだから聞き耳を立てる事にする。
「ぐっ……十傑、神雷の刃"徹"と言ったな。大した腕だ。様々な世界を渡り歩いてきたが、貴様のような実力者には早々会う事は無かったぞ」
「ヘラクレス、半神半人の英雄。十二の功業を成し遂げた存在かは知らないが、俺の神雷の前に敵は存在しない」
「では聞くが……何故それ程の力を持ちながら、悪事に加担する?」
「悪事?それは違うヘラクレス。必要な犠牲という事だ」
「まだ15に過ぎぬ少女を殺す事がか」
「そうだ。恨むなら、その身を恨めと言うしかないな。来世では平凡に生きれるように願っておこう。もっとも、この世界で生まれる事はもう無いだろうがな」
「その身……世界樹の器である事を恨めと?貴様は、何を……」
「少し話過ぎたか。まぁ良い、どの道ここで貴様は死ぬのだからな。神雷よ、我が前に立つ敵を薙ぎ払え!"Mjolnir"!!」
とてつもない魔力が空に生まれる。
危ない、あれを受けたらいくらヘラクレスでも!
「させるかぁぁぁっ!!」
「あ、アリスティア様!?」
「何!?」
「でやぁぁぁっ!!」
ドゴオオオオオオンッ!!
本気の一撃で、空に浮かんでいた魔力の塊を殴り飛ばす。
瞬間、その塊は弾け飛んだ。
「ば、ばかな……俺の"Mjolnir"を、吹き飛ばすだと!?」
いったぁぁ……手がジンジンしてるよぅ。
うーん、こいつ結構強いね。
「大丈夫ヘラクレス?」
「アリスティア様に来ていただけるとは……不甲斐ない姿をお見せする事になり、申し訳ありません……」
そう言うヘラクレスを一瞥した後、目の前の男に視線を向ける。
「………」
あれ?なんか震えてる。
どうしたんだろう?自慢の魔法を防がれてショック過ぎたとかかな?
「か」
「か?」
「可愛い……!あ、貴女のお名前を貴女からお聞きしたい!!」
ちょっと何言ってるか分からなくて思考が停止しちゃったよ。
「アリスティアだけど?」
「アリスティア嬢……!俺は徹と言います!貴女と是非お付き合いがしたい!」
「え、嫌だよ」
「ぐふぅっ!!」
正直な感想を言ったら、四つん這いになってしまった。
「な、ならば……俺の実力で従わせるしか方法はないようだ……麗しの姫よ、その身をできるだけ傷つけないように配慮は致しますが、どうぎゃほぉ!?」
ドゴオオオオン!!
口上が長いから、我慢できなくて殴っちゃったけど良いよね。
白目をむいて倒れてる。
こっちは時間が無いんだよー。
「ヘラクレス、あいつ捕まえておいてね。私は蓮華さんの所に向かうからねー」
「か、畏まりました」
後をヘラクレスに任せ、蓮華さんが向かった西門へ急ぐ事にする。
容疑者も確保できたし、蓮華さん褒めてくれるかなー♪
-アリスティア視点・了-
-ヘラクレス視点-
流石はアリスティア様だ。
あれ程の強さを誇った男を、一撃の元に倒してしまわれるとは。
意識を失った徹と名乗った男の元へ行き、魔封じの縄でくくる。
これで逃げる事はできないだろう。
その瞬間、首元に刃を突き付けられる。
「!!」
「声をあげないでね。首を落とされたくはないでしょ?」
何者だ。
一切の気配を絶ち、潜んでいたのか。
「……」
「こちらの要求は一つ、その男まだ使うから、返してもらって良いかしら?返してくれるなら、私も見逃してあげる」
その透き通るような魔力に只者ではない事を察する。
「お前はこの男と同じ、十傑という者か?」
「そう。十傑の一人、漆黒の刃"奏音"っていうの。その神雷もかなりの腕なんだけど……ちょっと相手が悪すぎたね」
十傑という事は、少なくともあと8人、これ程の腕を持つ者が存在するという事になる。
ここで、このまま戦うのは得策ではないと判断する。
「分かった。しかし、お前なら俺の命を奪えただろう。何故、取引を?」
俺が戦う気を無くしたのを見て警戒を解いたのか、縛った男の元へ行きながら彼女は答えた。
「んー、私の目的の為に、貴方を失うのは痛手かなーって思いまして。貴方も相当な実力者なのは分かります。この神雷相手に生きてただけでも、ね」
「聞いても答えてはくれないだろうが、その目的とは?」
彼女は笑った。
あどけなくも、悲しそうに。
「あはは、言ってもきっと信じてくれませんよ」
そう言って、徹と名乗った男を連れ、去って行った。
十傑……それが、新たな敵という事か。
俺の目的は魔剣の破壊だが……アリスティア様の妹様である蓮華様が狙われているのならば、見過ごす事はできない。
神雷……この次会う時は、負けぬ。
-ヘラクレス視点・了-