16.ジェミニ姉妹
ものすっごい豪邸に案内された。
そして、ご両親が居る部屋に通された途端、ご両親からも物凄い勢いで謝罪された。
よくよく考えたら、私公爵家の娘って事になってるんだよね。
もう気にしていません、仲直りしたからこそ、お世話になりに来ましたと伝えたら、凄く安堵しているようだった。
そして、カレンさんとアニスさんの三人になってから息をつく。
「ふぅ……二人のご両親、良い方達だね。いきなり訪問してきた私を嫌な顔せず泊めてくれるなんて」
なんとなく、そう言ったのだけど。
「それは、蓮華様が特別公爵家のご息女だからですよ。あの両親は、権力に弱いのです」
その言葉に、ご両親とは仲が良くないんだろうと察する。
「そっか」
とだけ答えておいた。
その答えが意外だったのだろうか。
「聞かれ、ないのですね」
と言ってきた。
「うん、話したくないでしょ?なら、話さなくていいよ」
なので、そう答えておいた。
だって、そんな親しい間柄じゃないし。
とまでは言わなかったけれど、何を勘違いしたのか。
「やはり、蓮華様は他のご令嬢とは違います。他のご令嬢は、こういう話に興味津々になりますのに」
そういうものなのか。
でも、私はそういうの興味ないしなぁ。
元平民ですよ私は。
なので。
「カレンはカレン、アニスはアニスで、ご両親はご両親でしょ?私は自分の目で見た事を信じるだけだよ」
と、まぁ噂話とか興味ないよと遠回しに伝えようとしたんだけど。
「「蓮華様……」」
なんだろう、二人の私を見る目が変わった気がする。
なんか、恍惚としてる。
変なスイッチでも入ったんだろうか。
インペリアルナイトの正装に身を包んでいる時は分からなかったが、二人ともかなりの美少女だ。
美女って思ってたけど、美少女の方だ。
何が言いたいかというと……。
「私は今年で14歳になったんだけど、二人は?」
って聞いたら、驚き少し言うのを躊躇ったように見えたけれど、少し時間をおいて答えてくれた。
「同じく14歳です。インペリアルナイトには、12歳の時になりました」
って言ったからだ。
12歳で国を任される存在になるとか、どれだけ過酷な修練をしてきたんだろうか……。
「頑張ったんだね。偉いよ」
つい、娘を見るような目で言ってしまった。
だって元はおっさんの年齢なんだもの。
そう思って、そう言ってしまうのは無理もないじゃないか。
でも、その言葉に二人は涙を流してしまった。
流石にこれには私も慌ててしまう。
「ご、ごめん!悪く言ったわけじゃないんだよ!?」
と。
でも、二人は違うと言う。
「ち、違う、んです。私、私達、そんな風に、言われた事、なくて……!」
「そう、そうなん、です。蓮華様、だけ、です。そんな事を仰ってくれたのは……!」
二人が泣きながら言ってくれる。
そっか、12歳で周りから頼られるようになって、辛くなかったはずがない。
まだ、両親に甘えたい時期だったはずだ。
自分の12歳の頃なんて、遊んでばかりだった。
二人の頭を撫でる。
「「あっ……」」
「偉かったね、辛かったね。今は私しか居ないから、うんと泣いて良いよ。それで、一杯泣いたら、また明日から頑張ろう。良く、頑張ったね」
想像だけしかできないけれど、辛かったろうと思う。
だから、今だけでも……甘やかせてあげる事にした。
それは、本当の年齢だけは彼女達より上の、私にだからこそできる事だと思った。
「「うわぁぁぁん!!」」
私に抱きつき、涙を流す二人。
それからしばらくの間、二人の頭を撫で続けてあげた。
「蓮華お姉様、醜態を晒してしまい、申し訳ありません」
「申し訳、ありません」
なんて言ってきて、驚いた。
「お、お姉様?」
そう、お姉様なんて言われたから。
「はい。勝手ながら、そう呼ばせて頂きたく思うのです。その……ダメ、でしょうか?」
とカレンが手を合わせて言ってくる。
アニスも見ればこちらをジッと見ている。
「ま、まぁ構わないけど……私なんかが姉で良いの、二人は」
「「蓮華様が良いのです!!」」
お、おお。
息ぴったりだよこの二人。
流石双子。
「わ、分かったから落ち着いて。カレンさんとアニスさんは」
「カレンです」
「アニスです」
呼びすてろって事ね。
「カレン、アニス」
「「はいっ!」」
「ふぅ、凄い変わりようだね二人とも……」
呆れて言う。
「蓮華お姉様に変えられてしまいました……」
なよっとしながら言う。
「それ絶対外で言っちゃダメだからね!?分かった!?」
慌てて言う。
「あはは、大丈夫ですよ蓮華お姉様。それくらい分かっていますから」
とカレンが言うけど、疑いの眼差しで見つめていたら。
「姉さんばかり構って狡いです。私も見てください」
何てアニスが言ってきた。
大丈夫かこの姉妹。
「私達、蓮華お姉様のお話が聞きたいです。就寝されるまでの少しの時間で構いません、お時間を頂けませんか?」
なんて、最初会った時では予想もできなかった事を言ってくる。
「あんまり、面白い話じゃないよ?」
と言いながらベッドに横になる。二人も揃って横になる。
川の字ってやつだね。
このベッド、ダブルベッドなんて目じゃないくらい大きいから、余裕を持って寝転がれる。
にしても、昔の私なら考えられなかったな……。
美少女二人を横に侍らせて寝るなんて。
というか犯罪だな、うん。
二人はと言うと。
「「えへへ、蓮華お姉様と一緒……」」
なんて、年相応の……いや、若干幼くなりすぎか?と感じる事を言っていた。
多分、昔に甘えられる相手が居なかった分、今甘えているんだろう。
なんか、兄さんの気持ちが分かった気がした。
まぁ別に、妹ってわけじゃないんだけど、甘えられて嫌になる人はそういないだろう。
それから、寝るまでの時間、私がこの世界にきての修行の日々の話をして、寝る事にした。
-カレン視点-
「ふぅ……二人のご両親、良い方達だね。いきなり訪問してきた私を嫌な顔せず泊めてくれるなんて」
そう蓮華お姉様が仰った時、あの糞親が褒められているようで、気分が悪かった。
だから、すぐに言ってしまった。
「それは、蓮華様が特別公爵家のご息女だからですよ。あの両親は、権力に弱いのです」
と。
言ってすぐに後悔した。
こんな事を伝えれば、何かあったのだとすぐ分かる。
詳しく根掘り葉掘り聞かれるに決まっている。
令嬢とは、他家の情報を知る道具なのだから。
けれど、予想していたものとは全く違った返事だった。
「そっか」
そんな、簡潔な一言だった。
意外すぎて、言わずにはいられなかった。
「聞かれ、ないのですね」
と。
そしたら蓮華お姉様は。
「うん、話したくないでしょ?なら、話さなくていいよ」
なんて、令嬢にあるまじき事を言ってきた。
どうして?他家の弱みを握るのは、令嬢の役割なのに。
相手の弱みを突き、他家より優位に立つための道具。
私もアニスも、そんな道具にすぎない。
なのに……。
「カレンはカレン、アニスはアニスで、ご両親はご両親でしょ?私は自分の目で見た事を信じるだけだよ」
この方は、違う。
道具としての私達じゃない。
私を、私達を見てくれる。
「「蓮華様……」」
思わず零れた言葉は、アニスと被ったようだ。
でも、アニスの気持ちは私の気持ちだ。
だから分かる。だって、双子の姉妹だもの。
そんな私達に、蓮華お姉様は聞いてきた。
「私は今年で14歳になったんだけど、二人は?」
驚いた。
蓮華お姉様と同い年だったなんて。
確かに蓮華お姉様は見目麗しいお方ですし、その笑顔は物凄く可愛らしいお方だった。
けれど、その包容力の高さが、どうしても私達よりずっと年上の方に思えてしまうのだ。
あの糞親共よりも、よほど……。
黙っているわけにもいかないので、答えた。
「同じく14歳です。インペリアルナイトには、12歳の時になりました」
言って、後悔した。
12歳のくだりはいらなかったかもしれない、と。
でも、蓮華お姉様は……。
「頑張ったんだね。偉いよ」
なんて……凄く優しい目をされて、優しい声で、そう仰ってくれて……
涙が、溢れてしまった。
止められなかった。
だって、誰も言ってくれなかった。
結果を出して、凄いとは言われてた。
その調子で頑張れとも言われた。
だけど……そんな言葉を望んでいたわけじゃなかった。
ただ一言、頑張ったねって、言って欲しかった。
ずっと、努力してきた。
他の人に負けないように、アニスと二人で、ずっと。
だから、その言葉に……胸から込み上げる想いを、止める事ができなかった。
「ご、ごめん!悪く言ったわけじゃないんだよ!?」
蓮華お姉様が謝ってくる。
違う、違うんです。
溢れる涙を抑えようとしながら、なんとか声を絞り出す。
「ち、違う、んです。私、私達、そんな風に、言われた事、なくて……!」
「そう、そうなん、です。蓮華様、だけ、です。そんな事を仰ってくれたのは……!」
アニスと二人で、泣きながら伝える。
どうか、この優しいお方に伝わるようにと……。
そうしたら、蓮華お姉様が頭を撫でてくださった。
「「あっ……」」
「偉かったね、辛かったね。今は私しか居ないから、うんと泣いて良いよ。それで、一杯泣いたら、また明日から頑張ろう。良く、頑張ったね」
もう、いっぱいいっぱいだった。
こんな気持ち知らない。誰も教えてくれなかった!
こんな、こんな温かい気持ち、知らなかった!
涙が溢れる。もう、止める事なんてできなかった。
「「うわぁぁぁん!!」」
恥も外聞もなく、蓮華お姉様に抱きついて、泣いてしまった。
蓮華お姉様は、そんな私達を優しく見守ってくれて、泣いている間ずっと、頭を撫でてくださっていた。
嬉しかった、こんな温かい気持ちにさせてくれたこの方を、気付けば私は大好きになっていた。
そして泣き止んで落ち着いた後。
「蓮華お姉様、醜態を晒してしまい、申し訳ありません」
「申し訳、ありません」
恥ずかしさで一杯だった。
アニスもきっと同じに違いない。
顔が真っ赤だから分かる。
私もでしょうけれど。
「お、お姉様?」
蓮華お姉様が驚いている。
そして気付いた、心の中で思っていた事を、ついそのまま言ってしまった事に。
こうなったら、押し通そうと思った。
もしかしたら、認めてくれるかも、という淡い想いもあって。
「はい。勝手ながら、そう呼ばせて頂きたく思うのです。その……ダメ、でしょうか?」
両手を合わせて、お願いしてみる。
アニスもジッと見て訴えているようだ。
「ま、まぁ構わないけど……私なんかが姉で良いの、二人は」
なんて仰るので
「「蓮華様が良いのです!!」」
と間髪入れずに答えた。
「わ、分かったから落ち着いて。カレンさんとアニスさんは」
「カレンです」
「アニスです」
私達に敬称何て不要なのです、蓮華お姉様には。
「カレン、アニス」
そして呼んで頂けた。
嬉しさに、すぐに返事をする。
「「はいっ!」」
少し声が高くなってしまったけれど、蓮華お姉様は気になされていない模様。
良かった。
「ふぅ、凄い変わりようだね二人とも……」
なんて仰られた。
自覚はあるけれど。
なので。
「蓮華お姉様に変えられてしまいました……」
しなだれながら言ってみた。
「それ絶対外で言っちゃダメだからね!?分かった!?」
蓮華お姉様が凄く慌てて仰られた。
あの蓮華お姉様が慌てているのがおかしくて、笑ってしまった。
「あはは、大丈夫ですよ蓮華お姉様。それくらい分かっていますから」
そう言うも、疑いのまなざしで見てくる蓮華お姉様。
そんな行動も、今の私には嬉しかった。
「カレンお姉様ばかり構って狡いです。私も見てください」
アニスも、少し私に嫉妬しているみたい。
分かるわアニス、蓮華お姉様に構っていただきたいのよね。
私もだもの。
「私達、蓮華お姉様のお話が聞きたいです。就寝されるまでの少しの時間で構いません、お時間を頂けませんか?」
このまま離れたくなくて、そんな提案をしてしまう。
もしかしたら拒絶されるかもしれない……言って少し不安になった。
けれど。
「あんまり、面白い話じゃないよ?」
と仰ってくれて、ベッドに寝転がろうとしていた。
私はすかさず右へ、アニスは左へ寝転がった。
拒絶されなかった嬉しさと、蓮華お姉様のぬくもりが嬉しくて。
「「えへへ、蓮華お姉様と一緒……」」
とアニスと揃って言ってしまった。
まさか、こんな日がくるなんて、想像もしていなかった。
もし、神様がいるのだとしたら、今なら信じます。
蓮華お姉様を遣わせてくれた神様の、信徒になります。
それから、蓮華お姉様のお話を聞いて、本当に久しぶりの……安らかな眠りが訪れた。
-カレン視点・了-
翌朝。
目が覚めたら二人は居なかった。
私より先に目が覚めたのだろう。
昨日はそのまま眠ってしまったから、着替える必要もない。
ベッドから起き上がり、椅子に座る。
テーブルには紅茶が置かれていた。
あの二人が用意してくれたのかな?
口をつけると、ほんのり温かく、甘くて美味しかった。
ゆっくり飲んでいると、扉が開いた。
「蓮華お姉様、おはようございます。朝食の準備が出来ておりますので、ご案内致します」
とカレンが言ってきた。
「うん、おはようカレン。っていうか、メイドさんとかに任せなくて良いの?カレンもアニスも忙しいんじゃないの?」
と親切心で言ったんだけど。
「蓮華お姉様のお世話をメイドにさせるなど、とんでもございません!今の私の最重要事項は、蓮華お姉様のお世話です!」
なんて言ってきた。
護衛って、そこまでするものじゃないよね絶対。
まぁ、気にしたら負けかな。
「列車って今日来るんだよね?それに間に合わせるように出立しないとね」
「はい!お任せください蓮華お姉様!」
心強い返事だったけど、うん。
変わりすぎだよね。