168.仮面の男の正体
-アーネスト視点-
セルシウスと共に駆けて行く蓮華を見送る。
蓮華を守りたいが、こいつらをさっさと倒して警備員に後は任せて、すぐに向かえば良いと判断した。
ノルンやヘラクレス程の奴らが苦戦するって事がにわかには信じられないけど、すぐに助けに行きたいのをぐっと堪える。
「アーネスト……アーネスト!!」
最初に剣を振るってきた奴が、また俺の名を呼ぶ。
一体なんだってんだ。
けど、見た所一番腕が立つのはこいつのようだ。
「皆、こいつの相手を俺がするから、倒すまでの間周りの奴らを頼むぜ」
「「「はいっ!!」」」
クルセイダーズの皆が返事をするのを聞いてから、目の前の男と戦いを始める。
幾度かの剣筋を凌いで、気になる事があった。
俺は、この剣筋を知っている。
幾度となく戦った剣筋。
ギンッ!!
お互いの剣が交差し、間合いが開く。
「おい、お前……どこかで俺と戦った事ねぇか?」
その問いに、奴は答えない。
ただ、俺の名を呼ぶだけだ。
仕方ねぇ……今は俺の疑問より、蓮華達の手助けに行くのが先だ。
『オーバードライヴ』を掛ける。
一気に仕留めてやる!
「オオォォッ!!」
「アーネストォ!!」
ギィィィィン!!
「何っ!?」
奴の力が瞬間的に上がった。
俺の速度に追いつき、防ぎやがった。
「『トルネードランサー』」
奴が魔法を唱える。
母さんが使った魔法より威力は数段劣りそうだが、この学園でこれほどの風魔法は他に見た事がなかった。
「チィッ!!」
仲間達を巻き込まないように、避ける。
ただ、それを読まれていたのか、避けた場所に奴が跳躍してきた!
「『雷流閃』!!」
「!?」
ギギィン!!
ギィン!!
「っぶねぇ!!!お前、その技はっ……!」
何度となく戦った。
お陰で、『雷流閃』の攻撃の流れを俺は体で覚えている。
だからこそ、音速を超える2撃を防ぐ事ができた。
初見では、何が起こったか分からずに直撃を受けるだろう。
あの蓮華ですら、防げなかったんだ。
「アーネストォ……オレ、オォ……コ……ウガァァァ!!」
凄まじい魔力の渦が巻きあがる。
その魔力に耐えきれなかったのか、仮面が音を立てて割れた。
その素顔は、俺のよく知っている顔だった。
「明っ……!!」
「「そんなっ!?」」
クルセイダーズの仲間達も驚愕している。
クルセイダーズには、執行部の連中が居る。
執行部を率いていたのは明だ。
その明が、今……俺達に刃を向けている。
「明!一体どうしたってんだ!?なんで俺達に刃を向ける!!」
「アーネストォ!!」
明がまた、俺に向かって剣を降るってくる。
それを防ぎながら、問いかける事をやめない。
「明!目を覚ませ!お前は俺達の仲間だろ!!」
「アア……ナカマ……ダカラ……オレ、ヲ……コロ、セ……スゥ!!」
ギィィィィン!!
「明っ!!」
俺はこの症状に思い当たる節がある。
タカヒロさんが体を憑依されていたあの術。
もしかしたら、明もそうなんじゃないか。
そして今、その憑依している奴と明が、戦っているんじゃないか。
そう考えた。
「明、悔しいけど今の俺じゃ、お前は救えねぇ……」
そう、ここには魔法に長けた蓮華やノルンが居ない。
だから……。
「抵抗できねぇように、一度ぶっ倒すぞ!愚痴は後で聞くからな!!」
「アーネストォ……!!」
足に力を込め、駆ける。
蓮華に貰ったアンクレットが、速度を上げる手助けをしてくれる。
「おらぁぁっ!!」
ブン!!
直前まで捕えられていた明が、瞬間速度を上げたのか見失う。
俺の一撃を避けた明、その姿を見つけたと同時に再度『雷流閃』を放ってくる!
「あた、るかよぉっ!!」
それを避けた直後!
"アーネスト、後ろ!!"
「!?」
ネセルからの声に振りむくと、すぐ後ろに明が居た。
明、俺より速くなってるってのか!?
ギィン!!
なんとか一撃を防ぎ、間合いを取ろうとするも、明が追いかけてくる。
「チィッ!!」
移動しながら剣が交差する。
勘違いじゃなければ、滅茶苦茶強くなってるぞ!?
「しょうがねぇ、手加減しねぇぞ明!!『鳳凰天舞』!!」
「『翔雷閃』!!」
俺の空中からの一撃を、空へ跳躍しながらの剣撃で相殺してくる明に舌を巻く。
そのまま空中に押し返された俺の元へ、明が更に跳躍してくる!
「お前、空中で更に跳躍とかどうなってんだ!?」
「『二之型・舞王閃』!!」
そんな俺の言葉に答える事もなく、空中で更に凄まじい速さの剣撃を浴びせてくる。
それをなんとか防ぎながら、先に地面に着地する。
明も遅れて着地しようと態勢を整える。
その隙、逃さねぇ!!
「喰らえ明!!『クロス・スラッシュ』!!」
ネセルを交差させ斬りつける。
「ガハッ!!」
直撃したが、倒れない。
「アー、ネス、ト……」
「明!?」
「ツギ、アウトキハ……カナラズ……コロス……」
そう言ったかと思うと、周りの奴が集まった。
一部仮面が剥がれている奴が居た。
そいつも、俺は見覚えがあった。
執行部の行方不明になった生徒だ。
「おい!?」
「レンゲ=フォン=ユグドラシルトモドモ……コロス……」
そう言い残し、魔道具を使ったのだろう、全員消える。
「会長、もしかして……」
クルセイダーズの皆が俺に近寄り、沈痛の面持ちで言おうとするのを、制する。
「……俺は蓮華の元へ行く。お前達は一応ここを頼む。また仮面の奴らが来たら、連絡してくれ。すぐに駆けつけるからよ」
「わ、分かりました」
そう言い残し、俺は蓮華の元へ向かう。
以前よりはるかに強くなった明が、敵として現れた事。
そして、蓮華と俺の命を狙っている事。
理由は分からない、だけど……この事件は、生徒達の失踪と他国での行方不明者が絡んでいるのは間違いなさそうだ。
無事でいてくれ蓮華!
-アーネスト視点・了-