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165.見つけた容疑者

 昨日のようなおちゃらけた空気はなく、皆事態を重く受け止めている。

 皆真剣に見回りをしたし、異変も無かった。

 なのに、生徒達がまたいなくなったのだ。

 確かにこの学園は広い。

 全てをカバーするには、この人数では難しいだろう。

 けれど、対策本部を設立して直後に、また同じ事件が起きたのだ。


「いなくなった生徒と、昨日私達が見回った場所を比べてみたよ。そうしたら、偶然かもしれないけど……私達が見回った場所でいなくなってる事が分かったんだ」


 その言葉に、皆驚いた顔をする。

 それもそうだろう。

 私が言っているのは、つまり……私達の中に、内通者がいると。

 そう言っているのだから。

 この広い学園を見回るのだから、移動する事になる。

 一度来た場所に戻るのは、他を見回った後。

 つまり、一度見た場所を移動したすぐ後なら……気付けない。

 こちらの見回るルートを知っているのは、こちら側の人間だけ。

 それを正確に把握していないと、できない事になる。


「もちろん偶然の可能性もあるよ。でも、偶然にしては、誰も気付けなかったのはおかしいとも思ってる。だから……もし敵側に内通してる人が居るのなら、教えてほしい」


 そう言って、周りの皆を見渡す。

 まぁ、そう言われてすぐに言い出す人なんていないだろう。

 だから、続ける。


「今この場所は、外から中の様子を伺えない結界を張ってもらってる。だから、安心して話して欲しい」


 そう、タカヒロさんが使っていた高位結界だ。

 それをこの部屋全体に張ってもらっている。

 しかし、それでも誰も何も言わない。

 まぁ、そうだよね。

 なので、賭けに出る事にした。


「……そっか。一応、最後のチャンスをあげたつもりだったんだけどね」


 そう言って、目つきを鋭くする。

 何名かたじろぐ姿が見えたが、構わず続ける。


「昨日セルシウスが渡したアーティファクト、実は機能がもう一つあってね。魔力感知を周囲に張り巡らせれるんだ。魔力の波長が一人一人、違う事は皆なら知ってるよね?で、その波長なんだけど……この学園の生徒達皆を、セルシウスは覚えてる」


 そこまで言って、顔が青くなる生徒をみつけた。

 大体の当たりをつけ、更に続ける。


「誰だろうねぇ、この学園の生徒達とは違う魔力の波長を受け取っている生徒がいたんだよね。これって、魔力通話してるって事なんだけど……まだ弁明はしない?」


「チッ……バレていたなら仕方がない。やはり、貴様は侮れないなレンゲ=フォン=ユグドラシル」


 うん、嘘なんですけどね。

 なんとなくそれっぽい事を言ったら釣れた。

 ここでそんな事言ったらかっこよく決めてるのが台無しになるので、言わないけど。

 セルシウスが唖然としてるのが分かる。

 そりゃ創った本人なんだから、そんな機能ない事は知ってるだろうし……ごめんなさい。

 それに、敵側に間違った情報伝わるのは利点だし?


「なんで学園の生徒達を攫う?」


「さぁ、下っ端の俺には分からないな。それに、俺はこの体を使っているだけだ。あわよくばもう少し利用したかったが……貴様らのような手練れに囲まれたこの状態では、勝ち目はなかろう。潔く死なせてもらう」


「させるわけないだろ」


 そうタカヒロさんが言ったかと思うと、彼は一瞬で拘束された。


「な、なにぃ!?た、魂までも拘束するとは、貴様一体っ!?」


 凄い。

 兄さんも同じような魔術を使ってた気がする。


「俺の事なんてどうでもいいだろ。その彼とお前は別人みたいだが、お前は情報を持ってそうだからな。蓮華、彼を少し借りても構わないか?魔界で尋問する」


「こちらから頼みたいくらいです。任せても良いですか?」


「ああ、任せろ。魔界に、拷問に長けた知り合いがいてな。あいつに任せたら、すぐ話してくれるだろうさ」


 アリシアさんが、うげ、あいつに頼むの?ご愁傷様……とか言ってる。


「お願いします。私達は引き続き、対策について話し合っておきますね」


「ああ。それじゃ少し離れるぜ。お前、楽に死ねると思うなよ?」


「ひ、ヒィィッ!?」


 なんか悪役みたいでかっこよかった。

 でもこれで、なんらかの情報は手に入りそうだ。


「なぁ蓮華、このアーティファクト、そんな機能もついてたなら言ってくれても良かったじゃねぇか」


「え?」


「いやだって、それならもっと他の方法だって試せただろ?」


「えーと……うん、あれ嘘だし」


「なっ!?」


「あはは、まさか本当に釣れるなんて思わなかったんだけど、やったね」


 皆苦笑してるのが分かる。


「お前って奴は……」


 アーネストは呆れてたけど。

 さて、詳しい話はタカヒロさんが戻って来たら分かるかもしれないけど、少なくとも敵と言える組織が存在する事が分かった。

 理事長にも報告しなきゃいけないし、これからの対策も強化しないとだね。

 今後の事をしっかりと話し合う私達だった。



-霧雨 奏音視点-



「駒から連絡が途絶えたですって?」


「ああ。何らかの事情があるのか、もしや……」


 そこで言葉を区切る朧を見て溜息を零す。


「はぁ、使えない駒ね。多分そいつ、捕まったと見るべきね。どうせ大した情報は洩れないだろうけど、もっとレベルの高い奴を潜入させれなかったの?」


「仕方あるまい。リスクが高まるからな。それに、もうかなりの戦力は見繕えたろう」


「……そうね。"ここ"からはこんなもので良いわね。朧、他の国に行ってる十傑は上手くやってるの?」


「ああ、大丈夫だ。予定通り戦力の確保は成功している。今、博士達が大忙しだそうだ」


「そう」


 反吐が出る。

 地上の人間達の体を依り代に、精神を憑依させ操る。

 もし肉体が死んでも、元の精神には傷一つ残らない秘術。

 天上界の最上位の存在、運命神ウルズ。

 その神がもたらした秘術は、人間に解けるものではない。

 大天使バルビエルによって結成された私達十傑は、憑依こそされていないが、皆己の意思で集っている。

 私、彩香こと奏音もその一人。

 十傑、漆黒の刃"奏音"、それが私の通称だ。

 他の組織からも勧誘はいくらでも来たけれど、現状この組織が一番、蓮二さん……もとい、蓮華さんに関わる。

 けれど、私はここに居る。

 私は、蓮華さんを守る。

 だから、この組織に居る。


「朧、ここからはそろそろ引き上げるわよ。一度本部へ戻るわ」


「承知した。俺は他の十傑の様子を見てこよう。先に行く」


 その姿が消えるのを見届ける。

 はぁ、めんどくさい……。

 蓮華さん、ごめんなさい。

 今しばらくは……敵でいる事、許してね。



-霧雨 奏音視点・了-


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