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160.天上界”ベルン宮殿”

-天上界-



「ユグドラシル……貴女が世界樹と成り、どれくらいの時が流れたのでしょう……地下世界では、確かに血で血を洗うような争いはなくなりました。けれど、その代償はあまりにも大きい……」


 そう呟く彼女は、天上界を治める三神の一神、ラケシス。

 彼女はユグドラシルと深い親交があった。

 そして、ロキと共に最後までユグドラシルがその身を犠牲にする事を反対していた。


「ロキ……貴方はフェンリルに自分の力を分け与え、神界を去ってしまった。そのフェンリルも、マーガリンとアリスティアの手により封じられてしまったようですが……ユグドラシルの事を最後まで案じてくれた貴方なら、私に手を貸してくれるでしょうか……」


 その憂いを内に秘めた瞳は、悲しげに揺れていた。

 ラケシスもまた、ユグドラシルがその身を犠牲にした事を悔やんでいた。

 その妹神であるイグドラシルの事もだ。

 ロキがユグドラシルを失って悲しみの末に地上・魔界を消滅させようとした事を、ラケシスは止めなかった。

 その気持ちが痛いほどに理解できるから。

 マーガリンにアリスティアが、ユグドラシルの気持ちを守ろうとロキと対峙した事を、ラケシスは止めなかった。

 その気持ちが痛いほどに理解できるから。

 結局、ラケシスは何もしなかった。

 いや、何もできなかったのだ。

 何をするのが正解なのか、正解だったのか……今も悩んでいるのだ。

 ただ、ユグドラシルとイグドラシルを犠牲にした事だけは、今でも許せていない。

 過去を想い、瞑想している所へ、金属のこすれる音が響く。


「ラケシス様!!」


 騎士の甲冑を纏った男が駆け寄ってくる。

 背には白く光る翼がある。

 天界の騎士である。


「なんですか、騒々しいですね」


「た、大変でございます!だ、大天使バルビエル様の意識が、戻られないとの事です!」


「なんですって……?分かりました、すぐに向かいます。場所はベルン宮殿ですね?」


「は、はい!」


 『ポータル』を使い、バルビエルの住むベルン宮殿へと転移するラケシス。

 そして寝室に入り見たものは、バルビエルの遺体だった。


「これは……肉体に損傷は無いにも関わらず、魂が死んでいる……成程、リンスレットですか」


 大体の状況を見ただけで察するラケシス。


「欠片は……まだ残っていますね。甦りなさい……『ライフリザレクション』」


 ラケシスの体から発する魔力が膨れ上がり、バルビエルの体を包み込む。

 消失され、ほとんど失われた魂の欠片から、元の魂の大きさまで修復される。


「っ……こ、ここは……俺は、魔王リンスレットに……」


「さて、それでは理由を聞かせて貰えますね?」


「!?こ、これはラケシス様!?」


 突然の天上界の支配者の姿に、平伏すバルビエル。

 それを意に介していないように、ラケシスは続ける。


「事情を説明しなさい。何故リンスレットと交戦したのです」


「こ、これには深いわけがありまして……」


 ガタガタと震えながら話すバルビエル。


「だから、それを説明しなさいと言っているのです」


「は、はい……実は……」


 そうして、ラケシスはバルビエルから、ユグドラシル復活の為にバルビエルが行った事を聞いた。


「成程、ユグドラシルを復活させる為に……その気持ちは私も共感できます。けれど、手段が悪いですね」


「も、申し訳ありません。あのユグドラシル様の化身めは、普段ユグドラシル領の中におり、マーガリンが近くで常に守っているようで手が出せぬのですが……今はそのユグドラシル領を離れ、ヴィクトリアス学園に在籍していると報告を受けた為、今が好機と功を焦りました……」


「その気持ちも分からなくはないのですが、貴方の行為のせいで、魔界での活動は難しくなるでしょう。もっと言えば、魔界と戦争になってもおかしくはなかったのですよ?」


「はい。しかしながら、魔界と戦争になった所で、我々天上界の戦力が負ける事はないかと……」


「魔界を下せば、マーガリンが動きます。リンスレットにマーガリンが手を組めば、いかに天上界の戦力が上回っていようと、尋常ではない被害を被るでしょう」


 溜息をつきながら、そう話すラケシスにバルビエルは項垂れる。


「申し訳ありません、軽率でございました」


「過ぎた事を言っても仕方がありません。魔界での布告が無い以上、貴方の行いは黙認されたのでしょう。不幸中の幸いですね」


「そうでしたか……。ラケシス様、我が組織"ウロボロス"は数百年前より、着々と戦力を増強しております。ご命令頂ければ、すぐにでも地上を支配できましょう」


「地上のマナは濃くなっています。我々天上人が行けば、体を蝕まれますよ。それを知らない貴方ではないでしょう」


「はっ。ですので、戦力は元々地上・魔界の者です」


「成程、考えましたね。その組織の筆頭は貴方なのですか?」


「いえ、俺の上にラケシス様も良く知る、あのお方がいらっしゃいます。そして俺の下には、十傑と称する者達がおります」


「……ユグドラシルの復活の為、という事は、まさか……!」


「はい。ウルズ様でございます」


「……詳しく聞かせなさい」


「仰せのままに」


 バルビエルの組織、"ウロボロス"。

 それは、地上を制圧する事、そして最終的に世界樹を破壊する事を目的に作られた。

 天上界の戦力を使わず、現地での同士討ちをさせる事で、どう転んでも天上界に被害のないように作られた組織である。

 女神ウルズにより作られ、大天使バルビエルが組織を拡大させていったのだ。

 その非情な組織の魔の手が、蓮華達を狙っていた。



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