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159.失う友

 翌日、タカヒロさんとアリシアさんから昨日のバルビエルの組織について、分かった事を聞いた。

 一つ、バルビエルは傘下の一人であり、黒幕は別に居るであろう事。

 一つ、その組織は魔界にも侵食しており、全てのメンバーを洗い出すには時間がかかるであろう事。

 そしてもう一つ、リンスレットさんが、この件を母さんや兄さんに話したという事。


「これ、もう俺達の出番なくね?」


 とはアーネストの言葉だけど、私もそう思う。


「まぁ、リンスレットが動いてくれる以上、魔界でもそいつらは行動し辛くなるはずだ。後は俺達に任せて、お前達は学園生活を満喫すると良い」


 そう笑って言ってくれるタカヒロさんだけど、これで良いのだろうか。

 狙われているのは私なのに、何もしないで待っているだけなんて……。


「あー……蓮華、お前の考えてる事分かるけどさ、なんで母さんや兄貴が動いてくれると思ってるんだ?」


「え?」


「お前や俺に、学園生活を楽しませたいって思ってくれてるんだろ?だから、動いてくれるんだ。その俺達が出張っちゃ、その気持ちを踏みにじっちまうぜ?」


「!!」


「はは、そういう事だな。安心して良い、へまをするような方達じゃないさ」


「そうそう、タカヒロと違ってね」


「やかましいわ!」


 タカヒロさんとアリシアさんのやりとりに、思わず笑ってしまう。

 和ませようとしてくれるアリシアさんの気遣いと、皆の優しさを感じながら。


「うん、そうだね。気にしても仕方ないか。でも、奏音ちゃんの事もあるから、何かあったら、教えてもらっても良いですか?」


「ああ、それはもちろんだ。どの道、俺とアリシアはこのままノルンが卒業するまでは学園に居る事になったからな。すぐに話せるはずさ」


「ま、連絡が来るのは私にだけど」


「ぐっ……まぁそうなんだが」


「タカヒロさん、アリシアはキツイよな、分かるぜ」


 アーネストがうんうんと頷きながら言ってた。


「な!?」


 アリシアさんの精神にクリティカルヒットしたっぽい。

 四つん這いになって項垂れた。


「だ、大丈夫かアリシア」


 タカヒロさんが声を掛ける。


「ほっといて……」


 小さな声だったけど、聞こえてしまった。

 うぅ、いたたまれない。


「さ、さーて、それじゃその件はとりあえずこれで終わり!そろそろ教室へ行こう皆!」


「おう、そうだな。明はもう行ってると思うし、カレンとアニスもそろそろ行く頃じゃないか?」


「アーくんは最近よく抜け出せるね?」


「ん?ああ、アリシアも一緒だからな」


「アーくん……」


 アリス姉さんがなんとも言えない表情をしている。

 分かるけどね……。


「おいアリシア、いつまでそうしてんだ?行くぜ?」


「え、ええ会長」


 アーネストに声を掛けられて立ち直るアリシアさん。

 タカヒロさんが不憫そうに見ているのが分かる。

 ごめんよ、私には何もしてあげられないから……。


「セルシウスは明先輩の事、どう思ってるの?」


 なんとなく聞いてみた。


「シルフと契約した男?」


 うん、それはそうなんだけど、それって中身まったく覚えてないんじゃ……。


「そ、そうだけど……」


「どうと言われても……アーネストの付属物?」


「……」


 もう何も言えなくなってしまった。


「どしたの蓮華さん?」


 もうアリス姉さんだけが心のオアシスかもしれない。

 アリス姉さんを抱きしめる。


「ほわぁっ!?」


「アリス姉さんはそのままで居てね」


「ななななななにがぁ!?」


 慌てるアリス姉さんだけど、それももはや私の清涼剤になってる。


「何やってんだお前は……」


 五月蠅いよアーネスト。

 心労のほとんどはお前の関係のせいだよ。

 それから教室に着いたら、カレンとアニスがすでに練習していたので、皆で混ざった。

 でも何故か、明先輩は今日、練習に来なかった。

 どうしたんだろう?アーネストに聞いても、分からないって。

 何か、あったんだろうか。




-草薙 明視点-



 執行部の皆と雑談を交わしていたら、そろそろ踊りの練習の時間になってしまった。

 皆を待たせるわけにはいかないし、行くとするか。

 なにより、大好きなセルシウスさんにまた会えるのだから。


「明さん、また行かれるんですか?」


「ああ、約束があるからね」


「えー、またかよ草薙先輩!いい加減、俺達にも教えてくれても良いんじゃないですか!?」


「すまないね皆。これは今は言うわけにはいかないんだ。大丈夫、もう少しで何をしていたのか分かるはずだから」


「まぁ、それなら良いですけど……あ、そういえば会議の議題に出すほどの事じゃないと思って、言わなかったんですけど……最近見た事もない生徒を時々見かけませんか?」


「見た事もない生徒、かい?」


「はい。俺達執行部は生徒達の顔を覚えてるじゃないですか。そりゃまぁ、完全とは言いませんけど……でも、明らかにうちの生徒じゃないって奴を見かけた気がして……」


「あ、それ俺もだ。でもさ、なんか次見た時はさ、やっぱ気のせいかって思うんだよな」


「私もそんな事あったなぁ。でも、最初は違和感あるんだけど、次はそれが無くなるんですよね。なんなんだろう、あれ」


 皆の言葉を聞くに、最初は違和感を感じるが、次にはそれを違和感と感じなくなるという事か。

 で、時間が経った今、それがまた違和感として残っていると。


「成程……もしかしたら、魔法を掛けられているのかもしれないな。そういった認識系の魔法もあるし、これからは普段そちらも無効にするマジックアイテムを装着して行動するようにしようか」


「「「分かりました!」」」


「その件で何か分かった事があったら、また知らせてほしい。それじゃ俺は行くよ」


 そう告げてから、皆の待つ教室へ向かう。

 本当はもっとその件について考えた方が良かったんだろうけど、今はこっちの方が優先だ。

 けど、それがいけなかった。

 もっと真剣に聞いておくべきだったのだ、その話を。


「前生徒会長、草薙明だな?」


 その声に足を止める。


「そうだけど、君は?」


「俺の名は……そうだな、(おぼろ)と名乗っておこうか。インペリアルナイト、ロイヤルガード候補のお前を迎えに来た」


「迎えに?悪いけど、俺は今はどの国にも士官する気はないよ?」


「ククッ、お前の意志など関係が無い。必要なのは、その体だけだ」


 朧と名乗った男が、刃を構える。

 小太刀か。

 俺も刀を構える。

 構えを見るに、相当な使い手だと分かる。

 けれど、アーネストやレンゲさん程の脅威は感じない。

 それに、ここは学園だ。

 戦いになれば、異変に気付きすぐに人が集まるだろう。


「助けを期待しているなら、無駄だ。ここには誰も来れない。お前はもう、籠の中の鳥だ」


「結界、か」


「そういう事だ。お前が通る道はすでに把握していたのでな」


「何が目的だ?」


「我が組織の兵になってもらう。今話せるのはそれだけだ。なに、案ずる事はない。目を覚ませば、お前は俺達の仲間だ」


「馬鹿な事を……ぐっ!?」


 後頭部に衝撃を受ける。

 そうか、一人じゃなかった、のか……!


「油断したね。さて、連れて行って朧。もう少し、見込みのありそうな人を攫うから」


「分かった。奏音、バルビエル様すら失敗したのだ。お前も蓮華暗殺に失敗したとはいえ、その腕が確かなのは分かっているが……油断するなよ」


「いらないお世話よ。さっさと連れて行って。大事な地上制圧の駒なんだから」


「ああ」


 薄れゆく意識の中で、最後に言葉を聞いた。


「ごめんなさい」


 その言葉を最後に、俺の意識は消えた。



-草薙 明視点・了-



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