15.王都・フォース
翌朝、アーネストは帰ってこなかったらしい。
会えなかったのは残念だけど、どうせすぐにまた会える。
「それじゃ、また行ってくるね母さん、兄さん」
「うん、気を付けてねレンちゃん」
「二人には私達がついてるという事、心に留めておくんですよ。頑張っておいで、蓮華」
そんな二人の優しい言葉に嬉しく思いながら、ポータルを起動する。
転移が済んだ後、驚きすぎて声が出なかった。
だっていきなり見る光景が、いきなりの兵の列だったのだから。
「「「「ようこそおいでくださいました、蓮華様!」」」」
統率されたその姿と声に、心臓がバクバクしてる。
な、なんなんだこれは。
驚いていると、ザッザッと足音がする。
振り向いてみるとそこには、白を基準とした、まるで物語の中に出てくる王子様みたいな恰好をした美女……そう、女性が二人居た。
もしかして……。
「お初にお目にかかります蓮華様。私はインペリアルナイトが一人、カレン=ジェミニと申します」
「同じくアニス=ジェミニです」
やっぱり。
「私は」
口を開きかけたけど、制される。
「ああ、名乗りは結構です。貴女の名前は存じておりますので。レンゲ=フォン=ユグドラシル様ですね。あの大魔道師、マーガリン様のご息女だとか」
「あ、うん」
なんか気を悪くさせる事したのかな?凄くキツイ目つきをしてくるなこの二人。
カレンさんが言葉を続ける。
「国王陛下のご命令により、蓮華様をオーブの元までご案内し、護衛せよと承っております」
「それは助かるんだけど、この人達も一緒に行くの……?」
物凄い兵の数なんだけど。
「ご心配なく。護衛は私達二人のみです。それでも十分すぎる戦力と思っておりますが、不安でしょうか?」
なんとなく、初対面の人にキツイ当たり方をしてくるので、ちょっと腹が立っていた。
だから、ちょっと挑発するような言葉を言ってしまった。
「そうだね、私は貴女達の強さなんて知らないし。不安もなにも、分からないとしか」
その言葉に。
「「っ!?」」
カッと目を見開く二人。
周りの兵士達もオロオロしているのが分かる。
「へぇ、家が高貴なだけのお嬢様が、言ってくれますね」
なんて言ってきた。
もはやこいつらには言葉を丁寧にしてやる必要はないなと判断する。
「なんなら、試してみるかい?そのお嬢様に、こてんぱんにされる覚悟があるなら、ね?」
おもいっきり挑発してやった。
うん、やっぱ男だった時の気概が抜けてないな。
基本負けず嫌いだしなぁ。
その言葉を挑戦状と受け取ったようだ。
「良いでしょう。場所は騎士団の訓練場で良いですね?そこで戦いましょう」
「良いよ。二対一でもね」
その言葉に氷のような表情を張り付ける。
「後悔致しますよ」
そう言って歩き出す。
私もついて行く。
はぁ……着いて早々、厄介な事になったな、自業自得かもしれないけど。
歩く事数分、訓練場にやってきた。
広い。
それに、騎士達が凄い数集まっている。
「これはなんの騒ぎだ」
身なりがカレンさんとアニスさんそっくりの、男性がきて言った。
成程、この王子様みたいな服は、インペリアルナイトの正装なんだな、と理解した。
「失礼。ただ、ユグドラシル家の令嬢が、インペリアルナイトを馬鹿にしてくださったので、実力を見せる事にしただけです」
とカレンさんが答えている。
成程、そう取ったか。
それを聞いたこの男性が、私に本当か?という目を向けてきた。
「馬鹿にしたわけではありませんが、最初に私を小馬鹿にしたような態度をとってきたので、言い返した感じですね」
その言葉に、驚いた表情をする。
「はぁ……成程、理解した。その、ユグドラシル嬢」
「蓮華で構いませんよ」
「では、蓮華様。俺はインペリアルナイトが一人、セシル=セイントと申します。此度の事、誠に申し訳ない。すぐにこんな事は止めさせるように言って聞かせますので、ご容赦願えませんか」
だが、それは聞かない。
「いえ、このまま戦って構いませんよ。私も、馬鹿にされたまま引き下がるつもりもありませんから」
その言葉に驚愕するセシルさん。
「正気ですか、インペリアルナイトを二人も同時に相手にするおつもりですか?更に言うなら、この二人は本当に強」
言葉を言い切らせる前に言う。
「くどい」
と、殺気を込めて言った。
「っ!!」
後ろに下がるセシルさん。
それを見ていた二人は。
「もしかして、あの方は……いえ、そんなわけがない。どうせ、あの方も見せかけだけよ」
「カレンお姉様、戦えば、分かります」
「えぇ、そうねアニス」
私の前に、武器を構え並ぶ二人。
カレンさんは剣、アニスさんは鎌を手に持っている。
「セシルさん、審判をお任せしても良いですか?」
「構いませんが……どういう判断をすれば良いですか蓮華様」
「そうですね、相手が負けを認めるか、これ以上やれば命を落とす、と判断をしたなら、止めてくださって結構ですよ」
「なっ!?」
セシルさんが驚く。
「大丈夫です、セシルさんが止めるのは、私になるでしょうから」
「舐めてくれますね。マーガリン様が立派なのは認めますが、そのご息女になれただけの貴女が!」
母さんの事は悪く言わないみたいだから、うん、半殺しで勘弁してやる。
そう心に決めて相手を睨む。
「……分かりました。それでは……はじめ!」
セシルさんの声が響く。
いつもなら私は待ちから入るのだが、今回は別だ。
駆ける。
相手の目の前まで。
カレンさんの目の前に1秒と経たずに私は現れる。
「なっ!?」
驚くカレンさんだが、遅い。
ギィン!!
私の初撃を防ぐ。
「へぇ、やるじゃないか。でも、私を馬鹿にしたんだから、この程度は」
言って踏み込む。
「出来て、貰わないとね!」
ソウルを振り上げ、振り下ろす。
が、防がれる。
中々良い腕だ。
剣撃を続ける。
ギィン!ギィン!ギギィン!!
「くっ……なんという剣撃の鋭さっ……!貴女、本当にご令嬢なの!?」
「この姿を見て男だと思うなら、どうぞ、ご勝手に!」
ギィィィン!
ズザァァッ!
私の払いの一撃を防ぎ、後方に吹き飛ぶカレンさん。
後ろからアニスさんが来ているのが分かる。
「甘いっ!」
ギィン!!
「っ!?」
死角をついてきたアニスさんの一撃を防ぐ。
そしてお返しとばかりに剣撃を浴びせる。
ギン!ギン!ギギン!
「な、んて……強力な、一撃っ……!」
アニスさんの頬に汗が滴る。
私達の攻防に、周りの騎士達が口を開けて呆けている。
この世界の人達って、もしかして弱いんだろうか。
ロイヤルガードのシリウスも、言ってはなんだがそんなに強くなかった。
けれど、母さんや兄さん、アーネストは私と同じか、それ以上に強いので、そんな実感が無かった。
まぁでも……こいつらは強いと思う。
私の攻撃を、悉く凌いでいるのだから。
「「はぁはぁっはぁっはぁっ……」」
二人が息を切らしている。
私は平静だが。
「化け物、ですかっ……!」
さっき令嬢とか言ってなかったっけ。
「女が皆弱いと思ったのか?私は私より強い女性を知ってる。お前達のように、初めから相手を舐めたりしない」
「「!!」」
その言葉に衝撃を受けたのか、二人は武器を落とす。
カランカラン、という音がやけに響く。
「そこまで!勝者、レンゲ=フォン=ユグドラシル!」
セシルさんの声が聞こえた。
喝采は無かった。
ただ、皆信じられないものを見るように、誰も口を開けない。
コッコッ
私は二人に近づく。
一瞬、ビクッと体を震わせる二人に。
「令嬢だって、強いだろ?」
って笑って言ってやった。
-カレン視点-
「令嬢だって、強いだろ?」
そう、目の前の美しい令嬢に笑顔で言われた。
とても可愛らしい笑顔で、美しさと絶妙に噛み合っていた。
悔しいと、普段なら感じるはずだった。
なのに、不思議とそんな感情は湧かなかった。
確かに令嬢にしか見えない。
美しく、流れるような黒髪に、全てを見透かすかのようなエメラルドグリーンの瞳。
整った胸も、引き締まった腰も、女性としての魅力が詰まっている。
なのに……この方に、異性を感じる。
普通の令嬢であれば、私の接し方に俯いてしまう。
目を合わせようともしない。
そして誰かに泣きつくのだ。
そう。
周りの女性とはそういうものだと理解していた。
だから、私もアニスも、女性を嫌っていた。
弱い、女性を。
だというのに……この目の前の誰よりも令嬢らしく見える令嬢は、私達よりも強かった。
戦いの前に殺気を向けられた時、立っているだけでも異様な精神力が必要だった。
どうして私は、これ程の方と刃を向ける事になっているの?と自問自答してしまうほどに。
まぁ、自分が原因なのは言うまでもないのだが。
何故だろう……あれほど毛嫌いしていた女性だというのに。
妹のアニス以外、どうでも良い存在だったのに。
今、私は……この方に、恋をしたのかもしれない。
-カレン視点・了-
どうしよう、反応が無い。
見れば二人はぼーっと私を見ている。
なんというか、やってしまった感がある。
なんであんなムキになったんだよ私……。
後悔が押し寄せる。
もっと落ち着いて対応してれば、こんな事にならなかったよね?
もう、手遅れだけどさ、あははは……。
と思っていると、声を掛けられた。
「蓮華様」
「う、うん?」
「蓮華、様」
「うん」
「蓮華様、蓮華様」
「だからなんなんだよ!?」
怒鳴ってしまった。
でも、それに怯んだ様子はない。
「蓮華様、この度の事、誠に申し訳ありませんでした」
「え?」
「私は、いえ、私達は……女性が嫌いでした。弱い、女性が」
えぇぇ……と思ったけど、話を聞く。
「そしてその延長で、蓮華様にも当たってしまいました。ですが、今までの相手ならば、こんな返しをしてくる者はおりませんでした。だから……調子に乗っていたのだと思います。本当に、恥ずかしい事です」
なんて言ってきた。
あー……元が男の私は、そういう挑発に乗っちゃったけど、女の子はそうもいかないよね。
それも相手が地位のある相手だし、声を荒げる事だってできなかったはずだ。
負のスパイラルってやつかな。
うん、言ってみたかっただけ。
「うん、まぁ気にしてないよもう。私も大人げなかったと思う。ごめんね?」
「許して、くださるのですか?」
二人が信じられないものを見たとでもいうような表情で見てくる。
失礼な。
「お互いにごめんなさいをしたら、それでおしまい。水に流そう?ほら、二人は私を案内してくれるんでしょ?仲良く行こうよ」
「「はいっ!」」
初めて笑顔で言ってくれた。
横でセシルさんが、やれやれといった表情で見ている。
まぁ、雨降って地固まるっていうか、遠回りしたかもしれなけど、結果的に良かったのかもしれない。
それに、この二人は本当に強かった。
割と手加減してなかったのに、全部私の攻撃を凌いだのだ。
あのまま戦っていたら、どうなったか分からないのだから。
で、そのまま行こうと思ったら、オーブがある遺跡の近くを通過する列車が、明日にならなければ戻ってこないそうだ。
なので、一泊しないといけないみたいだ。
なら一旦帰ろうかなと思ったのだが。
「「是非、家へいらしてください!」」
二人がそう言うので、お世話になる事にした。
話も色々聞けそうだし。