158.語らい
-魔界-
「アスモ、タカヒロ。私は少し出るが、引き続き頼んだぞ」
「はーい」
「あいよ」
二人の返事を聞き、その場を後にするリンスレット。
向かうは地上のユグドラシル領。
マーガリンと会う為だ。
-地上・ユグドラシル領内・マーガリン宅-
「ねぇロキ、アーちゃんにレンちゃん、元気にしてるかしら」
「ふぅ、何度目の質問ですか。アーネストと蓮華に何かあれば、アリスから連絡が……どうやら珍しい客が来たようですよ」
「そうみたいね。ちょっと出てくるわ」
そう言い、外に出るマーガリン。
マーガリンが外に出るとほぼ同時に、空より降りてくる者が居た。
リンスレットである。
「邪魔するぞマーガリン」
「いらっしゃいリン。闘技大会以来ね?」
「そうだったか?今日は蓮華とアーネストの事で話があってな」
その言葉に反応したのは、マーガリンではなくロキだった。
「ほぅ、二人の事ですか。それは私も聞いても?」
「ああ、大丈夫だ。むしろ、お前にも聞いて貰えるなら助かる」
「ふむ?」
その言葉に訝しむロキだったが、マーガリンが答えた。
「とりあえず、こんな所じゃなんだし、中へどうぞ?」
「分かった」
そうして二人、ソファーに座る。
ロキはそこには座らず、少し離れた位置で壁にもたれかかっていた。
「こちらへ来ないのか?」
そうリンスレットが問うが、ロキは澄ました態度で答えた。
「結構ですよ」
その態度に、変わらないなと微笑むリンスレットだった。
「相変わらず、アーちゃんやレンちゃん以外にはつれないわよねロキは」
そう零すマーガリンだが、ロキはどこ吹く風である。
「それでリン、わざわざ会いに話に来たって事は、それだけ重要な事なのね?」
「ああ。どこに漏れるかも分からんからな。一応、念の為聞いておくが……蓮華とアーネストの召喚の話、他言していないのだろう?」
「当たり前でしょ」
「ふむ、ならやはり、どこかに密偵が潜んでいたか、もしくは……蓮華達の元に居るのか、だな」
その言葉に、マーガリンとロキの目が険しくなる。
「どういう事?」
「蓮華とアーネストから、ある事がきっかけで話を聞いてな。そのある事、も今から話す」
そうして、リンスレットは蓮華とアーネストから聞いた話と、天上界のバルビエルの件を話した。
「成程ね……」
「ふむ、その奏音という者が独自に調べたのではなく、ですか?」
ロキが確認するように聞く。
「私に命令してきた人に、聞いたからと蓮華が言っていた。つまり、蓮華を始末するように命令した者は、蓮華の事を知っているという事だ」
その場が沈黙に包まれる。
しかしそれを破ったのはマーガリンだった。
「でも、アーちゃんの事は知らなったのね?」
「「!!」」
「だって、レンちゃんは召喚されたアーちゃんから、複製された魂を入れられた存在なんだよ。だから、その奏音という者がアーちゃんに接触をしなかったのは、知らなかったからじゃないかしら」
「確かに。となると、そこまで詳しくは知らないという事か。そうなると蓮華の周りの者ではないか」
「ほぅ、どうしてそう思うのですか?」
「フ、私も少し会話しただけだが、分かるさ。蓮華は自分の信じた人には話しているんだろう?」
「さて、私からは言えませんが……そうですね、貴女の推察は正しいのではないでしょうかね」
そうロキが言うのを、微笑んで聞くリンスレット。
お互いに、言葉を尽くさずとも理解しているのだ。
「とりあえず、天上界がレンちゃん狙ってるなら……潰しましょっか」
「そうですね。そろそろ滅ぼしますか、目障りですし」
立ち上がるマーガリンとその身に魔力を宿し始めたロキを慌てて止めるリンスレット。
「ま、待て待て!お前達本気で潰す気だろ!?」
「そうだけど?」
「そうですが?」
二人の友人のあんまりな言葉に一瞬唖然としてしまうリンスレット。
だが、リンスレットは知っている。
この友人達が本気を出したら、確実に天上界は滅ぶ事を。
「すまん、抑えてくれ。天上界は、まだ潰れてもらっては困るんだ。魔界の秩序の為にも……」
「えー……それじゃ、レンちゃん狙う馬鹿だけは仕留めても良い?」
「それは構わない。今、アスモとタカヒロに命じて調べさせている。少し時間をくれないか」
「ふむ……もろとも消す方が憂いもないと思いますがね。良いでしょう、その組織の情報が分かり次第連絡を。それと、アーネストと蓮華の知り合い……奏音でしたか?その者の素性も調べてもらえますか?」
「ああ、もちろんだ」
その言葉に、腰かけるマーガリン。
ロキもまた、壁を背にもたれかかる。
「そうだ。話は変わるが、アリスティアが魔界に来たいと言っていたぞ」
「アリスが?無理でしょ?」
「無理ですね」
二人が同時に言うので苦笑するリンスレット。
「私もそう言ったんだけどな。ただ、今の魔界なら大丈夫なんじゃないか、と言って聞かなくてな。二人のどちらかが一緒なら、試しても構わないと折れたんだ」
「あー、確かに魔界のマナの質が変わったものね」
「アーネストと蓮華のおかげですね」
そう微笑むロキに笑ってしまうリンスレット。
「お前は二人の事になると、顔が変わるな」
「そうですか?」
「ああ」
「ホントね」
マーガリンとリンスレット二人に頷かれる。
けれど、ロキは今の自分を心地よく思っていた。
「それは、嬉しい事ですね。私にもようやく、ユグドラシルの気持ちが少しは理解できたという事なのでしょう」
ロキのその言葉に、二人は顔を見合わせて微笑んだ。
そして、三人は昔ながらの雑談を始めた。
中身は蓮華とアーネスト、そしてノルンの事に移っていくのだが、その語らいは夜まで続いた。
-魔界-
「なぁアスモデウス、リンスレット遅くないか?もう夜だぞ」
「うぅー、学園の仕事も溜まってるだろうし、明日辛いんだけど……タカヒロ、明日は手伝ってーお願いだから……」
「はぁ、分かったよ。とりあえず、蓮華とアーネストに話せるところも纏めたし、飯にするか。なんか作ってやろうか?」
「お願いー……疲れたー……」
「お前、学園でそんなだらしない姿見せるなよ?」
「大丈夫よー……リンとタカヒロの前くらいだからー……」
「やれやれ……」
魔界のリンスレット城執務室では、二人がリンスレットの帰りを待っていたのだった。