156.VSタカヒロ(2)
「この俺を倒す、か……アリスティア様の力が封じられたその状態で、そんな事が可能だと思うとは、愚かしい」
凄まじい魔力を身に纏い、タカヒロさん……もとい、バルビエルが言う。
確かに、その魔力の高さは、私達を超えている。
恐らく、タカヒロさんの力とバルビエルの魔力が融合している。
今まで戦ってきた相手の中でも、最強の相手かもしれない。
ソウルを構える。
「この力の差を感じても尚、挑むか。大人しく殺されていれば、苦しまずに済むものを……では、お望み通り……苦しみながら死ねぇっ!!」
「「おおおおっ!!」」
ガギィィィン!!
アーネストと二人ががりで、バルビエルの攻撃を受け止める。
「「せいやぁっ!!」」
そこに、アリス姉さんとセルシウスの蹴りが背中にヒットする。
が、効いていない!?
「フ、俺の障壁すら破れぬようでは、その計画はそもそもが破綻しているな!降り注げ閃光!『アトミックレイ』!!」
バルビエルが光の球を空に投げたかと思うと、その球が弾け、一斉に降り注ぐ。
キュドドドドドッ!!
絶え間なく降り注ぐ光の雨は、避けた後も容赦なく地面を抉る。
「消えなさい!『バニッシュメント』!」
瞬間、光の球が消滅する。
大元の球が消えた事により、光の雨も消える。
「ノルン!」
「あいつから目を逸らすんじゃないわよ蓮華!タカヒロの体を操ってるなら、様々な技を繰り出してくるわよ!」
その言葉に、すぐに視線を戻す。
「チッ……厄介な小娘だ。希少な消却の魔法を使うとはな」
「アンタはタカヒロの力は使えても、昔の記憶までは覗けないみたいね」
「力さえ使えればそれで十分。この体は凄まじい力を保有している。流石はあの魔王リンスレットに気に入れられているだけの事はある」
「アンタなんかにタカヒロは勿体ないわ。私に指図した事も含めて、百倍にして返してやるから」
そう不敵に微笑むノルンは、いつもの調子に戻っている。
良かったと思うと同時に、頼もしく思う。
あのノルンが、味方に居る。
それが嬉しくて。
「フ……貴様らの力では不可能だ。大天使の力、味あわせてやろうっ……!」
辺りの草木がざわめく。
強大な魔力がバルビエルの……タカヒロさんの体を覆う。
「レンゲ、あれは不味いわ!私を憑依させなさい、早く!」
セルシウスが焦って言う。
私は頷き、すぐに『精霊憑依』を行った。
「おいネセル、力貸してくれ。こいつぁ、ヤバい……!」
アーネストも力を感じ取ったのか、ネセルと会話しているようだ。
私もセルシウスとの憑依を終える。
アリス姉さんはというと、バルビエルではなくどこかを見ている。
「どうしたの、アリス姉さん?」
「……うん、何か視られている気がしてね。気のせいかもしれないけど……」
こういう時のアリス姉さんの勘の良さは無視できないけど……。
「来るわよ皆!!」
ノルンの言葉と同時に、バルビエルが突撃してくる!
「神の力に平伏すが良い!!」
ガギィィィ!!
「神がホントに居るとしても、お前は神じゃねぇだろっ……!」
アーネストがネセルをクロスさせ、防ぐ。
そこに私とノルンが同時に攻撃を仕掛ける。
「「はぁぁぁぁっ!!」」
「甘いわぁっ!闇の慟哭を聞け!『ブラッディ・ネクロスフィア』!」
ギュォォォォッ!!
紫色の波が、私達を飲み込む!
「うぐっ!!」
「くぅっ!?」
そのまま地面へと叩きつけられる。
「蓮華!ノルン!おぃハルマゲドン!テメェ天使のくせに闇魔法使ってんじゃねぇ!!」
「あはっ!あはははっ!!アーくん、ハルマゲドンって!!」
アリス姉さんが笑う。
私も波から抜け出した所でそれを聞いて、吹いてしまった。
「愚か者め!俺の名はバルビエルだ!ルしか合っていないだろうが!?それに闇魔法は今更だ!憑依自体が闇魔法であろうがっ!」
確かに。
律儀に突っ込んでくれるハルマゲ……バルビエルに感心してしまう。
「ノルン、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。普段なら弾ける魔法だから油断したわ。あのハルマゲドンの魔法の威力が高いのね。名前の割に強いじゃない」
ノルン、それ名前違う……まぁ良いか。
なんか、遠回しにハゲって聞こえちゃうんだけど、なんでだろうね。
私の中で、会った事もないバルビエルのイメージが、頭の光るニヒルな感じの白い修道服着て笑う天使のおっさんになってしまった。
どんなだよ!と自分につっこみをいれたくなる。
ギギィン!!
「チィッ……!野郎、オーラまで使えんのか!」
そんな事を考えていたら、アーネストがこっちまで弾き飛ばされてきた。
うん、真面目にしないと。
その瞬間、アリス姉さんが攻撃を仕掛け始めた。
ギンギンギンギンギン!!
「流石に早いですなアリスティア様!」
「大人しく喰らえー!!」
凄い、あのアリス姉さんの連撃を全て防いでいる。
というか、これダメージを与えられるのか!?
「アーネスト、ノルン。タカヒロさんの力ってだけでも厄介なのに、アイツの力も足してるからか、アリス姉さんですら押せてない。だから、私達三人で同時に仕掛けよう!」
「ああ、それっきゃねぇな。タカヒロさん自体、アリスと互角に戦えてたもんな……けど、あいつはタカヒロさんじゃねぇ、やれるはずだ!」
「ええ、そうね。私もタカヒロには勝てた事ないけど……アンタ達と一緒なら……!」
アーネストとノルンの言葉に微笑む。
嬉しいね、信頼できる二人と一緒に戦える。
「よし、行くよ!!」
「「おおっ!!」」
三人でアリス姉さんに加勢する!
「こんのっ……!!皆!?」
「何っ!?」
アリス姉さんとの戦いに集中していたせいか、私達に反応が遅れるバルビエル。
その隙、逃すかっ!
「喰らえっ!『地斬疾空牙』!」
「ネセル、力を貸せ!『二刀烈風剣』!!」
「タカヒロ、耐えなさいよ!『音速剣』!」
私達三人の同時攻撃が、バルビエルに直撃する!
「ぐぁぁぁっ!!お、おのれぇ……!この俺にここまでのダメージを……!?」
「蓮華さん!」
「分かってる!『ヒーリング』」
その直後、タカヒロさんの傷を癒す。
魔力の流れが他に流れないように注意して、タカヒロさんの傷だけを癒すように。
「な、に……傷は治っている……のに、俺のダメージが消えていない、だと?」
「私が治したのは肉体だけだ。精神はお互い摩耗したままなんだよ」
「!?」
「タカヒロさんがお前なんかに負けるわけないって信じてるからな。俺達は信じて、攻撃を続ける!」
「き、貴様らっ……!!」
「スキヤキぃっ!!」
ドゴォッ!!
「ぐほぉっ!?」
タカヒロさん、もといバルビエルがアリス姉さんのパンチを受けてぶっ飛ばされる。
あれ、オーラ使ったよねアリス姉さん。
確か、昨日オーラにはあの腕輪、あんまり効果ないとか言ってませんでしたっけ……。
恐る恐るタカヒロさんの方を見ると、殴られた場所が酷い事になってる。
「うわぁ、あれ破裂してんじゃねぇか……」
「ちょ、蓮華!早く治して!!」
「う、うん!」
あれはバルビエルの本体、凄まじいダメージ受けてるんじゃないかな……。
一歩間違えたら死んでるよこれ……。
「ぁ……ぐ……がっ……な、なんという、一撃か……こ、れが、アリスティア様の、お力か……ゲホッ!ゴホッ!」
タカヒロさんの傷は治したのに、苦しそうなバルビエル。
これはもしかして……!
「し、しかし、タダでは死なん。この、体ごと、貴様らもろとも爆破してやる……!」
瞬間、凄まじい魔力が集まる。
ま、まずい!
「蓮華さん!」
アリス姉さんが私の前に出る。
「アリス姉さん!?」
「大丈夫、蓮華さんだけは、私が守るからね。アーくん、ノルン、二人までは無理かも……ごめんね」
気付けば、アリス姉さんが腕輪を外している。
「気にすんな、俺も全力でガードするさ!」
そう言うアーネストの額には、汗が見える。
防ごうにも、もう間に合わない!
「タカヒロっ!!」
「ふはははは!俺は死んでも、貴様らを消せれば我々の勝利だ!ユグドラシル様、今そちらに……!」
「戯けが、させるか」
今にもはち切れそうな魔力が、爆発……しなかった。
魔力が一瞬で消され、ただ棒立ちしているバルビエル。
「な、んだと……」
コッコッ
「全く、結界を張るとはな。探すのに手間取ったぞ」
「り……リンス……」
「大丈夫だったか?あんまり心配させるなノルン」
「リンスレットー!!」
ノルンが駆け寄り、抱きついた。
魔王・リンスレットさんだった。
あの魔力を消し、無効化してのけた。
リンスレットさんは、ノルンの頭を撫でている。
「救護室に行ったら、お前とタカヒロの姿が無かったからな。動き出したかと思ってな」
「動き、出した?」
ノルンがきょとんと聞いている。
「ああ、心臓に杭を打たれているのに気付かないわけがないだろ?あのタイミングで来ていた奴なんて調べればすぐに分かる」
「な、ならもっと早く来てよ!?」
「私に何も言わずに行ったのは誰だったか?」
くっくっと笑いながら言うリンスレットさんに、何も言えなくなるノルンがおかしかった。
「さて、バルビエル。私に何か言う事はあるか?」
「ま、魔王リンスレット……貴様は何故、魔界など治める!地上のマーガリン、魔界のリンスレット!それでユグドラシル様の意思を守っているつもりなのか!」
「そうだ。あいつは他の種族の繁栄を願った。そして、今も共にある」
「そんな事は偽善だ!あのお方が居ないこの世界に、何の価値があるというのだ!」
「……」
「我々はユグドラシル様を復活させる!地上も魔界もなくなれば、世界樹など必要あるまい!」
「……言いたい事はそれだけか?我々と言ったな、大方天上界のあいつだろうが……準備が出来たら、私が始末してやるから安心しろ」
「なっ!?」
「死ね」
「っ!?」
ドサァ!!
瞬間、世界が歪んだかと思った。
気付けば、タカヒロさんが倒れていた。
だけど、リンスレットさんが傍に寄って、起き上がらせた。
「おい起きろ。もう繋がりは消えたろ。全く、油断したな」
「あ、ああ。助かったぜリンスレット……それに、皆」
私達は二人の元に駆け寄る。
「大丈夫なんですか?」
「ああ、問題ない。それより、すまなかったな」
「いえ、大丈夫なら良かったです。アリス姉さん、割とマジで殴ったから心配したんですよ」
「酷いよ蓮華さん、ちゃんと手加減したよぅ」
「それであの威力なのか……!?」
タカヒロさんが割と本気で言ったので笑ってしまった。
「ははっ!アリスのあの一撃受けて、死んでないのがすげぇって!」
なんてアーネストも笑っている。
「さて、予想はできているが、話してもらえるか?」
リンスレットさんがそう言うので、彩香ちゃんから聞いた話を、リンスレットさんに伝える事にした。
何かが、動き始めている。
そう感じた。