表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

156/712

155.VSタカヒロ(1)

-魔界-



「……ここは……」


「タカヒロ!目が覚めたのね!?良かった……」


 魔王・リンスレット城の救護室。

 その一室で、タカヒロは寝かされていた。

 ノルンは話を聞き、すぐに魔界へ転移し、それからずっとベッドの横で看病をしていた。

 その瞳は赤く腫れ上がり、泣いていたのが見て取れる。


「すぐにリンスレットに知らせてくる!」


 そう言うノルンを引き留めるタカヒロ。


「いや、それは良い。それより、学園に戻って蓮華に話したい事がある。ついてきてくれないか?」


「え?それは、良いけど……」


 何か、いつもと感じが違うとノルンは思いながらも、タカヒロに従う。

 学園につき、オーラの訓練をしていた場所で待っているとタカヒロは告げ、ノルンは蓮華を呼びに寮へ向かう。


「さて、結界を張っておかねばな……」


 その声は、タカヒロの声ではなかった。




-学園女子寮-



「タカヒロさんは無事だったの!?そっか、良かったぁ……」


 ノルンからタカヒロさんが目を覚ました事を聞き、安堵する。


「それで、蓮華に話があるから呼んでくれって言われてね」


「そっか、もしかして何か分かったのかな」


「どうでしょうね……。それよりも、少し妙だったのよね……」


「何が?」


「その、いつもと感じが違ったっていうか……その、いつもなら、私の事を気に掛けてくれるのに、何にも言ってくれなかったし……」


 その言葉に、にまにましてしまう私。


「ち、違っ!そういう事じゃなくって!それに、なんかこう、変だったのよ……」


「まぁ、会えば分かるかな?とりあえず、行こう。アリス姉さんとセルシウスも良い?」


「うん、もちろんだよ!」


「ええ、私も行くわ」


 そうして、昨日のあの場所で待ってると言うので向かう事にする。

 途中、アーネストがこちらに来る所だったので、合流した。


「それにしても、刺されたって聞いた時は心臓が飛び出るかと思ったぜ。あのタカヒロさんを倒すとか、ただもんじゃねぇな……」


「うん、かなりの手練れだね」


「それなんだけどね、なんか不自然じゃない?」


 ノルンが言う。

 それは私も思った。


「あのタカヒロさんが、リンスレットさんが気付く前に倒される所、だよね?」


「ええ。戦いにすらなってない、って事。つまりは……」


「顔見知り、って可能性だな」


 アーネストの言葉に、頷く私達。

 そして、いつもの場所に近づいた時、違和感を感じた。


「む……これは結界の中に入ったよ蓮華さん」


 アリス姉さんがそう言う。


「ノルン、タカヒロさんから何か聞いてる?」


「いいえ……」


 訝しむノルンだけど、私達は進んだ。

 そうして、タカヒロさんの姿を発見した。


「ふむ、俺は蓮華を連れてきてくれと言ったつもりだが」


「え……その、ごめんなさい……」


「まぁ良い。お前は下がっていろノルン」


 そう言って、剣を構えるタカヒロさん。

 咄嗟に、距離を開ける。


「な、なんのつもりなのタカヒロ!?」


(さえず)るな。蓮華を殺す、その為に呼んだんだ」


「なっ!?」


 ノルンが驚いているけど、私も驚いている。

 あのタカヒロさんが、私を、殺す……?


「タカヒロさん、何の冗談だよ……?」


 アーネストがネセルを構えて、聞く。

 私もソウルを構える。


「俺はタカヒロではない。俺の名はバルビエルだ」


「「「「「!?」」」」」


「地上の世界樹のマナが濃すぎてな、俺はこの場に来る事が出来ない。だから、憑代(よりしろ)を借りる事にした。華音が暗殺を失敗したと聞いてな、俺が直接出向いたというわけだ」


「大天使・バルビエル」


 アリス姉さんがそう言った。

 大天使……。

 この世界には、地上・魔界の他に、冥界と天上界、それに神界があると聞いた。

 そのうちの一つ、天上界の住人だろうか。


「これはアリスティア様、そのような幼き姿になられて、嘆かわしい」


「貴方、蓮華さんの命を狙うなんて、どういうつもり?」


「ユグドラシル様を復活させるには、世界樹という存在は邪魔でしょう?その化身足るその者は、最たるものです」


「ユグドラシルは、そんな事望んでない!」


「地上や魔界などの為に、あのお方を犠牲にして、何が変わったというのです。我々は地上も魔界も認めない。あの方を犠牲に生きる者達など、滅びれば良い!!」


 このバルビエルという天使は、きっとユグドラシルの事を敬愛していたんだろう。

 その敬愛する人が、自身を犠牲にした。

 その辛さは、きっと身を裂かれるより辛いものだろう。

 けど、あの時見たユグドラシルは、後悔しているように見えなかった。

 本人がそれを望むなら、私も考えるけど……そうじゃないのなら、死んでやるつもりなんてさらさらない!


「ほぅ、抵抗するか。あの方の紛い物の分際で。その傲慢、死を持って償わせてやる」


 タカヒロさんから、凄まじい魔力が溢れだす。

 この、力は!?


「俺はこの者の力を最大限に引き出す事ができる。結界を張っているからな、お前達以外誰も気付く事はできない。助けを望んでも無駄だぞ」


 そう言い終わると、私に一直線に向かってきた!


「させねぇ!!」


 アーネストが割り込んできた!


「甘い!」


 ギィン!!


「なっ!?」


 しかし、力負けして吹き飛ばされてしまう。

 そこへセルシウスが続き攻撃を仕掛けるも、いなされて吹き飛ばされる。


「このっ!!」


 まずは剣を弾こうとしたのだが、ズシリと重く、反対に押されてしまう。


「フハハ!ユグドラシル様の化身ともあろう者が、この程度の力か!!」


 ググッ!


 ソウルが押されていく。

 不味い、このままだと支えきれない!


「とりゃぁっ!!」


 ギィン!!


「フッ!!」


 私への攻撃を中断し、アリス姉さんの一撃を防ぐ。

 そして、私の目には負えないスピードで、アリス姉さんを斬った。


「きゃっ!?」


 ドオオオオン!!


 岩に叩き付けられるアリス姉さんに、思わず叫ぶ。


「アリス姉さん!!」


 ガラッ……!


「大丈夫!こんなの痛くないよ!」


 そう言って、すぐに私の傍に駆け寄ってくれる。


「流石に強いですなアリスティア様。他の者とは一味違う」


「あんまり舐めないでよねー?手加減、しないよ?」


 そう言って、腕輪を外す。

 瞬間、とんでもない魔力が溢れだす。


「くっ……!!」


 あのバルビエルという天使も、流石にこれには驚いたようだ。


「い、良いのですかアリスティア様。俺を殺すと言う事は、この者を殺すという事ですが」


「……蓮華さんを救う為なら、私は……」


「やめてぇ!!」


 ノルンがアリス姉さんの前に出る。


「お願いアリスティアさん!タカヒロはずっと、ずっと私を守ってきてくれたの!小さい時からずっと……大切な、家族なのっ!タカヒロを、殺さないで……!」


「ノルンちゃん……」


 その眼には、涙が溢れていた。


「アリス姉さん……」


「フハハ!隙ありですぞアリスティア様!!」


 ドオオオオッ!!


「っ!!」


 瞬間、凄まじい魔力が圧縮された魔術の光線が、アリス姉さんを貫く。


「あ……アリス姉さん!!」


「た、タカヒロッ!」


「俺はタカヒロではないと言っただろう。だが、良くやったノルン」


 そう言ってノルンの頭を撫でる。

 だがノルンは、悔しそうな顔をしていた。

 いや、今はそれどころじゃない、アリス姉さん……!

 だけど近づいたら、アリス姉さんはケロッとしていた。


「あいったぁー!もぅ、どうすれば良いんだよー!」


 うん、元気そうで心配して損した。


「タカヒロ、正気に戻ってよ……!今のタカヒロなんて、私の知ってるタカヒロじゃないっ……!」


 泣いてそう言うノルン。

 そこに、変化が訪れた。


「だから、俺はタカヒロでは無いと言って……ぐぅっ!?な、にぃ……!俺に、抵抗、する、だとぉ……!?」


「タカヒロ!?」


「……ふぅ、よう、やく……元を、抑えたぜ」


「タカヒロなのね!?」


「あ、ああ。ノルン、皆、聞いてくれ。俺の心臓に、こいつは憑依の魔法を仕掛けたんだ。だから、そのまま俺を殺しても、こいつは逃げちまう……」


 そんな……!

 なら、どうしたら良いんだ!?

 そもそも、殺すなんて選択肢はとらないけどね!


「だが、俺はこいつの魔力を逆手にとって、こいつの本体と俺を、繋げた。だから、今なら……俺を攻撃すれば、こいつにも攻撃が通る!」


「「「「「!!」」」」」


「だから、お前達は気兼ねなく俺を攻撃しろっ……!」


「嫌よ!それじゃタカヒロが死んじゃうじゃない……!」


 ノルンが叫ぶ。

 私もそんな事はできない。

 何か、他に方法は……!


「違う、そうじゃない。俺を死なないように攻撃して、俺だけを回復させてくれ……!」


「ど、どういう事タカヒロさん?」


 意味不明すぎて、聞いてしまった。


「要は、俺とこいつは繋がってて、俺にダメージが通れば、こいつにも通る。で、俺が回復しても、こいつにはダメージが蓄積されるってわけだ。俺の精神力が尽きるのが先か、こいつが死ぬのが先か、なわけだろ?」


「ああ、確かに。ってそれってつまり、そいつとタカヒロさんの根競べって事か!?」


 アーネストが驚いている。

 私だって驚いたけど。

 いや、その発想は無かったよ。


「そういう、事だ。今は体の支配権を一時的に取り返せてるが、こいつを逃がさない為にも、そっちに集中するから、もう無理だ。頼む、こいつを確実に倒す為に……俺を攻撃してくれ!大丈夫だ、俺は絶対に負けやしない!!」


 そう強い眼差しで言ってくれるタカヒロさんは、いつものタカヒロさんだ。


「分かったよタカヒロさん。傷は、私が回復させる。アリス姉さんは腕輪をもう一度つけて」


「了解!でも、あいつ強いから、手加減した状態じゃ結構苦戦すると思うよ?」


「へへっ!タカヒロさんを助けつつ、あいつをぶっ倒せば良いんだよな、燃えてきたぜ!!」


「ふぅ、また厄介な戦いね。相手を手加減して攻撃して、回復させてを繰り返すなんて」


「でも、やるしかない!ノルン、手伝ってくれるよね?」


「ええ、もちろん!タカヒロ、今助けてあげるから!」


「ああ、頼んだぜ皆……くっ!!憑依が解けない、だと!?俺を繋げるとは、甘く見たかっ……!」


 どうやら、またこいつに戻ったらしい。

 彩香ちゃんを駒にしてる許せない奴だし、ぶっ倒す事に躊躇いは無い。

 タカヒロさんを殺さないように、こいつを倒す!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ