154.不穏な影
あけましておめでとうございます。
このお話を書いている時はまだ去年なのですが、予約投稿を元旦にしておきました。
今年もふたゆめの世界を楽しんで頂けたら、嬉しいです。
「そうか、彩香ちゃんがこの世界にな……さんきゅ蓮華、教えてくれてさ」
「当たり前だろ、むしろ蓮二はお前だしな」
そう、私はもう蓮二じゃないのだから。
「ま、今大事なのは、お前が何者かに狙われてるってこったな」
「ユグドラシル領に居ない、今が絶好の好奇だと見てるんだろうね」
「ああ。ユグドラシル領内だと、母さんや兄貴が近くに居るからな。手出しできねぇだろ」
その言葉に同意する。
「とりあえず、この事は皆に共有すっぞ。ノルンの時のような慢心は、もうしねぇ」
「ん、了解。頼りにしてるよアーネスト」
「おう、任せろ!お前を絶対殺させやしねぇからな!」
頼もしい言葉を聞いてから、最近集まる事になっている教室へ向かう。
そこで皆が集まってから、彩香ちゃん……もとい、華音ちゃんから聞いた事を話した。
「ふむ……魔界ならありえるな。しかし、世界樹を狙う輩はあの時にほとんど居なくなったと思ったんだけどな」
「流石に全員は無理よ。それに、大本はどうせ参加しなかったんでしょう」
タカヒロさんとアリシアさんが言う。
「ったく、厄介な奴が居るのね。ま、この学園に居る間は私達も居るから、何かあったら駆けつけるけど……常時一緒に居るわけじゃないんだから、アンタも気をつけなさいよ」
「うん、ありがとうノルン。それじゃ、踊りの練習に入る?」
話を切り替えるように私は明るく言う。
「申し訳ありません、蓮華お姉様……私達は今日、王都・フォースに戻らなければならないのです……」
「はい……いつもなら無視をする所なのですが、少し問題が起こっているようで……」
申し訳なさそうにする二人。
「そっか、むしろそっちの方が大事なんだから、気にしないで。踊りも大分形になってきてるし、まだ日はあるからね」
そう伝えたら、苦笑してから、二人は教室から出て行った。
「申し訳ないレンゲさん。俺も今日は執行部の打ち合わせがあって、出ないと不味いんだ。大事な話だと聞いたから、こちらを優先させて貰ったけれど、踊りはまた明日必ず」
そう言って、明先輩も出て行った。
さて、踊りは全員で合わせたいので、後は個人練習かな?と思っていたら。
「それじゃ蓮華さん、アーくん。オーラの練習しよっか!」
なんてアリス姉さんが言ってきた。
「今の話からも、二人はもっと強くならなくちゃだし!タカヒロくん、手伝って貰っても良いかな?」
「俺が?」
「うん!ノルンちゃんにオーラを教えたのってタカヒロくんだよね?」
「ああ、そうだけど……」
「タカヒロくんなら、蓮華さんとアーくんを二人相手にしても、上手くやってくれそうだからね!」
「それを言うなら、俺じゃなくてアリスティアさんの方が適任なんじゃないか?」
その言葉に、悲しそうにするアリス姉さん。
「私じゃ、二人をぶっ飛ばしちゃいそうで……この手加減の腕輪、オーラにはあんまり適応されてないみたいで……」
「そうか……」
なんかいたたまれない空気に。
その空気を破るようにアリス姉さんが言った。
「踊りはまた明日皆揃ったら練習だね!さ、いつもの練習場所に行こっか!」
元気の良いアリス姉さんの声には、いつもあったかい気持ちにさせられる。
それから、皆で場所を移動した。
「景色も見晴らせるし、校舎とも程よく離れてるから人が来る事も稀、か。良い場所だな」
「ですね」
タカヒロさんと対峙するのは、私とアーネスト。
ノルンは離れた所にある岩に腰かけているし、アリシアさんはその横に居る。
アリス姉さんとセルシウスは少し離れた位置で見守るスタンスだ。
やれやれと言った感じで、頭をかいた後、尋常じゃないオーラを纏うタカヒロさん。
私の目にもハッキリと見てとれる。
「蓮華さん、アーネストさん。まずは軽く組手と行こうか」
アーネストを見て、目が合う。
お互いに頷き、手と足にオーラを纏う。
「そんじゃ、行くぜタカヒロさん!」
「ああ、来い!」
「おおぉぉぉっ!!」
「はぁぁぁぁっ!!」
私とアーネストは、タカヒロさんまでの距離を一気に詰め、拳を繰り出す。
けれど、私達の乱打を軽く受け流すタカヒロさん。
アリス姉さんがパワーだとしたら、タカヒロさんは柳のようだった。
「どうした、遠慮はいらないぞ?」
「くそっ!当たらねぇっ!?」
「てぇやっ!!」
ガッ!
「うわっとっとぉっ!?」
キックを放ったら、今度は受け流されずにガードされた為、体のバランスが崩れてしまった。
「はは、避けられると思って攻撃してどうするんだ」
うぅ、確かに。
というか、タカヒロさん凄く強い!!
流石、ノルンの先生なだけはあるね。
打ち合いをやめ、少し会話をする。
「なぁタカヒロさん、タカヒロさんはオーラをどうやってそんなに上手く扱えるんだ?なんかコツとかあんの?」
「ああ、俺はスキルのオーラを覚えただけなんだ。だから、これも俺の力ってわけじゃーない」
「スキル、か……」
「ただ、俺もスキルに頼るばかりじゃ駄目だって、リンスレットやアスモデウスから学んだ。だから、自身の力の向上を今は頑張ってる所さ」
「どういう、事ですか?」
「……言うのも恥ずかしいんだけどさ、俺はリンスレットやアスモデウスと会う前は、結構調子に乗ってたんだよ。なんつーのかな、俺に勝てる奴なんて居るわけがないっていう、昔の中二病みたいな感覚だな……」
ああ、なんとなく分かる。
なんていうか、俺の封印されし右手が~とか思っちゃうあれだよね。
意味もなく包帯してみたり。
「そんな時に、魔王の存在を知った俺は、喧嘩売りに行ったのさ」
「「タカヒロさんが!?」」
ちょっと今のタカヒロさんからは信じられなかった。
なんていうか、落ち着いた感じの人だから。
「ああ。で、見事に返り討ちにあってな。なんせ、俺のスキルが悉く無効化されちまうんだ、こんなもん勝てるかっ!って思ったよ」
ああ、そういえばミレニアもスキル効かないって言ってたな。
なんかアリシアさんが震えてるけど、どうしたんだろう。
「でさ、リンスレットの側近のアスモデウス、まぁそこで笑いを堪えてるアリシアなんだが」
「今言わないでよタカヒロ!我慢できなくなるでしょ!?」
なんてすでに笑ってた。
「はぁ、まぁこいつに散々からかわれたわけさ、分かるだろ?」
「「あはは……」」
「で、スキルってのは確かに便利だ。でもさ、発想の転換だと思ったんだよ。スキルは要は教科書みたいなもんだ。実際にそれを使うのは俺の体なわけだろ?なら、それをスキルなしでも扱えるようになれば良い。扱い方は、スキルを通して体が覚えてる」
私は、感心してしまった。
この人は、便利な力に慢心していない。
どころか、その力を本当の自分の力にしようとしているんだ。
「剣術も、魔法も、魔術も。そしてオーラも、全てスキルで覚えた。後は、反復して俺自身で使えるように訓練してる。それは今もだ。今二人と戦ったのはスキルだけど、スキルなしでもある程度はもう戦える。蓮華さんとアーネストさんに、負けたくないしな」
そう笑って言うタカヒロさん。
私はこの人は凄い人だと思う。
普通、そんな考え方にはならないと思う。
「なぁタカヒロさん、俺の事は呼び捨ててくれて良いぜ?タカヒロさんって、元の世界でも俺達より年上だろ?なんかくすぐったいんだよな、年上の人にさん呼びされるのって」
アーネストが言うので、私も便乗する事にする。
「私も、呼び捨てて貰って良いですよ」
「ふむ、そんなものか?さて、それじゃ体力も回復したよな?そろそろ再開するか、蓮華、アーネスト」
そう微笑むタカヒロさんは、自然に私達の事を呼んでくれた。
「よし!行くぜ蓮華!」
「うん!」
こうしてまた、私達はオーラの組手に明け暮れた。
「よし、今日はここまでにしよう」
「「はぁっ……はぁっ……お疲れ様でした……」」
ぐてぇっと横になる私達二人。
タカヒロさんはというと、全然疲れてるように見えない。
アリス姉さんと同じで、この人も化け物だ……。
「はは、まだオーラの扱いに慣れてないから仕方ないさ。ノルンだって最初はすぐに倒れてたしな」
「こ、こらぁ!そんな事教えないでよ!?」
「はは、すまんすまん」
そう言って笑う。
うん、この二人は本当に仲が良いよね。
「さて、俺は一旦魔界に戻るよ。蓮華が狙われている事をリンスレットに伝えて、魔界で少し探りを入れてみるとしよう」
「い、良いんですか?」
「ああ。蓮華とアーネストは、俺の大切な家族であるノルンを救ってくれた。その恩返しがしたい。俺にできる事なら、協力させてくれ」
その言葉を嬉しく思う。
「私も行こうか?」
「いや、俺だけで良いさ。アリシアはノルンと居てくれ」
「そう?了解。何かあったら連絡しなさいよ?」
「ああ、分かってる。それじゃ皆、また後でな」
そう言って、タカヒロさんは消えた。
『ポータル』を使ったのだろう。
「なぁ蓮華、あの人なら猫助けるわな」
「あはは、分かる」
そんな会話をしながら、暗くなってきたので寮に戻る事にした。
-魔界-
「さて、帰ってきたな。リンスレットに会いに……ん?」
後ろから気配を感じ、タカヒロは振り向いた。
「なんだ、お前か。リンスレットに会いに来たのか?」
その言葉に応えず、近づく男。
「どうした?」
その問いに答えず、その男はタカヒロの心臓に刃を突き刺した。
ドスッ!
「がっ……!?」
知人故の油断、防ぐ事が出来ずその身に受ける。
「なん、の、つもり、だ……!?」
その言葉にも答えず、その男は城を後にする。
「そう、か……天上界、か……」
その言葉を残し、タカヒロは崩れ落ち意識を失う。
コッコッ……
「この力はタカヒロだな?帰ってきたなら、私の所に……タカヒロッ!?」
血を流し倒れているタカヒロをリンスレットが見つける。
「どうしたっ!誰にやられた!?しっかりしろ、おいっ!」
その言葉に答える事はできず、死んだように意識を失っていた。
「くっ!私はお前を絶対に死なせないからな!」
夜の帳が落ちる時間、何者かの悪意が近づいていた。
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