151.ダンスの練習(2)
カレンとアニスは職員室に居たので、すぐに合流できた。
二つ返事でOKしてくれたので、一緒に教室へ向かう事に。
なんか周りの先生から、また何かするのかなって視線を受けてた気がするけど、気にしない。
そうして教室に向かったら、なんか人が増えてた。
「蓮華、タカヒロさんと明も参加して構わねぇよな?」
「二人が良いなら、私は構わないよ?」
「はぁ、俺は参加する気無かったんだけどな……アリシアは指名権を俺にするって言うし、強制だよ」
苦笑するタカヒロさんに、どう返したら良いのやら。
「セルシウスさんも参加するんですよね!?俺も絶対参加しますよ!」
なんてタカヒロさんと対照的に、元気一杯の明先輩。
セルシウスが明らかに嫌そうにしたのを、私は見逃さなかった。
うん、これ実らない気がする。
なんで私の周り、引っ付くというか、カップルが生まれないんだろうか。
必ず片方が嫌がってるんだけど……。
「あれ、ノルンはまだ?」
「ああ、まだだな」
曲選びに時間かかってるのかな。
とりあえず教室の鍵を開け、皆で中に入る。
「おお、広いな!これならもっと大勢で踊っても大丈夫じゃね?」
「これ以上増やすつもりはないよ。それに、まだ日はあるとはいえ、音楽と踊りの振り付けも考えないとだから、実質そんなに余裕ないかもよ?」
「ま、踊りはこれまでの奴らの記録媒体もあっから、それも参考にしたら良いと思うぜ!」
そう言って、球体を何個か取り出すアーネスト。
「これ一つにどれくらいの踊りが入ってるんだ?」
「1つにパーティ1回分だぜ。前回の持ってきたから、後で見るか?」
「お、良いね。アーネストも前回は踊ってるんだろ?」
「いや、俺は踊ってねぇよ。去年は裏方してたし」
そうなんだ、意外だ。
「アーネストは指名されていたんだけれどね。ただ、裏方は想像以上に重労働だから、アーネストという戦力を削る事が出来なくて、泣く泣く皆諦めたのさ」
と明先輩が補足してくれる。
「今年は大丈夫なんですか明先輩」
「うん、それは大丈夫だよ。今年は有望な子が結構多くてね。それに、蓮華さんが出ると予測してる子達が、すでに何人も裏方を手伝うと言ってくれているんだ」
なにそれ怖い。
というか、明先輩はもう生徒会から出てるんだよね。
なんでそんなに詳しいんだろうか。
「あ、ちなみに俺は、執行部として警護に周る側だからね。アーネストから色々相談を受けてるから、詳しいんだよ?」
疑問に思っていたのが顔に出ていたのか、そう説明してくれた。
「ま、ヘラクレスと会ってたのも、その件があったからさ」
成程ね。
アーネストは仕事と自分のしたい事を上手い事両立させてるわけか。
「というか、アーネストが私を指名しなければ、私はそのダンスパーティに出なくて良いんだけど……」
「お前以外で誰を指名したら良いんだよ」
真剣な顔して言ってくるので、アリシアさんを見た。
「ちなみに、生徒会メンバーは全員指名しなきゃなんねぇからな?」
ありゃま、そうなのか。
って、タカヒロさんを指名ってそういう事か。
「分かってくれたか?」
なんて言うタカヒロさんに苦笑する。
私と同じ立場って事だね。
「それじゃ、明先輩は去年誰を指名したんですか?」
純粋に気になったので聞いてみた。
「そ、それをセルシウスさんの前で言うなんて……」
とチラチラとセルシウスを見ながらいう明先輩。
露骨で面白いんだけど、当のセルシウスはというと。
「それ見たら分かるんじゃないの?」
と別に興味なさげなんだよね……。
ガクッとしている明先輩を横目に、足音が聞こえてきたから扉の方を見る。
「お待たせ、遅れてごめんなさい」
ノルンだ、やっときた。
その手には、たくさんのCDみたいなものが。
「ノルン、それもしかして、音楽を聴く道具?」
「そうよ。アンタ達がどんなの好きか分からないから、色々と持ってきたわ。音楽を聴くだけじゃなくて、踊りが記録されてるのもあるわよ」
おお、凄い。
ノルンってこういうの好きなんだろうか。
「へぇ、そんじゃ今日は色んな音楽聴きながら、どれにするか選ぶとすっか。時間が余れば、振り付けとかも考えようぜ!」
「そうするか。私この世界であんまり歌や曲聴いた事なくてさ。実はちょっと楽しみなんだよね」
「ま、踊りに関してはそう不安がらなくて良いわ。そこの二人も踊りはプロだし」
へ?どういう事?
「剣舞って知ってるわよね蓮華。その最高段位を持ってるわよ、そこの二人」
え、えぇぇぇぇ!?
カレンとアニスを見ると、恥ずかしそうにしている。
いや、えぇぇぇぇっ!?
心底驚いていると、二人が言ってくれる。
「その、嗜みの一つで習っていただけなのですわ。たまたま、子供の頃に出た大会で、優勝してしまっただけで……」
「そう、なんです」
「たまたま、全ての大会で優勝なんてできるわけないでしょうが」
なんてノルンの突っ込みに、苦笑する二人。
凄いな、私は全然二人の事を知らなかったんだなぁ。
「あれ、もしかして俺と蓮華が一番やばくね?」
「ああ、大丈夫だアーネスト。意外となんとかなるよ」
「へ?」
「ああ、それじゃまずは、会長と蓮華の踊りから練習しましょうか。皆は私が持ってきた音楽で、知らないのを聴いてみて頂戴。これを使えば、外に漏れずに自分だけが聴けるから」
そう言って、皆にウォークマンみたいなのを渡していく。
よく見たら、ユグドラシル社のロゴが。
バニラおばぁちゃぁぁぁぁんっ!!
アーネストもそれに気づいたのか、なんとも言えない表情をしていた。
そして私を見て、苦笑したのだった。
それから、ノルンからの指導を受けながら、無事ダンスの練習を終える。
「蓮華もそうだったけど、会長も異様な程にリズム感が良いわね。武芸に秀でた人はそういうリズム感にも優れるって聞くけど、アンタ達ちょっと異常じゃない?」
なんて褒められた。
あれ、褒められたんだよね?
「はは。まぁ後は本番前に合わせる程度で良さそうだな蓮華。ありがとなノルン。後で前の映像見せて、蓮華と練習しようと思ってたけど、ノルンの教え方が上手いから助かったぜ」
そう笑顔で言うアーネストに、ノルンも笑って言う。
「ま、貸し一つにしておくわ」
「おう、またなんかあったら言ってくれ、返すからよ!」
うん、仲が良くなって嬉しい。
なんかアリシアさんが曲を聴きながらずっとこっちを見ているんだけど、私もやりたくてやってるわけじゃないので、勘弁してほしい。
まぁ、そういう目で見てるわけじゃないかもしれないけど。
「それで、皆何か良いと思う曲はあった?」
その問いに、皆思い思いにCDを出してきた。
「それじゃ、今度はこれを全員で聴いていきましょ。で、その中でどれが良いか、皆で決めましょうか」
「うん、そうしよう」
という事で、音楽鑑賞会が始まった。
どの曲も、すっごく良い歌や曲だった。
ノリの良い曲、感動する曲、熱くなる曲、様々な名曲を聴いて、体の芯から熱くなってくる。
この感じ、久しぶりだ。
そして、皆で選んだ曲。
ノリが良く、熱い歌と曲だ。
「それじゃ、この歌で決定だね。振り付けがすでにあるみたいだけど、これを真似る?」
「蓮華、それじゃ面白くねぇじゃん?それに、せっかく俺達は戦えるんだぜ?踊りの中に、剣舞を入れようぜ!」
「え?それって、模擬戦みたいな事するって事?」
「あくまで空振りでな?そんで、ライトアップする人を都度変えるんだ。全員で同じように踊るのと、その中で一部違う踊りをする人を分けるのを繰り返す感じだな」
言っている事はなんとなく分かる。
「面白そうだけど、それすっごく難易度高そうだな」
「俺達ならできるって!」
その言葉に、なんとなくできる気になるから不思議だ。
「皆もそんな感じで良い?振り付けやそういうのは今から考える事になると思うけど」
と聞いたら、全員OKしてくれた。
さぁ、これからが大変だ。
あーでもないこーでもないと、踊りの内容を話し合っていく。
記録媒体を起動させ、取り入れられる動きを取り入れていって、私達のオリジナルの踊りを考えていった。
そうして段々暗くなってきた時に、私はもう限界を迎えた。
「ばたんきゅぅ~」
まさかリアルにこのセリフを言って、寝転がる事になろうとは。
「蓮華さん!?」
「ど、どうした蓮華!?」
「もう、お腹が減って、もぅ……力がでにゃい……」
私のこのセリフに、皆が滅茶苦茶笑い出す。
うぅ、酷い。
「だって、朝から何も食べてないんだよぅ……」
「蓮華、アンタあの後も何も食べなかったの?」
「もしかして、ノルンは食べてきたの?」
「当たり前でしょ」
「そんにゃぁ……」
うつ伏せになる私。
皆が更に笑うけど、気にしない。
「はぁ、それじゃ今日はここまでにして、レストランに行きましょ。事情を話したらまだ作ってくれるでしょ」
「それでしたら、私達から話を通してきますわ」
「はい」
おお、二人がとても心強い。
「蓮華さん、これからは先に言ってね?私お菓子とかたくさん持ってるよ?」
うぅ、先に言ってくださいアリス姉さん。
「アーネストさん、蓮華さんを背負ってやったらどうだ?」
「良いけどさ。ほら蓮華、つかまれよ」
「自分で歩くよ……子供じゃないんだから……」
そう言う私にまた笑い出す皆。
「ったく、小食のくせに腹が減ったら動けないとか、アン〇ンマンかよ」
「そりゃ顔だろ!?」
「「ぶふぅっ!!」」
私が突っ込んだら、タカヒロさんと明先輩が吹きだした。
「ぶははははっ!腹いてぇ!さって、そんじゃ早く行こうぜ!蓮華がまた倒れちまうからな!」
「なんだとうっ!?」
逃げるアーネストを追いかける私。
そんな私達を追って、皆も走り出した。
明日から、皆で練習だ。