14.帰り道
1つ目のオーブは難なく終わったので、馬車で帰る所だ。
思っていたよりスムーズに行ってる気がする。
この調子で残りの2つもさっさと終わらせてしまいたい。
アーネストは上手くやってるかなぁって考えていると。
「蓮華様は次に、どこへ向かわれるのですか?」
と聞いてきた。
ええと次は……。
「一旦母さんの所に帰ってからになるけど、次はフォースかな。もちろん行った事ないけどね」
「フォース、ですか」
何か考え込んでるシリウス。
「どうかしたの?」
「いえ、蓮華様なら問題ないでしょう。王都・フォースも、私と同じくインペリアルナイトに女性が登用されておりますので、恐らくですが、その方のどちらかが蓮華様を案内してくれるかと思います」
ロイヤルガードにインペリアルナイト。
王国近衛第一騎士団所属騎士の事だ。
国によって呼び名は違うけれど、どちらも王と国を守る大事な要。
武勇、知識、忠誠、品格などの点において、特に優れた者が任命される。
その戦闘能力は一軍に匹敵し、指揮能力・統率力も高いとの事。
1つの国に数人しか居ないと聞いている。
シリウスもそのうちの1人だ。
「どちらかという事は、フォースでは二人、女性のインペリアルナイトが居るの?」
「はい、蓮華様。その二人は双子なのですが、姉をカレン=ジェミニ、妹をアニス=ジェミニと言いまして、両名とも実力者として名を馳せております」
ジェミニ、黄道十二星座の一つでふたご座だったっけ。
っていうか、次も女性になるのか。
いやまぁ、私も見た目女の子だし仕方ないのか。
アーネストなら喜んだろうに。
「蓮華様、先程から誰かの事を考えていらっしゃいますか?」
うっ、鋭い。
やましい事は考えていないので、正直に話す。
「うん、私と同じようにオーブに向かったもう一人の事をね。大丈夫かなーって」
その言葉にシリウスは。
「蓮華様の兄上様でしたか?」
なんて言ってくる。
あー、そうなるのか。
私としては兄さんはロキさんで、アーネストは兄って気がしない。
多分アーネストも私を妹としてなんて見ていない。
なので。
「えぇと、そう……なるのかな。あはは」
なんて、曖昧に答えておいた。
不思議そうな顔で見てくるシリウスを横目に。
「ま、あいつが失敗するわけないけどね」
って言っておいた。
「信頼、されておいでなのですね」
と言われたので。
「もちろん」
と笑顔で答えておいた。
-シリウス視点-
馬車での帰り道。
蓮華様は少し、考え込んでおられるように見えた。
「蓮華様は次に、どこへ向かわれるのですか?」
なので、当たり障りのない質問をする事にした。
蓮華様は、次は王都・フォースに向かわれるらしい。
あそこには、強烈なジェミニ姉妹が居る。
インペリアルナイトの二人であり、その強さは折り紙つきだ。
兵達からの信頼も厚いが、あの二人には欠点がある。
それは、同族嫌悪とでも言うのだろうか……同じ女性に一切の容赦が無いのだ。
表面上は何もしないし、嫌がらせ等も行いはしない。
ただ、ひたすらに冷たい。
物凄く冷めた目で見てくるのだ。
それだけならまだ良いのだが、女性に笑みを向ける事はないし、触れようともしない。
同じ女性を、女性と思っていない、そんな態度なのだ。
色々と考えていると、また蓮華様が考え込んでいる姿が見えた。
もしかして、と思い聞く事にした。
「蓮華様、先程から誰かの事を考えていらっしゃいますか?」
蓮華様はハッとした表情をされた。
もしかして敬愛する男性がいるのでは……と考え、ズキリと胸に痛みが走る。
蓮華様は一瞬、バツの悪そうな表情をなされたが、すぐに笑顔に変わって仰られた。
「うん、私と同じようにオーブに向かったもう一人の事をね。大丈夫かなーって」
そこで私は心が落ち着いたのを感じた。
だってそれは。
「蓮華様の兄上様でしたか?」
そう、蓮華様と時を同じくして旅立ったのは、確かに男性の方だが、マーガリン様のご子息様だと伺っている。
「えぇと、そう……なるのかな。あはは」
と苦笑して仰られた。
もしかして、仲は良くないのかな?と思っていると。
「ま、あいつが失敗するわけないけどね」
と、力強い表情をなされていた。
そんな姿を見て。
「信頼、されておいでなのですね」
と言った。
そう感じたからだ。
「もちろん」
蓮華様は可愛らしい笑顔で、そう仰られた。
今この時は、例え相手が兄上様であろうとも、羨ましく思ったのだった。
-シリウス視点・了-
来る時に使った家をもう一度使い、何事も無く王都へ帰ってきた。
「ここまで、ですね。蓮華様、ありがとうございました」
シリウスが礼を言ってくる。
「ううん、礼を言うのはこっちだよ。色々教えてくれてありがとうシリウス。王都の案内は、オーブの事が落ち着いたら、またお願いするよ」
その言葉に。
「はい、お待ちしております蓮華様」
と笑顔で言ってくれた。
ポータルまで向かう。
シリウスがそこまで着いてきてくれた。
「それじゃ、またねシリウス」
「はい、蓮華様。いつでも、お越しください」
そう言って、別れた。
そして泉の前に着いた。
うーん、数日しか経ってないから、あんまり旅に出たって気がしない。
てくてくと歩いて家に帰る。
「ただいまー」
って言ったら、奥と2階から、ドタバタとした音が聞こえてきた。
「お帰りなさいレンちゃーん!!」
と母さんにいきなり抱きつかれた。
「ぐぇっ……」
そんな声が出た。
ちょ、母さん苦しいから!
肩をバンバンと叩く。
申し訳なく思ったのか、すぐに母さんは言ってくれる。
「ご、ごめんねレンちゃん」
と。
そして離れてくれる。
うん、離れてくれたのだが。
「ああ蓮華、お帰り。旅は辛かったろう、ゆっくり休むんだよ」
と言いながら今度は兄さんに抱きしめられた。
「おぐっ……」
また苦しかったので今度は背中をバンバンと叩く。
するとすぐ離れてくれて
「す、すみません蓮華。帰ってきてくれたのが嬉しくてつい」
なんて言ってくる。
苦しさから息を整えて一言告げる。
「嬉しいですけど、力を加減してください!」
「「ごめんなさい」」
二人そろって頭を下げて言うその言葉に、笑顔が零れる。
しょうがない二人だよ本当に。
私が笑うと、二人も笑ってくれる。
ああ、帰ってきたんだなって、実感した。
それからお風呂に入って、母さんと兄さんまで一緒になって作ったという食事にした。
シリウスの作ってくれた食事も美味しかったけど、やっぱりこの家で食べる、母さんの、今回は二人のだけど、食事が一番美味しく感じた。
この世界には米もちゃんとあったので、元の世界での食事とそんなに変わらなくて、ご飯が進む進む。
そんな私を見て、ニコニコしてる二人に、自分達も食べなよ!と何度も言う羽目になったけど。
食事してる所をずっと見られるとか、恥ずかしいんだ。
私はペットじゃないんだよまったく。
「レンちゃん、オーブに魔力は無事込められたんだね?」
食事の後、ソファーで寝転がってたら、母さんが横に腰かけて聞いてきた。
「うん、大丈夫だよ。湖の中から出てきた首だけのでっかい化け物や、キメラみたいな魔物は居たけど、大した事なかったから」
「そ、そっか。多分シーサーペントかな、哀れ……相手が悪すぎたね……」
なんか母さんが言ってる。
シーサーペントってなんだろ。
あれの名前かな。
そんな事を考えていると、兄さんが笑いながら近くに来た。
「ククッ……蓮華は本当に。そうそう、アーネストはまだ帰ってきていませんが、蓮華はどうしますか?」
「今日一日休んだら、明日はフォースに行くよ」
そう答えた。
アーネストは気になるけど、大丈夫だろうからね。
「レンちゃん、フォースにあるオーブの場所は、オーガストより道中辛いだろうから、気を付けてね」
「辛いって?」
「蓮華、あの王都の周りは砂漠なのですよ。だから、とんでもなく暑いんです」
「うげっ……」
そんな言葉が出ても、仕方ないだろう。
夏は苦手だ。
その暑さとは比べ物にならないくらい、砂漠は暑いだろうし。
「あ、でもレンちゃんなら、体に氷の魔力を纏わせておいたら良いんじゃない?多分自然回復量の方が高いから、ずっと使ってても魔力減らないよ?」
「ありがとう母さん!」
その言葉に、母さんに抱きついたのは言うまでもない。
「あ、あわわ、レンちゃんから、レンちゃんから初めて抱きしめられたよぅ!?」
なんて言ってるけど気にしない。
ねぇ兄さん、なんで悔しそうにしてるのかな?
「くっ……マーガリン師匠、狡いですよ」
なんて言ってる。
何が狡いんだろうか。
しかし、砂漠でも暑さを感じないなら、今までと変わらない。
心配して損した。
「兄さんもありがとう。お蔭で行く前に心構えができたよ」
「蓮華の為なら、情報を知らせるのは当たり前ですよ。何か困った事があれば、すぐに私を頼りなさい」
その言葉に、抱きついて答える。
「うん、ありがとう兄さん」
今度は兄さんが狼狽えていた。
「ね、ロキ。結構くるでしょ?」
「え、ええ。この私が堕落してしまいそうです」
なんて意味の分からない会話をしていた。
私としては、母さんだけに抱きついたらあれだから、一応兄さんにもと思ってしただけなのだが。
この美男美女の二人は、私とアーネストに激甘だからなぁ。
「疲れたから、私は部屋に戻って寝るね。もしアーネストが帰ってきたら、起こして」
「うん、分かったよレンちゃん」
「ああ。ゆっくり眠りなさい蓮華」
そんな二人の言葉に安心して、欠伸を噛み殺しながらベッドに行くのだった。