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146.オーラ

 目の前に、ボロキレが転がっている。

 いやボロキレじゃなくて、ヘラクレスなんだけどね。

 アリス姉さんに、これでもかというくらいボコボコにされていた。


「蓮華さんが味わった痛み、万倍にして味わえー!!」


 なんて言いながら殴りまくるアリス姉さんに、嬉しさを感じる前に、もうやめて、ヘラクレスのライフポイントはもうゼロよ!って言いたくなった。

 私とアーネストの体をぺたぺた触ってたのは、傷の確認をしていたんだろうね。

 『ヒーリング』で治したけれど、アリス姉さんには分かるんだろう。

 で、現在ヘラクレスをアリス姉さんが片手で持ち上げて(見た目の違和感が凄い)街の入口へ再度向かってる。

 何しにって?もちろんバニラおばぁちゃんを迎えにだよ。

 何回往復してるんだ私達は。

 そうそう、ヘラクレスが纏っていた、気みたいなモノについて、アリス姉さんに聞いてみた。


「あぁ、それはオーラだよ。魔力と別物でね、使えると便利だよー?」


 オーラ、か。

 闘技大会でアーネストとアリス姉さんが戦う時に感じた、魔力じゃないあの感じは、オーラだったのかな。


「それ、俺でも使える?」


「使える使える。アーくん教えてあげようか?」


「ホントか!頼むよアリス!」


「アリス姉さん!私も!」


「もちろん良いよ!オーラを自在に扱えるようになったら、魔法や魔術の肉体強化が加算じゃなく乗算されるから、強くなれるよー」


 うは、それは凄い。


"というか、アーネストはまずアタシを使えるようになりなさいよ!今回だって、アタシを剣としてしか使ってないじゃないの!"


「おぅ、それも訓練するつもりだぜ!」


 そんな話をしながら、街の入口についたら、バニラおばぁちゃんが寝てた。


「おい蓮華。この人、よくこんな所で寝れるな……」


「まぁ、バニラおばぁちゃんだからね……」


 とりあえず、バニラおばぁちゃんを起こす事にする。


「アーネスト、起こして」


「良いけど、なんで距離をとってんだ蓮華?」


 経験則というかですね。

 そう何度も当たらんよ!


「バニラおばぁちゃん起きてくれよ。ってか、こんなとこで寝るなよ」


 ゆさゆさと肩を揺らすアーネスト。


「うぅん……あらぁ、アーネスト君、どこ行ってたのぉ?」


 なんて普通に起きた。

 くっそう!

 って何に悔しがってるんだ私は。

 別にアーネストが抱きしめられて助けを求めてくるのを鼻で笑いたかったとかそんなつもりはちょっとしかないよ!

 それから、またもや経緯を軽く説明する。

 その間、アリス姉さんがヘラクレスをくるくる回したりするものだからメッてしておいた。

 アリス姉さんがしょんぼりしてた。

 うぅ、ごめんなさいって言いたくなるこの破壊力。

 でも、人を片手で持ち上げて、コマみたいに回しちゃダメだと思うの、人として。

 で、その彼も目を覚ます。


「ぐっ……こ、ここは……」


「目が覚めた?」


「君は……まさか、俺が負けた、のか。しかし、なら何故俺は生きて……?」


「話を聞いて欲しいんだけどね。私達は別に魔剣に支配なんてされてないよ。だから、貴方も殺さないし、世界を滅ぼすなんて企んでもいないよ」


「魔剣を所持していながら、逆に支配しているという事か……。そうか、強いんだな、君達は」


 そう、理性を宿した優しい瞳で告げる。

 先ほどまでの狂戦士ぶりからは想像できないくらい、落ち着いている。


「まぁ、貴方を倒したのは私達じゃないけどね。私達じゃ、貴方に勝てなかったと思う。それくらい、強かったですよ」


「なら、俺を止めたのは……?」


 視線がアリス姉さんに集まる。


「今度蓮華さんとアーくんに酷い事しようとしたら、ブッコロス☆」


「!?」


 笑顔でそう言うアリス姉さんに、ヘラクレスが衝撃を受けていた。

 うん、気持ちは凄く分かる。

 この見た目で、この中で桁違いに一番強いからね。


「あ、貴女様は……精霊女神・アリスティア様ではっ……!?」


 へ?女神?アリス姉さんが!?


「あれ、それを知ってるって事は、貴方もしかして神界に居たの?」


 その言葉と同時に、ヘラクレスは平伏した。


「失礼を申し訳ございません!俺が、いえ私が直接神界に居たわけではございませんが、私の恩神から、貴女様の事はかねがねお聞きしておりました!」


 凄い巨体のヘラクレスが、小さなアリス姉さんに平伏しているのが違和感しかない。

 けど、アリス姉さんってそんなに凄い立場の人だったんだ。


「んー、別に気にしなくて良いよー?私、神界を降りちゃったし、精霊王の位も降りたからねー」


「そういうわけには参りません。貴女様の功績に威光は、階位が無くなったからと衰えはしません!」


 そう言って、なお平伏してる。

 でも、私はそれよりも、気になる単語を聞いた。

 アリス姉さんが、精霊王……?


「あ……。えーと、とりあえず起き上がれぇ!」


 ゴスゥ!!


「ぐはぁっ!?」


 アリス姉さんに蹴り上げられて、ヘラクレスが真上に飛ぶ。

 なんてキック力。

 アリス姉さん、色んな武器に精通してるのに、殴ったり蹴ったりする方が強いんですけど……。

 

 ドサァッ!!


「ぐふぅ……」


 ヘラクレスが落ちてきて呻いてる。

 そりゃ痛いよね……見てられなかったので、治癒魔法をかける。


「あ、ありがとう。だが、これは俺が受けるべき当然の痛みだ、気にしなくて構わない。知らぬ事とはいえ、アリスティア様のご友人に襲い掛かってしまったのだ。殺されても俺は文句は言えない」


 え、えぇ。

 この人、真面目すぎる……。


「あーもう!そういうの良いから!私はもうなんのしがらみもないの!普通に接して!」


 アリス姉さんのその言葉に、ヘラクレスはもう一度頭を下げる。


「ありがとうございますアリスティア様。寛大なご処置を賜り心よりお礼申し上げます」


 その言葉に、アリス姉さんが辟易した表情をする。

 アリス姉さんのこんな顔、初めて見た気がする。

 ちょっとおかしくて笑ってしまった。


「もぅ、蓮華さん笑うなんて酷いよー」


 そう言いつつアリス姉さんは笑っている。

 その姿を見て、ヘラクレスが言った。


「そうか、アリスティア様の庇護下にあるのなら、俺が何かをする必要も無かったな。すまなかった二人とも」


 そうして、私達にも頭を下げる。


「それはもう良いんだけどさ、ヘラクレスはこれからも魔剣を探すのか?」


 アーネストが聞いた。

 私もそれを聞きたかったので、黙って返答を待つ。


「ああ、俺はその為にこの世界にきた」


「そういえば、会った時に故郷が滅ぼされたって言ってたな」


「……あの魔剣も、世界を渡る。自分に合った適性の体を探し、見つけるとその体を乗っ取り、同族の魔剣や人を殺し、力を得る。そして、その世界の住人を皆殺しにした後、また世界を渡る」


 衝撃だった。

 そんな魔剣が存在しているなんて。


「その魔剣が、この世界に?」


「それは分からない。だがあの魔剣は、同族の魔剣からも力を得る。だから、俺は数多の世界の魔剣を破壊している」


「強いわけだな。けどさ、毎回あんな狂戦士になってて、大丈夫なのか?」


「……魔剣にも意志を宿している場合がある。そんな魔剣を正気で何本も破壊するのは、俺には辛い。だから、あえてこの方法で破壊している」


 この人は、優しい人なんだな。

 世界を守る為に、心を鬼にしてるんだ。

 そう知ると、こちらも怒る事ができない。


「んー、多分だけど、この世界にその魔剣は来てないよ」


 アリス姉さんが、そう答える。


「それは本当ですか!?」


 ヘラクレスが身を乗り出す。

 ちょっと怖い。

 貴方でかいんですって。


「うん。他の世界から異物が来たら、私やイザナミ、イザナギが気付かないわけないからね」


「そう、でしたか……良かった。なら俺は、他の世界を探しに行きます。あの魔剣を、放ってはおけない」


「んー、その魔剣の事、ちょっと調べてあげるよ。その代わり、蓮華さんとアーくんに稽古つけてあげてくれない?」


「「え!?」」


「俺が、ですか?」


「うん。ヘラクレスなら私の手加減なし攻撃でも耐えられるし、実演しないとオーラって教えにくいんだよねー。サンドバッグに良いかなって」


 笑顔で恐ろしい事を言うアリス姉さん。

 サンドバッグて……そんなもん嫌がるに決まって……


「アリスティア様のお役に立てるのでしたら、喜んで!!」


 喜んじゃったよ。

 この人、頭大丈夫なんだろうか。

 まぁ、強さは折り紙付きだけど……。


「もう一度、自己紹介をさせてもらうよ。俺はヘラクレス。他の世界もこの名で通しているよ。よろしく頼む」


「えーと……私は蓮華。レンゲ=フォン=ユグドラシル」


「俺はアーネスト=フォン=ユグドラシルだぜ」


「なんと、二人は兄妹だったのか。言ってはあれだが、あまり似ていないのだな」


「あはは……。それで、えっと……良いの?アリス姉さんのあんな無茶な話を聞いて」


「なっ……!?ままままさか、アリスティア様の妹様だったのか!?いや、だったのですか!?という事は、君も!?」


「え?ああ、俺は兄って事になって……」


「アリスティア様の兄上殿ぉぉぉぉっ!?」


 巨体が震えているのを間近で見ると、凄く怖い。

 なんでこんな恐怖を味わわなければいけないんだろうか。

 そしたら、今度は私達に平伏してきた。


「数々のご無礼、平に、平にご容赦をっ……!」


 アーネストと顔を見合わせる私。

 それから、普通にして良いって説得するのに、かなりの時間がかかった。

 この人、凄い強いのに、生真面目すぎて疲れる……。



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