141.VSネセル(1)
「アーネスト!その魔剣をとりあえず壊せば良いってソウルが!」
「おお!了解だ!」
私とアーネストがそれぞれ武器を構える。
「ソウルが……?もしかして、意識があるのぉ!?ソウルお姉様!!」
「「へ?」」
"主、無視して構いません、疾く!疾くぶっ壊してください!"
「えぇと、ソウルが速く壊せって言ってるけど、知り合いなの?」
「知り合い?人間風情が、アタシ達の事を語らないでくれるぅ?」
これは確実に重い知り合いだな、うん。
"主、奴の言葉に耳を傾ける必要はありません!さぁ疾く破壊してしまいましょう!"
なんとなくだけど、ソウルはアレを嫌がってるのが分かる。
まぁ、どちらにせよバニラおばぁちゃんを解放する為にも、一度破壊させてもらう。
「ま、なんでも構わないよ。バニラおばぁちゃんを解放してもらう」
ソウルを構える。
心なしか、魔力の通りが良い気がする。
昔に何があったのか知らないけど、いつか話してくれるかな?
「行くぞアーネスト!狙いはあの双剣だ!」
「おおっ!」
二人でバニラおばぁちゃんの持つ剣を狙う。
ギィン!ギィン!
しかし、軽く受け止められてしまう。
「くっ!バニラおばぁちゃん、ここまで身体能力が高かったのか!」
「元々持ってる力と、あの魔剣の力が合わさってんだろうな!蓮華、シルフの力は借りられねぇか!?」
「!!そうか!分かった!」
「させないわよぉレンちゃん!」
「それはこっちのセリフだぜ!!」
「アーネスト君、邪魔よぉ!」
「行かせねぇよ!!」
バニラおばぁちゃんから距離をとる。
私を追おうとするが、アーネストが防いでくれる。
ホント頼りになる奴だ。
さて、シルフを召喚しないとね。
「我が呼び掛けに応えよ、シルフ!」
竜巻が出たと思ったら、そこからシルフが飛び出てきた。
「召喚に応じ、来たよレンちゃん!」
「シルフ!早速で悪いんだけど、バニラおばぁちゃんの風を防げないかな!?」
「ふふ、まっかせて!そーれ!!」
「なっ!?風の加護が、切れたですってぇ!?」
「おらぁっ!」
ギィン!!
「くっ……!」
「どうした、動きが悪くなったぜ!!」
途端にアーネストが押し始める。
風の魔法で強化していたものが、全て効果を失ったからだろう。
「ありがとうシルフ!」
「どう致しましてレンちゃん!でも、気を付けた方が良いよ?あれ、あんまり長く乗っ取られていたら、本当に乗っ取られちゃう」
「!!」
「ボクじゃあーいうのは専門外だからね。さ、魔法で援護してあげるから、行こうレンちゃん!」
「うん、分かったよシルフ!アーネスト、今加勢する!」
そう言って、バニラおばぁちゃんに切り込む。
正確には、剣に。
「風の大精霊が、ハイエルフを見限ったというのぉ!?」
「それは違うね。ボクはその子を見限ってなんかいないよ?ただ、レンちゃんの頼みが何倍も大事なだけ!『サイクロンスライサー』」
私達とは比べ物にならない風の魔力が圧縮された魔法。
バニラおばぁちゃんに命中する事はなく、全て剣に直撃している。
私とアーネストの剣撃を防いでいる為、シルフの魔法は避けようがない。
「おのれぇっ……!地上にここまでの戦力が居るなんて、聞いていないわ!はかったわねメビウス!!」
メビウス?また知らない単語が出てきた。
まぁ、今は気にしても仕方がない。
このまま、押し切る!そう思っていたら、凄まじい魔力が双剣より放出される。
「この体は適正じゃないから、もう良いわ」
そう言って、バニラおばぁちゃんが崩れ落ちる。
それをなんとかキャッチする。
「んん……」
良かった、意識は戻ってないけど、大丈夫みたいだ。
少し離れた岩の横にバニラおばぁちゃんを寝かせ、戻る。
そこには、先程の双剣を持った、何かが居た。
「アタシはネセル。この魔剣の主よぉ。蓮華にアーネストだったわねぇ、やるじゃなーい?」
こいつが、バニラおばぁちゃんを乗っ取っていた魔剣の本体。
っていうか、人型に成れるのか。
真っ赤な服に、真っ赤な長剣。
髪の毛も目の色も赤いし、なんていうかこいつがイフリートって言われても納得しちゃいそうだ。
いやだってね、うちにいるイフリート、白髪の筋肉質なお爺さんなんだよ。
中国拳法服なんて着てるし、なんとかファイターか!って何回つっこんだか。
おっと、話がそれてしまった。
「えっと、この場合どうすれば良いのかなぁ」
「くぅ~……!」
あれ、なんかアーネストが震えてる。
どうしたんだろう?そう思って見つめる。
「蓮華!あいつ俺が貰っても良いよな!?」
「へ?」
「な、なに言ってるの!?アタシを、貰う!?」
「蓮華にはソウルイーターがあるじゃん!?俺も魔剣欲しいんだよ!あいつ双剣だしさ!」
あー……そういう事か。
「ああ、まぁうん、好きにしたら良いんじゃないかな……」
"主ぃ!?"
ソウルがすっごく切ない声をあげるけど……うん、許してほしい。
あぁなったアーネストは、止められない事を私は良く知ってるので。
「あ、アタシが欲しいって、正気!?」
「正気も正気だ!俺はお前が欲しい!超欲しい!!(双剣だから)」
「んなぁっ……!?」
あー……アーネストの心が透けて見える。
あれは双剣の魔剣だから欲しいって言ってるよね。
でも、あれは誤解するよ多分。
だって、それを聞いてるネセルって言ったっけ。
あの人?がすっごく真っ赤だから。
うん、元から赤いとかいう野暮な事は言わないで。
頬が少しピンクというかね?
「っ……た、たかが人間の分際で、アタシを欲しいなんて見る目があるじゃない。でもね、アタシは安い女じゃないのよ」
「良いぜ、なら俺と一対一で戦え!勝ったら、お前は俺のモンだ!」
「っ!!い、良いわ。その条件に乗ってあげる。アタシが勝ったら、アンタはアタシの下僕にしてあげるから」
「へっ!上等!」
なんだか二人がヤル気になってる。
もはや、私とシルフはぼけーっと二人を観戦モードに入っていたりする。
「ねぇシルフ、魔剣って強いの?」
「魔剣によるかなぁ。あれって、適合する依り代に力を与えるタイプだからねぇ……バニラちゃんの力、あれ適合率低くても二人とまともに戦えるくらいにまでなってたんだから、分かるよね?」
成程。
でも、そうだとしたら。
あの魔剣をアーネストが使える事になったら、凄そうだな。
なんて考えながら、観戦を続ける私だった。