140.魔剣・ネスルアーセブリンガー
「どうしたのぉレンちゃん!アーネスト君!アタシはこの程度じゃ倒せないわよぉ!」
ズザァッ!
「くっ!バニラさんっ!」
「蓮華、本気でやらねぇと負けるぞこれ!」
「っ!でも、バニラさんに攻撃するなんて……!」
「来ないなら、アタシから行くわよぉ!風よ、纏え!『インビジブル・ブレイド』!!」
ドゴォ!!
「ぐっ!?」
「蓮華っ!!」
「ふふ、流石固いわねぇレンちゃん。なら、削ってあげる!」
ヴヴヴヴヴヴ!!
バニラおばぁちゃんの周りに、緑色の球体が数えられないくらいに浮かび上がる。
「さぁ、行きなさい!『ウインドマシンガン』!!」
ドドドドドドッ!!
「「くっ!!」」
まるで銃弾の嵐をなんとか避ける。
どうして、こんな事にっ……!
-少し前-
「え?バニラお……バニラさんを迎えに、ですか?」
「はい、私共でとも思ったのですが、蓮華さんの方が良いかと思ったのですよ。引き受けてもらえませんか?」
「ええ、構いませんよ。場所は学園側に向かう街道の、フォルテスの入口で良いんですよね?」
「はい。お願いしますね蓮華さん。アーネストさんも連れて行っても構いませんよ?」
「あはは、分かりました」
シオンさんに呼ばれたので行ったら、バニラおばぁちゃんが学園に赴任してくるので、出迎えに行ってほしいとの事だった。
ただ、少し様子がおかしいとも聞いた。
いつもと違う感じがした、と。
この時の私は、まぁバニラおばぁちゃんだしなぁ……と特に気にしなかった。
もっと、深くとらえておくべきだった。
「蓮華、理事長はなんて?」
「うん、バニラおばぁちゃんを迎えに行ってくれないかって」
「あー、もう来るのか。って事は、スマホできたんだな!よし、俺も行くぜ!」
「はいはい、そう言うと思ってたよ。それじゃ、今回は二人で行くか」
「おう、早速行こうぜ!」
「ん、アリス姉さんとセルシウスに伝えておくから、先に学園の出口に行っといてくれるか?」
「あいよ!」
そう言ってアーネストと別れ、アリス姉さんとセルシウスに伝える。
アリス姉さんは一緒に来たがったけど……。
「どうせすぐ帰ってくるから」
と言って、待っててもらった。
大勢で行く必要もないからね。
この時、アリス姉さんに来てもらっておくべきだったと、後悔する事になるのだが。
そうして、学園の出口に着いた。
「やっときたか。あれ、アリスとセルシウスは?」
「どうせすぐ帰ってくるし、待っててもらったよ」
「あぁ、確かにそうだな。そんじゃ、行こうぜ蓮華!」
「ああ」
二人、のんびり街道を歩く。
この街道には魔物も出現しない為、元の世界の歩道を思い出す。
「なぁアーネスト、お前は元の世界の事、今も思いだすか?」
「そりゃ、な。でも、未練はないぜ。俺は俺の意思でこの世界を選んだからな」
「そっか」
そう微笑む私を、アーネストは不思議そうに見る。
「お前は違うのか蓮華?」
「いーや。ただ聞いただけだよ」
「そうか」
会話はそれで途切れる。
けど、別に気まずい沈黙というわけではなく、別に語らなくても良いって感じの、気楽な沈黙だ。
景色を楽しみながら、ただアーネストと二人歩く。
のんびりとした時間。
それも、もう終わりが近づく。
フォルテスの街が見えてきたからだ。
「意外と早かったな。そんで、バニラおばぁちゃんはどこで待ってるんだ?」
「学園に向かう側の街道、要はこの道をそのまま進めば、入口で待っててくれるみたいだけど……」
話していたら、バニラおばぁちゃんの姿を見かける。
「お、居るな!」
アーネストも見つけたようだ。
手を振ると、笑顔で……あれ、なんだろうこの違和感。
いつも通りの笑顔なのに、背筋がゾッとするような笑顔に感じた。
バニラおばぁちゃんの元に着く。
「こんにちはレンちゃん、アーネスト君。他の皆は居ないのね?」
「うん、どうせすぐ学園で会えるから」
「そーいう事」
アーネストと二人、答える。
「そう。それは丁度良いわねぇ……」
「「え?」」
チャキン
バニラおばぁちゃんが抜刀する。
それは、バニラおばぁちゃんの背と同じくらいの長さがある、細い剣。
それも、二刀。
「なんのつもりだバニラおばぁちゃん!?」
アーネストの問いに、バニラおばぁちゃんは、妖艶な笑みを向ける。
「だって、ずっと我慢してたの。さっきの街には餌が一杯居たけれど、極上の餌が待ってるのに、食べたら勿体ないじゃなぁい?」
背筋が凍った。
コレは、バニラおばぁちゃんじゃない。
体は確かにバニラおばぁちゃんだ。
だけど、中身が違う。
もしかして、剣に乗っ取られてるのか!?
「おい蓮華、ここじゃ街が近い。学園の近くまで逃げるぞ!」
「分かった!」
そう言って、元来た道へ走る。
「逃がさないわよぉレンちゃん!アーネスト君!」
バニラおばぁちゃんも追いかけてくる。
想定通りだけど、速いっ!?
「アーネスト、これは追いつかれるぞ!?」
「チッ、しょーがねぇ!もう少し進んだら、左右に分かれて挟むぞ!」
「分かった!」
「逃がさないわよぉ!!」
そう言って追いかけてくるバニラおばぁちゃん。
そのスピードは私達より速い。
追いつかれる一歩前で、左右に分かれる。
「!!」
バニラおばぁちゃんを挟んで、対峙する。
「ふふ、追いかけっこは終わりぃ?」
妖艶に微笑むバニラおばぁちゃんに、ソウルを向けようとする。
だけど、優しいバニラおばぁちゃんの言葉が脳裏に浮かんで、ソウルを構えられない。
「蓮華、どうしたんだ!」
「アーネスト、ごめん……私はバニラおばぁちゃんに剣を向けるなんてっ……!」
「ふふ、優しいレンちゃん。なら、大人しく私に斬られなさいねぇっ!!」
バニラおばぁちゃんの剣が私を斬ろうと近づく。
ギィィィィン!!
「させねぇよ!!蓮華を守ると俺は決めてんだ!例え相手が誰でも、それは曲げねぇ!!」
「アーネスト……」
「アーネスト君は厄介ねぇ。でも、これが防げるかしら!『マジックブレイド・風』」
「真空の刃!?チィッ!!」
アーネストがバニラおばぁちゃんの魔法を避ける。
けど、凄まじい数の風の刃が避けても避けても飛んでくる。
バニラおばぁちゃんは、事風の扱いにかけては私より上だ。
アーネストを狙いながら、私にも風の刃が飛んでくる。
「『エアリアル』!」
風の防護壁をまとい、風の刃を防ぐ。
そしてアーネストにも『エアリアル』をまとわせる。
「さんきゅ蓮華!おらぁっ!!」
ギギィィン!!
アーネストの攻撃を、難なく防ぐバニラおばぁちゃん。
『エアリアル』の上から、風の刃が押してくる。
「どうしたのぉレンちゃん!アーネスト君!アタシはこの程度じゃ倒せないわよぉ!」
ズザァッ!
「くっ!バニラさんっ!」
「蓮華、本気でやらねぇと負けるぞこれ!」
「っ!でも、バニラさんに攻撃するなんて……!」
「来ないなら、アタシから行くわよぉ!風よ、纏え!『インビジブル・ブレイド』!!」
ドゴォ!!
「ぐっ!?」
「蓮華っ!!」
「ふふ、流石固いわねぇレンちゃん。なら、削ってあげる!」
ヴヴヴヴヴヴ!!
バニラおばぁちゃんの周りに、緑色の球体が数えられないくらいに浮かび上がる。
「さぁ、行きなさい!『ウインドマシンガン』!!」
ドドドドドドッ!!
「「くっ!!」」
まるで銃弾の嵐をなんとか避ける。
どうして、こんな事にっ……!
「蓮華、あの剣だ!」
「剣!?」
バニラおばぁちゃんの魔法を避けながら、アーネストの言葉に耳を傾ける。
「ああ!あの剣から、バニラおばぁちゃんの魔力と違う魔力を感じる!多分、持ち主を乗っ取るタイプの魔剣だ!」
魔剣!?ソウル、分かる!?
"はい主。あれは魔剣・ネスルアーセブリンガーです。封印されし魔剣の一振りですが、アレは気に入らない持ち主に成り代わる危険な魔剣です主"
うへぇ、つまり今のバニラおばぁちゃんはバニラおばぁちゃんじゃないわけか。
良かったとは思うけど、どうしたら良いんだこれ!
"我が主。貴女の使う魔剣・ソウルイーターは奴になど負けません。思うがままに使ってください!!"
あー、うん。
そうじゃなくて、多分……あの双剣、アーネストの為に探してくれたんじゃないかなって。
だから、なんとかバニラおばぁちゃんの意識だけ戻せないかなと……。
"我が主、大丈夫です。我ら魔剣に消滅はありません。つまり、一度ボコボコにしても主が気に病む必要はないのです!さぁ!我を使い奴を討つのです!!"
う、うん。
なんだろうこの感じ、いやにソウルがヤル気なんだけど。
とりあえず、あの剣を攻撃すれば良いのなら、なんとかなるかな!