13.1つ目のオーブ
翌朝。
もう行く準備は整っているようだった。
「蓮華様、おはようございます。朝食は馬車の中でも食べられるように、サンドイッチにしておきましたよ」
「うん、ありがとうシリウス」
流石完璧超人。
私が起きた時間は朝の6時。
決して遅いわけじゃないんだけど、すでに準備完了とかもうね。
馬車に乗り込み、進む事数時間。
そろそろお昼かな?という頃に、馬車が止まる。
「蓮華様、ここから先は徒歩になります」
「了解」
馬車から降りる。
目の前には下へ降りる階段があった。
「やっぱり、魔物とか出るんだよね?」
「そうですね、恐らく住み着いている魔物は居るでしょう。魔力の溜まり場でもありますし、奥に進むほど、強力な魔物が住処としている可能性は高いかと」
やっぱいるよね、魔物。
気を引き締めて、階段を下りる。
洞窟を下りていく足音が、コツッコツッと響く。
すると、分かれ道があった。
「シリウス、どっちか分かる?」
「最初の分かれ道は右へ、その後は左、そして最後に中央、と覚えております」
「了解」
まずは右へ進む。
途中魔物が何体か出てきたけど、瞬殺だったので何も言う事がない。
「蓮華様は流石ですね……私はただの道案内ですねこれは」
と言われてしまったけれど、本当に弱い魔物だったので仕方ない。
次の分かれ道を左へ進む。
少し進むと、少し大きな空間へ出た。
真ん中は湖のようになっており、左右から回り込んで進むしかなさそうだ。
だが……感じる。
この湖のような中から、先程の魔物達より強大な魔力を感じる。
シリウスが剣を構える、が私が制する。
「蓮華様?」
「大丈夫、姿を現したら、一閃で片づけるよ」
この程度の魔力の魔物なら行ける気がしたので、一人湖へ近づく。
すると。
ドバァァァァッ!
と水を撒き散らしながら、巨大な首が出てきた。
「シャァァァァッ!!」
「『地斬疾空牙』」
ズバァッ!
「ァァ……?」
バシャァァァァン!!
首が二つに分断されて、湖の中に沈んでいった。
シリウスがポカンとしている。
「うん、見た目だけだったね」
あっけなさすぎて、そう言ってしまうのも仕方ないだろう。
「背は、遠いですね……ですが、諦めません、絶対に」
何かぽつりとシリウスが言っていたが、聞こえなかった。
「左右どっちに行っても先は同じみたいだね。行こうシリウス」
「はいっ!蓮華様!」
二人で先へ進んでいく。
すると、ソウルが頭の中に話しかけてきた。
“主様、オーブがあると思われる場所に、巨大な魔物が潜んでいます。オーブに魔力を注ぐ間、主様は無防備となりますし、先に倒した方が良いと思われます。”
潜んでるって事は、隠れてるわけか。
魔力を注いでる時に襲われたら、確かにキツイな。
シリウスも居るけど、万全は期したいし……ありがとうソウルと言っておいた。
“とんでもございません。また何かあれば、お知らせします。”
ソウルは、普段黙って私に従っている。
話しかければもちろん答えてくれるけど、基本は静かにしている。
私に配慮してくれているのが分かる。
その事もまた礼を言っておかないとね。
とんでもございませんとか言うのが目に見えてるけどさ。
さて、シリウスにも伝えておかないとね。
「シリウス、オーブの安置されている場所に、魔物が潜んでるみたいだから、先に潰すよ」
「ハッ!畏まりました!」
ん……?なんか、対応がおかしいような……?
まだ辿り着いてもいない場所に魔物が居るって言ったのに、疑わないし。
これ、護衛対象に取るような態度なんだろうか?この世界のこーいう基準はよく分からないので、何か言うのも憚られるから、突っ込まない事にした。
次の分かれ道は中央、だったね。
分かれ道を見つけ、中央を進んでいく。
すると、物凄く広い空間に出た。
「凄いな……魔力が渦を巻いてるのが分かる。あの中央にある台座みたいなのの上にある球がそうかな?」
「はい、蓮華様。間違いありません」
近づいて見てみる。
球には魔力が少し残されているようだが、確かにもう少ししか持たない感じがした。
何故か、残された魔力が優しい感じがした。
これは、以前に魔力を注いだ人の魔力なんだろう。
さて、魔力を注ぐ前に。
「シリウスはここに居て。もしオーブに衝撃が行きそうだったら、守って」
「畏まりました、蓮華様」
そういって構えるシリウス。
私の言葉に何の疑いも持たずに信じてくれるのを嬉しく感じながら。
「さぁ、そこで隠れてるつもりのデカブツ。悪いけど、視えてるんだよね」
そう言ってソウルを構える。
魔物が気付かれている事に気付き、こちらを凝視する。
「認識阻害の魔法をかけてるんだろ?おあいにく様、私はその魔法を解除できるんだよ」
魔物の姿は、いわゆるキメラとかいうのだ。
顔と体はライオン、尻尾は蛇か?それに羽まで生えてる。
この世界の人間か、そういった奴らに改造され、捨てられたんだろうか。
そう考えると、可哀相だと感じる。
こいつの怒りは、憎しみは、当然のものだと思う。
だけど、それを関係のない者にぶつけるのであれば、仕方ない。
チャキ!
ソウルをキメラに向ける。
「ごめんな。お前をそうした奴らをもし見つけたら、私が殺してやるから」
そう言葉にした後のキメラは、魔物なのに驚いた表情をした気がする。
もしかしたら、その言葉を理解したんだろうか。
ザシュン!
「グ……ガァァ……」
ドサァ!
一刀の元に斬り捨てる。
後ろでシリウスが、信じられない、といった顔で見ているのが分かる。
まぁ、うん……相手にならないのは、魔力差で分かってたんだよね。
ソウルを鞘に収めて戻る。
「蓮華様、どのようにしたら、蓮華様のように強くなれるのでしょうか……?」
なんて聞いてきた。
なので。
「うまい食事と適度な運動、かな?」
と言っておいた。
それを聞いた実際に訓練してた奴らは、文句言ってた気がするけど。
まぁ、シリウスも話半分で
「美味しい食事をとって、適度な運動ですか、成程……」
これ、信じてる!?ちょ、ちょっと待って!?
「あ、いやシリウス!ええとね、冗談というか、本当は本当なんだけど、それだけじゃないからね!?」
慌てて言ってしまった。
だけどシリウスは。
「クス、分かっております蓮華様」
と、凄く綺麗な笑顔で言ってきた。
本当かい。
まぁ、言っても仕方ない。
さぁ、本来の目的を果たそう。
台座の前に立ち、魔力を込め始める。
「シリウス、少し時間かかるから、ゆっくりしていて良いよ。魔物の気配も感じないから」
と言っておいた。
-シリウス視点-
「うん、見た目だけだったね」
そう言って構えを解く蓮華様。
でも、あれは間違いない、シーサーペントだった。
モンスターハンターランクで言えば、間違いなくA以上の者達が数十人集まって倒すような魔物だ。
王国騎士団と言えど、決して少なくない被害が出ていたはずだ。
それを、一太刀で沈めてしまう蓮華様に、
「背は、遠いですね……ですが、諦めません、絶対に」
そう呟いてしまったのも、仕方がないと思う。
物思いに耽っていたら。
「左右どっちに行っても先は同じみたいだね。行こうシリウス」
と蓮華様が声を掛けてくださった。
「はいっ!蓮華様!」
案内以外何も出来ていない自分を情けなく感じつつも、蓮華様に声を掛けられ嬉しい自分が居た。
見目麗しい姿でありながら、話をすると可愛らしさが出る蓮華様。
だというのに、魔物と対峙した時の蓮華様は、凄く美しく、格好良いのだから堪らない。
もはや、私は蓮華様に心酔しているのかもしれない。
そんな事を考えていると。
「シリウス、オーブの安置されている場所に、魔物が潜んでるみたいだから、先に潰すよ」
と仰られた。
「ハッ!畏まりました!」
すぐに返事をした。
蓮華様は感知の魔法も使えるのだろう。
本当に、なんでもできるお方だ。
そして台座のある広間に辿り着いた。
「シリウスはここに居て。もしオーブに衝撃が行きそうだったら、守って」
蓮華様から、頼まれた。
嬉しくなった私は、それを悟られないように。
「畏まりました、蓮華様」
と言い、構えた。
蓮華様の頼みを、果たす為に。
「さぁ、そこで隠れてるつもりのデカブツ。悪いけど、視えてるんだよね」
蓮華様がそう仰られた瞬間、魔物の姿が浮き彫りになった。
衝撃を受ける。
先程まで、あそこには何も居なかった。
隠れていた、なんて生易しいものではない。
あれは完全に消していた、存在を。
あれでは、気付けない。
気付けないから、初撃を絶対に防げない。
背筋が凍る。あんな魔物が居たのか、と。
それと同時に思う。
蓮華様は、それすらもお気づきになられていたのか、と。
そして。
「ごめんな。お前をそうした奴らをもし見つけたら、私が殺してやるから」
と仰られた。
後ろにいるここからでは、蓮華様の表情は見えない。
だが、きっと悲しい表情をされているのだろう。
あの方に、そんな表情はさせたくなかった。
心が少し痛む。
その後、また一太刀の元に倒してしまわれた。
あれは、そんな容易く倒せるような魔物ではない。
それは分かる。
だというのに、だ。
その辺の魔物を倒したかのような足取りで、蓮華様がこちらへ戻られる。
「蓮華様、どのようにしたら、蓮華様のように強くなれるのでしょうか……?」
そう、口に出てしまったのを許してほしい。
でも、そんな質問に蓮華様は答えてくださる。
「うまい食事と適度な運動、かな?」
蓮華様……。
「美味しい食事をとって、適度な運動ですか、成程……」
冗談だと分かっているのに、そう言ってしまった私は、きっとその後の蓮華様が見たかったからだ。
案の定、蓮華様は慌てて。
「あ、いやシリウス!ええとね、冗談というか、本当は本当なんだけど、それだけじゃないからね!?」
と仰ってくださって。
本当に、先程の格好良さとギャップがありすぎておかしくなった。
「クス、分かっております蓮華様」
と心からの笑顔でそう言えた。
蓮華様は納得していないようなお顔でしたが、それ以上は追及しないでいただけた。
「シリウス、少し時間かかるから、ゆっくりしていて良いよ。魔物の気配も感じないから」
と優しく仰ってくださる蓮華様に、この旅ももう終わりか、と残念に思う私だった。
-シリウス視点・了-