134.学園街・フォルテス(3)
午前の買い物を終えて、今はバイキングの出来る15Fに居る。
「蓮華さん、これからお休みの日は、買った服を色々着てね!」
「う、うん、善処するよ……」
「政治家みてぇな返事だな蓮華」
「五月蠅いよ」
「ってか、多すぎだろこれ。アイテムポーチに入れて良くないかこの量なら……」
しっかりと包装された箱を大量に持ち運んでいるアーネスト。
図らずも、よく漫画やアニメで見かけたあの状態になってたりする。
「そうはいかないよアーネスト。それに、私が買ったわけじゃないぞ?」
「ぐっ、それはそうなんだけど」
アーネストだって主犯の一人なんだから、拒否なんてさせるものか。
「まぁ荷物番はしててやるから、おかわり取って来たらどうだアーネスト。そんなもんじゃお腹一杯にならないだろ?」
「あーいや、俺はこんなもんで良いや」
どうしたんだろうか。
いつもなら、もっと食べてるのに。
「はぁ、タカヒロさんを呼べば良かったな。流石に肩身が狭めぇ……」
なんてアーネストが零す。
あぁ、そういう事か。
気にしないと思ってたけど、アーネストも気にはするんだな。
「アーネスト、気付かなくて悪かった」
「蓮華?」
「つまり、肉が食べたかったんだな?」
そう、今私達が食べている場所は女性が多い、デザートやフルーツだらけのビュッフェなのだ。
そりゃ、肉が食べたい健康男児のアーネストには辛かったろう。
私も最近は果実とか野菜を多く食べるので、そこに気が付かなかった。
「ちっげぇ!!そーじゃねぇよ!?」
あれ、違った。
「周りを見て見ろ、女だらけだろうが!」
言われて周りを見る。
うん、確かに男性が一人もいない。
いやちらほら居るけど……ちっちゃい子が。
「うん?」
「あのなぁ。お前はもう良いかもしれんけど、俺は見た目も男なわけだ。こういう所はなんか、居づらいんだよ」
「そういうもんかな?」
「想像してみろよ。周りが男だらけで、中にお前だけ女とか」
「別に何とも思わないけど……むしろ、騒げて楽しいんじゃないか?」
「……そうだった、お前はそうだったよ……なぁアリス、こいつのこういう所治さないと、危機感が足りねぇぞ?まぁ、蓮華に手を出すような阿呆はそう居ないだろうけどさ……」
「うん、分かってるよアーくん。なんせ着替えも、受け取ったその場でしようとするからね……」
「ああ、分かる……」
なんか二人が遠い目してる。
セルシウスが飲んでいたカップを置いてむせてる。
いやその、最近は気を付けているんだ、よ?
「ってわけでだ。俺はちょっとその辺で買い食いしてくるわ。こういうフルーツとかケーキとかばっかだと、気持ち悪くなるからさ!」
と言って、アーネストが離れて行ってしまった。
むぅ、私も肉が食べたくないわけじゃないんだけど、お腹がすぐに張ってしまうんだよなぁ。
「ふふ、蓮華さん少し寂しそうだね?」
「そうかな?ただ、私もアーネストと同じように食べれたらなぁって思っただけだよ?」
「そっか」
なんて微笑むアリス姉さん。
それから三人で食事を終えて、お店を出る。
アーネストを探そうとしたら、テンプレに出会った。
「よぅ可愛い子ちゃん達。俺達と遊ばない?」
でっかいのと中ぐらいの背丈のが二人。
チャラけた姿の三人組だ。
さて、ここは学園じゃない。
普通に権力を振りかざしたら、こいつらだけじゃなくてこいつらの家族にまで降りかかってしまう。
今は認識阻害の魔法をかけてるから、私達を私達として認識していないし、どうしようかな。
こういう奴らって、断ってもしつこかったりするからなぁ。
そう思ってたら、セルシウスが前に出た。
「ヒュウ!美人さんだねぇ。なぁ、遊ぼうぜ?」
「断るわ。私達は私達で用事があるの。分かったら私達に構わないでくれるかしら?」
私達の意思を告げたセルシウスが下がろうとした。
だけど……。
「まぁちょっと待ちなよ!」
そう言ってセルシウスの肩に触れた。
瞬間、そいつの手が凍る。
「「「え"」」」
「汚い手で私に触れないでくれる?」
「こ、このアマァ!!」
あー、古今東西、こういう奴の言葉って変わらないんだなぁ。
そう思っていたら、そいつらが手を振り上げた瞬間、剣が首元に。
「よぉ。俺の連れになんか用かお前ら」
アーネストだった。
双剣の片方を首元にあて、もう片方はいつでも触れるようにしていた。
「お、お、お前、は」
「あぁ、認識阻害の魔法かかってっから、分からねぇよな。蓮華、俺だけで良い。解いてくれ」
そう言われたので、解いた。
瞬間、そいつらがガクガクと震えだす。
「「「あ、あ、あああアーネスト様ぁぁぁ!?」」」
王覧試合でその素顔も知られ、更には学園でも名を知られるアーネストは、もはや学園街で知らない者は居ないのだろう。
「で、もう一度聞くが、俺の連れに何をしようとした?」
「「「す、すいませんでした!!」」」
そういって土下座をしだす三人。
うわぁ、引くわ。
「俺は何をしようとしたのか聞いてるんだけどな。ま、お前らが土下座するくらいの事をしようとしたって理解で良いんだな?」
そのアーネストのセリフに、滅茶苦茶震えている三人。
まぁ、私達じゃなかったら、その後の展開が逆版になってたかもしれないしなぁ……。
「俺は俺のダチに手を出す奴に容赦しねぇぞ?いっぺん死んでみるか?」
そういって、剣に魔術を付加し始めるアーネスト。
流石にそれはまずいと思って、止めようとしたらアリス姉さんに止められる。
なんで?と思ったら、アーネストの方を見るよう視線を移されたので、見ると。
「今回だけは見逃してやる。けど、次同じような事をしてるのが俺の耳に入ったら、俺が直接消しに行ってやるよ。お前達の魔力の波動、覚えたからよ。分かったら消えろ」
「「「す、すいませんでしたっ……!!!」」」
そう言って、転げながらも去っていく三人。
あの様子では、多分次に同じ事はしないだろう。
つまりアーネストは、二次被害を防ぐ為に徹底的にしたのか。
あとは、違う奴がそういう事をしないように。
「ったく、あーいう奴はどこにでもいんだな。すまねぇ、お前達なら自分でなんとかできたろうけど、学園街での事だったからさ、ちょっと俺の方で釘刺させてもらった」
「ううん、かっこよかったよアーくん!」
そのアリス姉さんのセリフと共に、経過を見守っていた周りの皆から拍手が起こる。
流石はマーガリン様のご子息様だわっ!とかなんとか聞こえてくる。
あいつら、女性が多いこの店の外で待ってたって事は計画的なんだろう。
他に被害にあった人が居ない事を祈ろう。
「あー、こういうのは苦手なんだよな。蓮華、他の階に転移する前に認識阻害の魔法かけなおしてくれ」
「ああ、分かった。アーネスト、かっこよかったぞ?」
って言ったら、笑って言うアーネスト。
「お前でも同じ事したろ」
って。
まぁ、否定はしない。
ひと悶着あったものの、買いたい物は買い終えた私達は、午後はウインドウショッピングを楽しんだ。
荷物の持ち運びは、今回の件でお昼からは勘弁してあげた。
アーネスト的にそっちの方が嬉しかったようで、笑ってしまったのは秘密だ。