132.学園街・フォルテス(1)
アーネストとはすぐ合流できたので、理事長室へ外出許可を取りに行った。
流石に2回目ともなると(アーネストは3回目なのかな?)すぐに手続きも終わった。
というか、次からは別に要らないって言われた。
秘密ですよって、良いのかそれで。
まぁ、助かるので有効活用させてもらおう。
カレンとアニスにもお礼を兼ねて何かプレゼントできないかなと思って、誘いに行ったんだけど、休みの日は王都に帰っているらしい。
本業をしなければならないのだとか、大変だよね。
あの二人、それ考えたら休みなしなんじゃ……。
残念だけど、一緒に行くのは次の機会にだね。
プレゼントできる物を今回の買い物で選ぼうと思う。
そして、街へ向かう道中。
「アーネスト、分かってると思うけど、お前は今日荷物持ちだからな?アイテムポーチなしの」
「ぐっ……分かってるよ、漫画やアニメでめっちゃ持たされてる奴いたけどさ、あんなに持たせるなよな……」
それは約束できないので、曖昧に微笑んでおいた。
私の意図する所を読んだのか、げんなりするアーネストに笑ってしまった。
「学園を囲うように一つの大きな街があるんだね蓮華さん。えっと、フォルテス?どこかで聞いたような名前だなぁ……」
なんてアリス姉さんが言ってる。
私は初耳なので、なんとも言えないけれど。
「お店での買い物はカードで良いと思うんだけど、屋台というか、出店で買うのは流石に現金必要だよね?私持ってないけど、カードから両替みたいなのできないの?」
「できるわけないだろ。ってか、出店でも基本このカードは使えるから大丈夫だ」
「え、そうなの?」
「ああ。魔道具があって、カードが魔術で認証されるからな。出店もその魔道具無しでは許可されてねぇし。前の世界の常識に捕らわれててどうすんだ」
成程。
でもアーネストにドヤァされると腹が立つので、横腹をつねっておいた。
「おまっ!今のは知らねぇ蓮華が悪くね!?」
はい、私が悪いです。
でもアーネストをつねるのに誰の許可もいりませんので。
「コノヤロウ……お前もこの痛みを味わえ!」
「あはっ!あははは!こしょばい、こしょばいからアーネスト!?」
つねるというか、横腹をくすぐられた。
おのれ、地味だけど効果的なやり返しを……!
なんて二人でしてたら、生暖かい視線を感じて振り返る。
アリス姉さんとセルシウスが、なんとも言えない表情で見ていた。
こう、笑いを堪えているのに、微笑んでる感じというか。
「アーネスト、ここは家じゃないんだぞ」
そう、街道だ。
こっち側から街へ行く人は私達くらいなので、まだ誰ともすれ違ってはいないけど。
「最初にやったの蓮華だよな!?」
そうだったっけ。
まぁそんな会話をしながら、たどり着いた学園街・フォルテス。
うへぇ、凄い人の数。
お店に呼び込む為に大声をあげてる人がいっぱいいるし、人通りが多すぎて歩くのがこれは大変そうだ。
あ、もちろん認識阻害の魔法は掛けてあるよ。
じゃないと、買い物どころの話じゃないからね。
「とりあえず、カレンとアニスに何かプレゼントあげたいんだけど、何が良いかなぁ」
「れ、蓮華、お前やっぱりそっちの道へ行くのか!?いやでも中身を考えたら正しいわけで……お、俺は応援するぞ蓮華!」
「お世話になったお礼だよバカ野郎がっ!」
ドスゥ!!
「ぐはっ!!そ、そうだよな、知ってたよ……」
お腹を押さえながら言うアーネストに、アリス姉さんとセルシウスが苦笑する。
まだ午前中だというのに、アーネストは耐えられるのか?
なんて馬鹿な事を考えてしまった。
私、アーネストにはすぐに手が出るんだよなぁ。
他の人にはそんな事ないのに。
まぁアーネストだからな、気にしなくて良いか。
「お前今滅茶苦茶な事考えてただろ……」
「何の事かな……」
目を逸らす私。
アーネストは溜息を吐きつつ、続ける。
「それじゃ、デパートの中適当に回ってみたら良いんじゃねぇか?」
「おぉアーくん、男の見せどころだね!」
「アリスとセルシウスにだったらともかく、蓮華にぃ?」
「オーケーアーネスト、それは私に喧嘩を売っているな?」
「はいはい、貴方達が絡むと進まないから、少し落ち着きなさい」
とセルシウスに間に入られてしまった。
いや、本気でやり合うつもりはなかったんだよ、本当だよ?
「ホントに蓮華さんとアーくんは見てて飽きないなぁ」
なんて笑ってるアリス姉さんだけど、貴女の言葉が元凶でしたよね。
「まぁ俺もそんな行った回数あるわけじゃねぇんだけどさ。景品の買い出しにアリシアに連れまわされた程度だし」
「ふーん、なんだかんだでデートしてるんじゃないかアーネスト」
とさっきの仕返しに言ってやった。
「馬鹿野郎、元の世界でいう文化祭の景品の買い出しだぞ?他の奴らが手が離せねぇからって、俺とアリシアに白羽の矢が立っちまったんだよ。男代表と女代表でな」
滅茶苦茶嫌そうに言うアーネスト。
なんでだろう、アーネストはアリシアさんをかなり嫌がってる気がするんだけど。
「なぁアーネスト、アリシアさんの事嫌いなのか?」
「え?いや?そんな事ねぇよ。ただ、生理的に受け付けないだけで」
そんな事言われる人初めてみたよ。
私達は揃って苦笑する。
アリシアさん、よりにもよってアーネスト狙いなんだよね……アーネスト以外なら、多分誰でも喜んでOKするだろうに……がんば……。
「んな事より、行こうぜ。あそこの縦に長い建物あるだろ?あそこは色々売ってるから便利だぜ」
ふむ、デパートか。
名前がフォルテス百貨店……まんまだな。
でも、街の名前を冠してるだけあって、外観が大きい。
1階に入ると、美味しそうな匂いが漂ってくる。
パン屋が入口の両端を陣取ってる、いきなり合戦スタイルとはやるね。
問答無用で美味しそうな匂いが漂ってきて困る。
少し進むと案内ボードがあって、どこに何があるかがでっかく表記されていた。
カレンとアニスに贈るなら、ブローチとかアクセサリーが良いよね。
えっと、装飾品売り場は……10F、凄く上にあるのね……。
「皆、最初に10Fに寄っても良いかな?皆の行きたい所があったら、そっち優先で良いけど」
「ううん、蓮華さんの行きたい所でもちろん良いよー!」
「ええ」
「俺も別に行きたいとこってねぇからなぁ。お前が行きたい所あんなら、それで良いんじゃね?」
なんて反対意見も出なかったので、向かう事にしたんだけど……。
あれ、エレベーターも階段もないんだけど、どうやって行くの?
「蓮華、まーたお前元の世界のエレベーターとかエスカレーターとか探してんじゃねぇだろな……」
うっ……バレてる。
「ははっ、まぁかく言う俺も、アリシアに教えてもらうまでそんな感じだったけどな。もう思い出すだけで腹が立つぜ……」
ああ、ひょっとして、アーネストがアリシアさんを嫌がるのって、ずっとからかわれ続けてきたからじゃ……。
異性というより、煩い姉みたいな感じにアーネストの中ではなってしまってるんじゃないかな。
そう考えると、自業自得のような……うぅん。
「こっちだ皆。ほら、魔法陣が連なってるだろ?その中に数字が書いてあるの分かるか?」
「あ、本当だ。成程、これで行きたい階の魔法陣に乗れば良いわけか」
「そーいう事。10はあれだな、行こうぜ」
そう言って進むアーネストに続く。
元の世界と色々な所が違って新鮮で楽しい。
10Fについたら、キラキラ輝いて見えた。
色んなアクセサリーが並んでる。
「なんか、お店の人というか、そういう買うところが分からないんだけど、どうやって買うのアーネスト」
「ああ、商品の横に、カードをかざす所あるだろ?」
「うん。これ、一つ一つ全部にあるんだね」
「それにカードを置けば、その商品を直接取って良いんだ。それで買ったって事さ」
「それ、防犯上どうなの……」
「商品は全部魔力でそこに固定されてんのさ。だから、普通の人にそれを解除して取るなんてできねぇよ。ちなみに、蓮華でも無理だぞ多分。なんせそれ創ってるの母さんだからな」
「そもそもそんな事しないよ!!」
「はは、分かってるって。言ってみただけだっての」
そう笑うアーネスト。
でも母さん、色々な事で国に手を貸してるんだなぁ。
そっか、だから皆母さんを知ってて、尊敬してるんだな。
さて、まずはカレンとアニスへのプレゼントを探すとするかな。