129.その頃、学園では
「各員!私が戦線を維持します!私を先頭に、偃月の陣を疾く敷きなさい!」
偃月の陣とは、中軍が前にでて両翼を下げた『Λ』の形だ。
大将が先頭となって敵に切り込む陣形の為、士気が高くなる。
「「「「はいっ!!」」」」
「アニス、魔物をこれ以上侵入させるわけにはいきません。私が突破しますから、貴女は私の後ろを任せますわよ」
「はい、カレンお姉様!」
「蓮華お姉様の居ない今、私達で完全な勝利を為さねばなりません。それ即ち、犠牲者を出さない事。行きますわよ!!」
「「「「おおーーーーっ!!」」」」
カレン率いる学園の生徒達が、突如現れた魔物達に対抗するべく、陣を構える。
カレン達の指導もあり、学園生達は己の出来る事をしっかりと把握し、それを行えるだけの実力をつけてきていた。
その甲斐あって、攻撃・防御・支援と役割を分担し、事に当たっている。
また、インペリアルナイトマスターの指揮の元で戦えるという高揚感が、生徒達の士気を高めていた。
しかし、増え続ける敵に、次第に押され始める。
「くっ……この魔物達は一体どこからっ……!」
カレン達が知る由もないのだが、これはゼクンドゥスの造ったダンジョンから、漏れた魔物達である。
蓮華とセルシウスにより、滅茶苦茶に破壊されたダンジョンは、学園の中に繋がる道を作ってしまったのである。
モンスタースポットと呼ばれる核が存在する間が存在し、そこから溢れているのだ。
これは持ち主の魔力が関係の無い、一種の龍脈のようなモノであるため、封じなければ延々と魔物が召喚される。
このモンスタースポットの特性として、召喚すればするほど、次に召喚される魔物が強くなっていくという傾向がある。
通常、その周りにあるマナを吸収し、少しづつ召喚する為、そこまでの強さの魔物には至らない。
だが、今回は魔神であるゼクンドゥスが仕掛けた物であり、周りに強大なマナの込められた宝石が山のように積んであった。
ただひたすらに、蓮華を追い詰める為に用意されたモノ。
つまり、無尽蔵に召喚されるのだ。
ズバァッ!!
「ギャァオン!?」
「この程度なら私達は大丈夫ですが……生徒達が持ちませんわね。アニス、部隊の再編をお願いしますわ。後退して休めるように」
「了解です、カレンお姉様」
すぐに行動に移すアニスを見送るカレン。
「さて……」
「「「キシャァァァッ!」」」
「化け物に好かれても、全く嬉しくありませんわね。さぁサラマンドラ、出番ですわ。私にその力、貸してくださいませ!」
「オォォォォォォッ!!」
カレンが大精霊・サラマンドラを召喚する。
巨大な龍の出現に驚く生徒達だが、カレンが召喚し、使役している所を見て味方と知り、更に士気が上がる。
サラマンドラの吐くブレスで、一気にその数を減らす魔物達。
しかし、次に近づいてくる魔物達は、龍種の群れだった。
「嘘でしょう……空からの魔物……サラマンドラ、空を、任せますわ」
それは、地上をカレンのみで相手どる事を意味する。
魔物の中でも上位の存在である龍種。
その群れである。
いくらカレンが強かろうと、防ぎきれる可能性は低い。
それを理解しているサラマンドラは難色を示す。
しかし、カレンは言う。
「大丈夫、必ず蓮華お姉様が来てくださいますわ。私は、それまで絶対に耐えて見せますわ。国民を守る、その国民を守る為の未来の兵達を、ここで死なせるわけにはまいりませんの!」
そう強い意志を込めた瞳で見つめられ、サラマンドラは空へ羽ばたく。
空の龍達を、一掃する為に。
「さぁ、ドラゴン達。王国・フォースが誇るインペリアルナイトが一人、カレン=ジェミニがお相手して差し上げますわ!」
細長い長剣を構え、そう告げるカレンに、見惚れる生徒達。
戦いの最中とはいえ、その強い意志を秘めた言葉は、皆の胸をうったのだ。
そうして、戦いを続けるが、数の暴力は凄まじく、傷を重ねていくカレン。
「くっ……!皆は一度下がりなさい!」
「し、しかしカレン様っ!!」
「戦場では上官の命令は絶対ですわ!」
「っ!はいっ!」
そうして、カレンを残し生徒達は後方へ下がる。
「……蓮華お姉様、これなら私は、叱られませんよね……」
死を覚悟し、目を瞑るカレン。
「いーや、それで死んだら怒られるぜカレン」
そこに、一陣の風が巻き起こる。
現れたのは……。
「あ、アーネスト様!?」
「おう、よく耐えてくれたな。魔物達が外に出ないように、学園に結界を張るのを手伝っててな、遅れてすまねぇ」
「いえ……本当に、助かりますわ」
「空はアリシアとタカヒロさんに任せろ。あの二人飛べるらしいからな」
「人間ですかそれは……」
「あー、アリシアは悪魔だしな。タカヒロさんはそういったスキルがあるらしいぞ?」
「はぁ、蓮華お姉様の友人は、つくづく凄い方達ばかりですわね」
「フン、アンタに言われたくないわね」
「ノルンさん!」
「中々やるじゃない。地上のインペリアルナイトなんて、大した事ないと思ってたんだけどね。アンタ達は違った。大精霊も使役してるみたいだし、やるじゃない」
そう微笑み合う二人。
そこには、互いを認める姿があった。
「よし、そんじゃ掃討開始すっか!」
「ええ!」
「はい!……その、つかぬ事をお聞きしますが、蓮華お姉様はどちらに?」
そう、ずっと気になっていた事をカレンは聞いた。
しかし、アーネストにも分からないのだ。
「俺にも分からねぇ。けど、あいつがこの事態を知って、現れねぇわけがねぇ。つまり、この事態を知れてない、何かに巻き込まれてるってこった」
「成程、つまり私達は、こんな程度の魔物達に……時間をかけるわけにはいかないという事ですわね!」
「ああ、そういうこった!」
それぞれ武器を構える。
「ったく、蓮華は目を離すとすぐに何かに巻き込まれてるわね。アンタ達、蓮華を見つける邪魔をするなら、容赦しないわよ!!」
三人は目前の龍達に駆ける。
凄まじい力を誇る三人は、相手が龍種であろうと、次々と屠っていくのだった。
-空-
大精霊・サラマンドラが、ワイバーン達をブレスで焼き落としていく。
そこに、二人の人影が現れる。
「こいつら、魔界の魔物に似ていないか?もしかして、『サリギアの儀』の生き残りか?」
「そんなわけないでしょタカヒロ。多分、どこかにモンスタースポットの核があるわね」
タカヒロとアリシアの二人だ。
空を飛ぶスキルと魔法を使い、二人は空中に居る。
サラマンドラは二人を知っている為、攻撃を仕掛ける事はない。
「なら、それを見つけないといたちごっこって事か」
「場所は大体分かるわ。けど、そこに向かうのがキツイわね。なんせ、近づけば近づくほど魔物が多いもの」
「もうめんどくさいから、この辺全部爆発させちまうとかダメか?」
「それで核が消滅しなかったら、目も当てられないわよ?」
「チッ……よりめんどくさいな」
「ま、下は会長にノルンが居るし、上は私とタカヒロが居るから、戦線が崩れる事はないでしょ。後は……」
「蓮華さん次第って事だな」
「ええ。さて、おしゃべりはここまでね。第二陣が来たわよ」
「おいおい……ワイバーンの上位種まで居るじゃねぇか。これ、倒し続けたらヤバイことになりそうだな」
「ま、やるしかないわね。最悪、アスモデウスに戻るしかないわね」
「やれやれ……やるとするか!」
そうして、空と陸での戦いが激化する。
蓮華はまだ、この事を知らない。