128.vsゼクンドゥス
今までより一際大きな広間へ出る。
ゼクンドゥスの魔力を感じる。
その姿を見つけたので、跳躍する。
「よく来たな蓮華、かんげふぅ!?」
ドゴォォォォン!!
ゼクンドゥスが壁にめり込んだ。
思いっきり頬をぶん殴ってやった。
ふぅ、少しスッキリした。
ガラッドサァッ!
「ぐふぅ、れ、蓮華よ。普通ここは会話から始まるのが様式美というものではないか……?」
そんなもん知らないよ。
私の積もり積もった鬱憤を、少しでも早く晴らしたかっただけだもの。
「ク、ククッ……意のままにならぬ存在というのも良い物だ。それを手に入れた時、どんな極上の美酒でも味わぐほぉぁ!?」
ドガァァァァン!!
わぉ、セルシウスの見事な蹴りが決まって、再度壁にめり込むゼクンドゥス。
「ええぇい、いい加減にせぬか!俺をここまでコケにするとは、許さ……ふむ、それほど怒りは湧かぬな?何故だ?」
なんか言い出した。
「それよりもむしろ、もっと攻撃をしてほしいような、なんだこの高揚感っ……!」
気持ち悪い事言い出したよ。
セルシウスも若干引いている。
「ククッ……だが、このままではお前も興ざめだろう蓮華。ならばこそ、魅せよう蓮華。この俺の力をな!!」
凄まじい魔力がゼクンドゥスを包む。
こいつ、ただの阿呆な奴じゃなかったのか!
「行くぞ蓮華、此度はあの時とは違うぞ!」
ソウルを構え、槍の乱れ突きをなんとか避ける。
「このっ……!調子に乗るなっ!!」
ギィン!!
「ククッ……良いぞ蓮華。この俺の妃となるからには、最低その程度の実力は備えていて貰わねばな!」
「気色の悪い事を、言うなっ!!」
ギィン!!
槍を切り払う。
そこへ、セルシウスの連撃が入った。
「ぬぅっ!おのれ、蓮華の付属物の分際で、邪魔をするな!!」
ブォン!!
ゼクンドゥスの槍を、セルシウスは難なく避ける。
その際に槍を蹴り、後方へと飛び下がる。
流石セルシウスは戦い慣れてる。
「ふむ、俺の力を持ってしても、そのまま戦えば危ういか。ならば、やはり使うしかあるまいな」
そう言って、瓶を取り出す。
その瓶の栓を抜き、地面に垂らした瞬間、魔方陣が浮き上がる。
「!!レンゲ、通路に戻って!早く!!」
「!?」
「ククッ、もう遅い!!」
ブオォォォォン!!
「ぐっ……こ、れはっ……!?」
「これぞ『封魔呪縛・六芒星の陣』だ。魔力の高い者程、この魔方陣の効果によって弱体化されるのだ」
「レン、ゲ……!」
セルシウスが床に手をつく。
私も、立っているのがやっとの状態だ。
「ククッ……俺が何の手も無く、ここに誘い込むと思ったか?お前を手に入れる為の方法を考えていたのだ」
「そ、れが……あの夢を見させて……私を怒らせて、ここに来るように仕向けたのかっ!」
「そういう事だ。まぁ、怒りに任せて一人で来なかったのは意外だったが、大精霊一人、何の問題も無い」
くっ……こんな罠があったなんて。
でも、気持ちだけは負けない。
こんなふざけた奴に、負けるものかっ!
「良いな蓮華、その気丈さも素晴らしい。今からお前が手に入ると思うと、心が躍るぞ」
そう言ってゆっくり歩いてくるゼクンドゥス。
私はソウルを構えようとするが、いつもよりソウルが重くて、持ち上げられない。
私まであと一歩、と言う所で、頼もしい声が聞こえた。
「下種が、妾の友に何をするつもりじゃ」
「蓮華さんからぁ……離れろぉぉぉぉっ!!」
ゴスゥ!!
「ごはぁっ!?」
ドゴオオオオオンッ!!
アリス姉さんにぶん殴られて、私の後方へぶっ飛んでいくゼクンドゥス。
「アリス姉さん!ミレニア!!」
「大丈夫だった蓮華さん!?もう安心だからね!!」
そう言って、抱きしめてくるアリス姉さん。
そして、ゆっくりと近づいてくるミレニア。
「まったく、お主はもう少し静かに暮らせぬのかえ?」
なんて、優しい表情で言ってくれるミレニアに苦笑する。
「セルシウス、蓮華さんを守ってくれてありがとね!」
「いいえ、肝心な所で敵の罠に嵌ってしまったわ」
「そんな事ないよ。蓮華さんとセルシウスが暴れてくれたおかげで、場所の特定もすぐできたし、こうして完全に包囲してからこれたからね。もうあいつは逃げられないよ」
包囲って、どういう事だろう。
ガラッ
「ぐっ……なんという一撃だ。再生が追いつかぬ、だと……」
見ると、ゼクンドゥスが私やセルシウスから受けたダメージとは比べ物にならない、悲惨な状態になっていた。
「さて、お主に道を示してやろうか。どんな小細工を弄したところで真の力の前では無意味。最終的に純粋な力でぶつかり合うしかないじゃろう?」
そう言ってゼクンドゥスの前に立つミレニア。
いやうん、あれは詰んだね。
大人しく私に倒されてれば、まだ楽に死ねたと思うよ。
「真祖・ミレニアだと……まさか貴女程の方が、蓮華に加担していると!?」
「我が意は伝えた。応えよ下賤の魔神よ」
圧倒的魔力が、ミレニアより迸る。
いやこれ、大人と子供の差があるよ……?
もっとかな……少なくとも、ゼクンドゥスは弱くは無かった。
だけど、相手が悪すぎる。
最強の吸血鬼の真祖。
「う、うぉぉぉっ!!」
ゼクンドゥスが攻撃を仕掛けようとする。
だけど、ミレニアがそれより早く唱えた。
「『ストームオブミレニアム』」
瞬間、世界が弾けたかと思った。
凄まじい爆音と共に、世界が白に包まれた。
色が戻った時には、ゼクンドゥスが消えていた。
「い、今のは?」
「妾の得意魔法の一つでな。凝縮した魔力を一箇所に爆発させる、シンプルで回避不能な一撃なのじゃ」
事も無げに言うけど、恐ろしすぎる。
この人が敵でなくて本当に良かったよ……。
「アリス姉さん、ミレニアを呼びに行ってたんだね」
「うん、幻惑魔法を使う奴だったから、もっと陰険な事してくるかなって思ってね。ミレニアなら、そういうの一切効かないから、いざとなったら助けて貰おうと思って」
「まったく、朝も早くから起こしおってからに。蓮華の事でなければ、まだ寝ておったのじゃがな」
そういうミレニアにお礼を伝える。
だって、わざわざ私の為に来てくれたんだもんね。
「よいよい。妾も少し気にかかる事があったでな」
「気にかかる事?」
「うむ、ゼクンドゥスじゃがな、あ奴はあれも分身体じゃな」
「分身体?」
「要は偽物という事じゃ。本体であれば、ここに魔神の核が落ちるはずじゃからな」
「という事は、あいつはまだ生きてるって事か……」
「まぁ、妾が味方していると知ったのじゃから、これからは迂闊に手出しもせぬじゃろう。仮にしてきたら、今度は本体を滅してやるでな」
という頼もしい言葉を聞いて、安心した。
でも、私は色んな人に助けられてるな。
もっと、強くならないと……いつも誰かの助けがあるとは限らないんだから。
それに、いつかは私が助ける側になりたい。
そう思った。