126.夢
「っ!?」
掛け布団を半分ほど捲り、体を起こす。
「はぁっ……はぁっ……」
寝汗が凄い。
時計を見ると、まだ午前4時。
起きるにはまだ早すぎ、もう一度寝るには微妙な時間。
酷く、嫌な夢を見た。
いや、あれは夢だったんだろうか……。
今はもう、はっきりとは思い出せない。
だけど、あれは……。
顔を振り、忘れる事にする。
ただの夢だ、気にしてもしょうがない。
だけど、妙に感触がリアルで、現実にあった事だと、混同しそうになる。
でも、ありえない。
私が、そんな……を、……そうとするなんて。
ありえない。
時間も時間だし、シャワーで寝汗を落とそうと思い、風呂場に行く。
この時、横を確認しておくべきだった。
布団に、誰も居なかったのだ。
服を脱ぎ、お風呂のドアを開ける。
「っ!?」
そこには。
「あ、ありす、姉さん……」
血塗れた姿のアリス姉さんが、横たわっていた。
「うぁぁああぁぁぁ!?」
ガバッと起き上がる。
「はぁっ!はぁっ!」
ゆ、夢?どう、なってるんだ。
今度こそ横を見た。
アリス姉さんもセルシウスもまだ眠っている。
時間は午前3時。
……3時?さっきの夢では、午前4時だった。
もしかして、この1時間の間に、アリス姉さんをあんなにした出来事が起こる、のか?
いや、さっきのはただの夢だ。
そんな事、ありえるわけがない。
だけど、一度気になったから、寝たふりをして待つ事にした。
すると、横で寝ているアリス姉さんが起き上がった。
「アリス姉さん?」
「……」
呼びかけても返事が無い。
そのままアリス姉さんは、風呂場の方へ歩いていく。
私はすぐに追いかけた。
アリス姉さんは服も脱がず、風呂場へ進んでいく。
そこで、見た。
黒いコートを着たモノが、宙に浮いて大きな鎌を構えている。
アリス姉さんはそれを見て言った。
「……」
ダメだ、何を言ってるのか分からない。
でも、それを聞いたそいつが、鎌を振り下ろす。
させるものかっ!!
「はぁぁぁっ!!」
魔力でそいつを吹き飛ばす。
いや吹き飛ばしたつもりだった。
そいつには、効いていない。
いや、そもそもが届いていない。
そして、無情にもその鎌は、アリス姉さんを斬った。
崩れ落ちるアリス姉さん。
その後、そいつは消えてしまった。
「あ、あぁ……ぁぁぁぁぁっ!!」
血塗れたアリス姉さん。
私は、何も出来なかった。
どう、してこんな事に……。
アリス姉さんを抱きしめる。
……?何かが、違う。
コレは本当にアリス姉さんか?
目を凝らして良く見る。
違う。
コレはアリス姉さんじゃない。
そして、この場所も、違う。
ここは、私が居た場所じゃない。
「……姿を現せ。私にこんな悪夢を見せて、何がしたいのか知らないけど……アリス姉さんを模した事、後悔させてやる」
私はかなり怒って言った。
すると、闇から姿を現した。
こいつに、見覚えがあった。
そう、オーブに魔力を込めに行った時に出会った。
確かに、殺したはずなのに。
「ククッ……楽しんで貰えたかな?」
「ゼクンドゥス、だったか?趣味が悪いな」
「覚えていてくれたか蓮華よ。なに、お前の絶望に染まる顔が見たかったのだが、何故気付いた?」
「アリス姉さんが重かったからだよ。その違和感から、綻びを見つけたら、すぐ解けた」
「ククッ……クククッ……そうか、やはりお前は面白いな。あのロキが気に掛ける事はあるという事か」
なんでそこで兄さんの名前が出るんだ?でも、それを言うわけにはいかない。
相手に情報を渡すような事は極力しない。
「それで、死んだのに化けて出てきたのか?」
「クク、そうではない。俺はそもそも死んでいないのだからな。なに、お前と少し遊びたくてな」
「私と?私は遠慮したいけどな」
「まぁそう言うな。この学園の生徒達を皆殺しにされたくないだろう?」
「お前……!」
「この学園に、唯一結界が張られていない場所がある事は知っているな?そこにダンジョンを創っておいた。そこの奥で待つ。俺を倒す事ができたなら、俺は帰ろうではないか」
「何が目的だ」
「言ったろう?お前と遊びたいとな。では、待っているぞ蓮華」
そう言った瞬間、ゼクンドゥスは消え、世界が綻び始めた。
ああ、夢から覚めるんだな、そう思った。
「蓮華さん!蓮華さん!!」
「う……」
「良かった、目が覚めたんだね!もぅ、心配させてぇ……」
そう言って抱きついてくるアリス姉さん。
その体をぎゅっと抱きしめる。
「れ、蓮華さん?」
良かった、本物だ。
本物のアリス姉さんだ。
嬉しくて、抱きしめる力を強める。
「ど、どうしたの蓮華さん?いつもなら、すぐに引き剥がすのに」
「うん、ちょっと夢見が悪くてね……」
「幻惑の魔法を掛けられていたわ。異常に強くて、外からでは解除できなかったの。無事で良かったわレンゲ」
そうセルシウスが言ってくれる。
だから、先程の悪夢の事を伝える。
ゼクンドゥスの事を。
「魔神、か。蓮華さん、そいつは一人で来るように言ったの?」
「ううん、ただその奥で待つって言ってただけだけど……」
その言葉に、ニヤっとするアリス姉さん。
「そっか、ならちょっと、私は別行動するね蓮華さん。その場所には、セルシウスと二人で行って貰っても良い?」
「それは良いけど、アリス姉さんはどうするの?」
「ふふ、それはね。そいつに生まれてきた事を後悔させてあげようと思って。ふふ、うふふふ……よりにもよって私で蓮華さんを悲しませるなんて、そいつブッコロス……!」
な、なんかアリス姉さんが凄い邪悪な笑みをしてる。
触れないでおこう……。
そうして、私はセルシウスと共に、ゼクンドゥスが待つという場所へ向かう事にした。