125.崩れる洞窟
最後の一体を倒し終える。
床に零れ落ちる液体が、床を更に滑りやすくする。
この洞窟に入ってから、異様に滑りやすいのはこれか。
戦ってる最中に何か視線を感じたんだけど、それも途中から無くなったので、勘違いかもしれない。
「うぅ、全身がヌルヌルするよぅ……」
アリス姉さんは戦闘中も転びまくってたので、もはや見るも無残な姿に……。
セルシウスなんて一度も転んだところを見てないんだけどね、どうやってるんだ……。
そんな視線に気付いたのか、セルシウスが言ってくれた。
「ああ、足元を魔力で覆ったのよ、滑らないように」
その手があったか!!
私とアリス姉さん、カレンにアニスが心底驚いた表情をしている中で、ノルンだけが呆れていた。
「なんで、気付いてないのよ……」
そう零すノルンは、そう言えば最初に転んだ以外、転んでいない。
うぅ、教えてくれても良いじゃないか……ってまぁ、すぐに戦いになったし言う暇も無かったかな。
にしてもこの魔物達、なんか変だった。
普通の魔物と違って、なんていうんだろう……殺気のような感じをまったく受けなかった。
それにこの魔物達、私達に襲い掛かっては来るんだけど、どの攻撃も私達を直接傷つけるような物じゃなかった。
なんていうか、無力化させようとしてきたような?
もう倒してしまったので確認のしようもないけど、もしかしてこの魔物達……。
女性を拘束してあんな事やこんな事をするつもりだったのでは!?
ゆ、許せん。
やっぱり滅殺して正解だったね。
というか最初にその被害を受けそうだったのが私だったよ、ひぇぇぇ。
とか考えていたら、洞窟が揺れ出した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
「な、なにこの揺れ!?」
「蓮華さん!岩が崩れてきてる!崩壊するかもしれないよ!」
アリス姉さんが叫ぶ。
もっと調べてみたかったけど、今も地響きが止むことが無いので、断念する事にした。
好奇心は身を滅ぼすって言うし、こんな事で生き埋めとかごめんだ。
「皆、私に触れて!」
私が何をするのか瞬時に理解した皆は、私の肩に手を置く。
アリス姉さん、抱きつかなくて良いんですよ……。
「『リターン』!」
唱えた後、洞窟の入口に戻る。
その瞬間、入口に土砂が積もり、中に入れなくなった。
いや魔法で吹き飛ばせば入れるかもしれないけど、通路ももう塞がってるだろう。
「はぁ、結局なんだったのかしらね、このダンジョン」
「ダンジョン、なのかな?」
「学園のダンジョンだと想像してたんだけどね。だってあの魔物、殺傷能力無かったでしょ」
ノルンも気付いていたみたいだ。
「もし仮にそうなら、私共に説明がされているはずですわ。どちらにせよ、この事は理事長に報告しておきますわね」
そのカレンの言葉に頷く私達。
「ねぇ蓮華さん、私お風呂入りたいよぅ……」
そういえば、アリス姉さんは全身べとべとだ。
私やカレン、アニスも多少濡れてるし。
「この時間ならまだ誰も居ないだろうし、皆入ってきなよ」
うん、私はその間にもうちょっと見て回ろうかな。
そう思って言ったのに。
「えぇー。蓮華さんも一緒に入ろうよー」
「えぇ!?」
「そうですわ蓮華お姉様。私達も多少汚れてしまっているのですし、汗も落としたいですわ」
「はい!蓮華お姉様もご一緒致しましょう!」
なんてカレンとアニスも言ってくる。
いやあの、私が元男だってもう知ってるよね!?
セルシウスを見る。
「私は気にしないわよ?」
うそぉ!?
最後の望みを託してノルンを見る。
「はぁ、ここで私だけ嫌がるのも変でしょ。それに、アンタはもう女性なんだから、慣れなさいよ」
ぐはぁ!最後の砦のノルンが砦になってなかった。
「蓮華さん、皆もう蓮華さんは女の子だって思ってるよ?だから、気にしなくて良いんだよー?」
ぐぅぅ、そうアリス姉さんは言ってくれるけど、私は心まで女の子になった覚えはないんだー!
「お」
「「「「「お?」」」」」
「お腹すいたから何か食べてくるね!皆はお風呂入ってきてね!!」
そう言って、ダッシュで逃げた。
「蓮華さん!?」
「「蓮華お姉様!?」」
等々私を呼ぶ声が聞こえたけど、全部スルーだぁ!
自分の体は見慣れたけど、同世代の女の子の裸を見るわけにはいかないよ!
捕まるよ私!いや捕まらないんだけど!
と、ここで普通なら逃げきれるんだけど、私の周りは私以上に凄い存在が居る事を忘れていた。
ゴツン!!
「ごふぅ!?」
アリス姉さんに頭から体当たりをされて、地面にこんがらがる。
「うふふ、逃がさないよー蓮華さーん!」
ひぃぃぃ、地獄の閻魔がそこに居た。
皆も追いついてきた。
「諦めなさい、蓮華」
そうノルンに言われて、もはや項垂れるしかない私だった。
連れてこられた浴場は、温泉として見ても大きすぎる気がした。
なんせ、私は初めてここに入るので。
だって、普段部屋に備え付けられたお風呂に入ってたからね。
学園、お金の掛ける所間違ってませんか。
食事にお風呂、あれ、間違ってないのか。
そんな事を考えていたら、皆もう脱ぎ終わっている。
バスタオルでノルンは隠してるけど、アリス姉さんなんてすっぽんぽんである。
「蓮華さん、早く入ろうよー!」
うぅ、覚悟を決めるしかない。
そう思って脱ぎ始めると、なんか視線を感じる。
横を見たら、カレンとアニスがじっと見てた。
「あの、脱ぎづらいんですけど……」
「「お気になさらず!!」」
変態かこの二人は。
セルシウスに目配せしたら、二人の首根っこを掴んで、浴場に先に行ってくれた。
「「後生ですセルシウス様ー!?」」
なんて二人が言っていたけど、なんであの二人は私が絡むと阿呆になるんですかね。
普段キリッとしてて、格好良いのに。
そして脱ぎ終わったところで、ノルンからバスタオルを受け取って、羽織る。
待っててくれたみたいだ、優しいよねノルンは。
「ありがとノルン。というか、皆なんで平気なんだよぅ……」
「そりゃ、これからこんな機会は多々あるでしょ。それをいちいち気にしてたら、身が持たないじゃない。一応言っておくけど、私だって恥ずかしいんだからね!」
そうノルンが顔を真っ赤にして言ってくる。
バスタオル一枚でそんな表情されたら、その、困る。
でも、アリス姉さんが体当たりしてきたので、なんかもう吹っきれた。
「もう、待ちきれないのは分かったから。まず体洗わないとねアリス姉さん」
「そだね!私が背中流してあげるね蓮華さん!」
「はいはい」
もう無我の境地でいる事にした。
ノルンの言うように、こんな機会はこれから多々あるだろう。
皆と一緒にいると決めたんだから。
体を洗い、お風呂につかる。
くぅ~……あったまるぅ……。
どうせならこのままお酒じゃなくて良いから、飲み物でも飲みたくなるのはおっさんがゆえだろうか。
周り女の子ばかりだし、浮いちゃうなそれは。
「良い気持ちですわ……まさか蓮華お姉様とこうして、お風呂に一緒に入る機会が訪れるなんて、神に感謝致しますわ……」
「はい、カレンお姉様……」
なんて、お風呂につかって若干顔が緩んでる二人が言う。
バシャバシャ!!
「ってアリス姉さん!お風呂で泳がないの!!」
「だって、広いんだもん蓮華さーん!」
子供か!と叫ぶところだったけど、アリス姉さんの体格は本当に子供みたいなので、何とも言えなくなった。
っていやいや!この人母さんや兄さん達と同世代だよね!?
見た目に騙されちゃいけない人ナンバーワンだよね!!
と思ったけど、今も楽しそうに泳いでるアリス姉さんを見たら、どうでも良くなった。
「ねぇ蓮華」
「うん?どうしたのノルン」
「……ありがとね」
そう、聞こえないくらい小声で、ノルンが言ってくれた。
「何の事?私はお礼をされるような事してないよ。だって、友達でしょ?」
そう言って微笑んだら、ノルンも微笑み返してくれた。
セルシウスも離れた所でお風呂に入っている。
氷の大精霊なのに、大丈夫なのかな?
と以前は思ったけど、アストラル体なので適度に気持ち良いらしい。
よく分からないけど、本人が良いと言ってるから、良いんだろう。
そうして体がのぼせる前にお風呂から上がって、備え付けてある自販機からコーヒー牛乳を選択。
「ングッ……ングッ……ングッ……プハァー!これが一番美味しいよね!」
腰に手を当てて飲みきり笑顔で言ったら、ノルンにおやじくさいと言われた。
だって美味しいんだよ……?
言い返したら味の問題じゃないって、くそぅ。
日本人なら分かってくれるはずなのに、アーネストぉ……。
まぁ、皆同じの選択して飲んでた。
美味しいよね、お風呂上りのコーヒー牛乳。
そうして、まだ早い時間なので、私達の部屋に皆で集まった。
カレンとアニスに理事長に伝えに行かなくて良いの?
と一応聞いたけど、そんなの後で良いって言われてしまった。
それで良いの?と思いながらも、皆で楽しく過ごしたのだった。