124.DMS団
-ニガキ視点-
映像から、我らの自信作であるウツボ軍団が次々と屠られているのが見える。
「くっ……流石は蓮華様。こうも易々と倒されるとは……!」
俺の名はニガキ。
別に某霊能探偵に倒されたDr○チガキの弟だとか兄だとか言うわけではない。
もっと言うなら、この名前も両親からつけられたものですらなく、言葉を話す魔物から、ニガイガキだなお前、と言われてつけられた。
短縮してニガキというわけだ。
俺は日本という比較的恵まれた国で生まれた。
どうせ転生するなら、やっぱ貴族だよな!とか思っていたのも今は昔。
俺は何故死んだのかも思い出せない。
なんせ、普通に夜寝て、起きたら魔物に囲まれていたのだから。
普通に心臓が飛び出るかと思った。
目を開けたら目の前に化け物だらけだったんだ。
これで平静としてられる奴が居たら、そいつはきっと気が狂ってる。
まぁそんな中で、俺は食べられる途中だったみたいだ。
だけど、俺の全身が苦すぎて食べられたものじゃないみたいで、吐き出され今の言葉という事だ。
どうりで全身がベタベタすると思った。
自分を見ると、どうやら子供のようだ。
ここまでどうやって生きてきたのかも分からない。
もしかしたら、飲みこまれたショックで死んだのかもしれない。
それで俺が転生したとか……全てが憶測で、真実は分からない。
けれど、そんな言葉を話す魔物は言った。
「お前、俺達の言葉が分かってるみたいだな。普通の人間とは違うって事か。おいニガイガキ……長ったらしいな、ニガキで良いか。ニガキ、お前は幸運だぞ?俺に食われなかっただけじゃなく、これから子分になれるんだからな!」
ちょっと何言ってるか分かんないです。
いきなり子分とかジャイ○ンかよ。
その凶悪な見た目で日本語話すなよ、違和感しかねぇんだよ。
そう思ってみていたのだが。
「返事はどうした!!」
「イエスボス!!」
と言って軍隊式の挨拶を咄嗟にしてしまった。
俺ってヘタレ……。
でも、その挨拶に気を良くしたのか、その魔物は笑って言った。
「ぐははっ!それ良いな!よしお前ら、これから俺にはニガキが言ったように返事しろ!」
「「「イエスボス!!」」」
なんか、笑ってしまった。
見た目魔物なのに、日本語を話す魔物達。
それでいて、不思議と邪悪な感じがしなかった。
いやまぁ、少し前に食べられる所だったので、そう言うのもあれだったけど。
そして、連れられた集落では、色々な魔物と、亜人って言うんだろうか。
様々な種族の者達が交流していた。
「おいニガキ、ここは俺達の村、パンドラボックスだ。人間はお前だけだが、仲良くしろよ。俺の子分である以上、誰もお前に手を出そうとはしねぇからよ」
そう笑って言う、俺を子分にした魔物。
「えっと……俺はニガキ、で分かりました。なら、貴方は……?」
と言ったら、物凄い大きな声量で笑った。
「ぐははははっ!お前俺に名前なんてあると思うか?俺達は魔物だ、意思疎通できるからな、呼び名なんて普段使わねぇ。お前は人間で、意思疎通ができねぇから、名付けただけだ」
名前が無いのか。
それは、元日本人の俺としては、なんか納得がいかなかった。
この魔物は凄いどでかい図体をしている。
昔やってたゲームに出てくるモンスター、ト○ールみたいだ。
なんかそう考えたら、そうとしか見えなくなった。
ならそう呼ぼう。
「それじゃ、失礼かもしれませんけど……トロルさんって呼ばせて貰います。俺は人間なので、呼び名が無いと不便なんです」
と言ったら、トロルさんはポカーンとした。
「……お前、変わってやがるな。良いだろう、俺の事はトロルサンと呼べ。ぐはっ、ぐはは!そうかトロルサンか、良い名前だ!おいお前ら!俺の事はこれからトロルサンと呼べ!がははははっ!!」
ちょっ!さんは違う!それは違うんだ!
なんて思うのも後の祭り、トロルさんって呼んだのに、トロルサンになってしまった。
まぁ、喜んでるみたいだし良いという事にした。
それから、俺はこのよく分からない世界でトロルサンと仲間達に囲まれて、生活してきた。
この世界にも四季はあるみたいで、温かい時期や寒い時期があった。
何回かその移り変わりを経験した後、何かこう、普段と変わった感じを受けるようになった。
大地が、森が、喜んでいるかのような。
「おいニガキ、気付いたか?」
「うん、トロルさん。これ、もしかしてマナが溢れてる?」
「そうだ。俺達が信仰するドライアド様。そのドライアド様の加護が、濃くなった。これはつまり、ドライアド様の恵みってわけだ。皆を集めろ、宴の準備だ!」
「イエスボス!!」
それから、三日三晩皆で大騒ぎだった。
大精霊様の加護で、森の植物達は活性化し、そこで生きる動物達もまた、過ごしやすくなるのだとか。
魔物も例にもれず、強くなるのだとか。
「なぁニガキ、俺達は魔物だ。だが、魔物には魔物のルールってのがある。それは、俺達を守ってくださる大精霊様には、何があっても無礼な真似はしないって事だ。分かるか?」
「イエスボス」
「おぅ、それが分かってれば良い。……ニガキ、お前は人間だ。俺達の元を離れて、人間の住む所へ行け」
「!?」
それは、衝撃だった。
俺はもう、ここの村の皆を家族だと思っていたから。
「嫌だよトロルさん!俺、皆と一緒が良いよ!!」
「っ!泣かせてくれるなニガキ。良いか、何度も言うが俺達は魔物だ。いつかは人間に殺されるかもしれねぇ。そんなところをお前に見せたくはねぇんだ」
「なら尚更だよ!俺が、俺が皆を守るよ!!」
「今のお前に守られるほど、俺達は落ちぶれちゃいねぇよ!……がはは!なら、強くなって帰ってこいニガキ!俺達も、生きるからよ!」
そう言うトロルさんに呼応するように、皆集まってくれた。
その時、俺は決めた。
俺は魔物達と一緒に、暮らせる世界を作ってみせると。
言葉を話せない、理性の無い魔物は仕方がない。
だけど、トロルさんや皆のように、言葉が通じて、話し合えるのなら、きっと……!
そうして、俺は住み慣れたパンドラボックスの村を離れた。
食料は皆がたくさん持たせてくれた。
亜人の商人の方が、アイテムポーチなるものをくれたので、携帯も楽々だ。
俺はそれから人知れず活動をする事にした。
同じような境遇の者を集めるのには苦労したが、一つの組織を作る事にまで成功した。
それが、大精霊の事をもっと知りたい団、通称D("だ"い精霊の事を)M("も"っと)S("し"りたい)団だ。
公に魔物と暮らせるように、と謳ったところで、誰も入団してはくれない。
だから、大精霊様の名を使わせて貰う事にした。
そして、団を大きくして、ゆくゆくは……そう考えていた。
地下を掘り進み、ヴィクトリアス学園の地下に施設を作った。
ここはマナが他より溢れており、研究にも都合が良かった。
そう、団員だけでなく、団員が使役する魔物を研究していたのだ。
まずは魔物が全て凶悪な存在ではないと、知らしめる為に。
人間とだって、手を取り合えると証明する為に。
その先駆けとして作っていたのが、ウツボ軍団。
当然ウツボに殺傷能力など皆無だ。
蔓は相手を拘束する為に。
香りは相手の殺意を奪う為に。
毒のような症状は、アルコールのような物で、力がでにくくなるという物だ。
呑み込んだらあら不思議、体内のオイルですべすべのお肌になるという、女性大喜びのしろものだ。
ただまぁ、作りすぎて、その体内のオイルが零れまくり、通路が異様に滑りやすくなってしまったのは誤算だった。
おかげで、あの通路を使えなくなり、洞窟を封鎖できなくなってしまった。
まぁそのせいで、蓮華様達に見つかってしまったのだが……。
「ど、どうしますかニガキ様!このままでは、この場所もいずれ蓮華様達に見つかってしまいます!」
「くっ……仕方がない、この施設は爆破する!俺達が居る限り、いくらでも立て直せる!」
「「ニガキ様……!」」
「皆、こんなこともあろうかと、時限式ダイナマイトを仕掛けてある!俺はそれを起動する!先に脱出しろ!」
「「はっ!ニガキ様もどうか御無事で!」」
そう言って先に脱出する皆を見送る。
さて、蓮華様。
大精霊の名を使っている俺を、貴女様はきっとお許しにならないでしょう。
俺は、俺のなすべき事の為、まだ貴女様に見つかるわけにはいかない。
そうして俺は、時限式ダイナマイトを起動したのだった。
-ニガキ視点・了-