121.伝達・交流=スマートフォン?
バニラさんに案内された部屋。
もしかしなくても社長室とかいうやつですよねこれ。
奥に大きな机と椅子が二つ、出入り口から奥にある机の間にゆったりしたスペースがあって、足のももあたりにあるテーブル。
大きなソファーがあって、座ると良い感じの高さにテーブルがくる。
皆で好きな所に座ろうとしたら、バニラさんに入口から遠い方に私とアーネストは座らされた。
異世界にきてまで、上座下座とか味わいたくなかったですバニラさん……。
そう思ってバニラさんを見たら、苦笑して言ってくれた。
「ごめんねぇレンちゃん。初めて来てくれたからぁ、最初だけ、ね?」
そういう事か。
それなら、しょうがないよね。
アーネストの方を向いたら、同じように苦笑して頷いてくれた。
それから、私達が今回きた理由を説明した。
「情報を伝達したり、交流する機械ねぇ……成程ねん、そんな物もレンちゃんの時代にはあったのねぇ」
と興味深そうに聞いてくれた。
「できるかな、バニラさん」
そう聞いてみたら、頼もしい返事をもらえた。
「まっかせてぇ。すでに創られてる物なら、アタシに創れないなんてありえないわぁ!その、すまぁとふぉん?だったかしら?の詳しい情報を後で聞かせて貰っても良いかしらぁ?」
その言葉に、一も二もなく頷いた。
うん、後?
「うふふ、レンちゃんとアーネスト君には、社員の皆と一度顔合わせをしておきたいのぉ。覚えなくてもいいから、声をかけてあげてくれたら皆喜ぶからぁ」
うへぇ、でも私達の為に入ってくれたのなら、それくらいするべきだよね。
「まぁ、しょうがねーか。そんじゃ、他の皆はどうすんの?」
「実はねぇ、以前に二人に話してた、VRゲームのテストプレイをして欲しいのぉ。人数は多い方が良いから、もし良ければどうかしらぁ?」
「「「VRゲーム?」」」
と、皆が首を傾げる。
いや皆じゃないな。
一人、感動してる人がいた。
「マジか、この世界でVRゲームを体験できる日がこようとは……!」
って言ってる人が一人。
うん、気持ちは分かる。
「一体何に感激してるのタカヒロ……」
ノルンには分からないかぁ。
そーかぁ。
そんな事を考えていたら、タカヒロさんがこちらの視線に気付いて、親指をグッと立ててきた。
ホント面白い人だよね。
思わず同じように返した私を見て、皆首を傾げていた。
アーネストは笑ってたけど。
とりあえず、私とアーネストも、そのVRゲームができるという部屋に案内してもらった。
「なにこのカプセル」
そう、人が一人余裕で入れるような、大きいカプセルがたくさんあった。
「まだテスト用だからねん。色んな事に対応できるように、全身が入るボックスにしたのぉ。実際に販売するのは、頭に引っ付けてもらう形の物になる予定よぉ」
とバニラさんが説明してくれる。
「あとねん、レンちゃんに頼みがあるんだけどぉ……」
「頼み?」
「このVRゲームの欠点でねぇ、その、衛生上良くないでしょう?このゲームをしている間、無防備だからぁ……」
ああ、そういう事か。
確かに、意識がこの世界にないわけだもんね。
「だからねん、この機械が起動している間と、起動後1分間ほどの間、レンちゃんの魔力で守られるように、コーティングしてもらえないかしらぁ」
「それは良いんだけど、なんで私?」
「えっとねぇ、他の人でもできなくはないんだけどぉ、使い切りになっちゃうでしょう?だけど、レンちゃんの魔力は世界樹の魔力だからぁ、自動で補充できちゃうでしょう?」
あ、そういう事か。
それなら、一度起動して消費しても、大気中のマナで回復して、また起動中は守ってくれるって事か。
「すげぇ、考え付きもしなかったぜ。確かにそれなら安全だな。それに、蓮華の魔力ならそうそう破れる奴なんていねぇだろうし」
アーネストもそう言う。
そうだね、使用者を守れるなら、この機械の一番の不安要素を無くせる。
「うん、それくらいならお安い御用だよバニラさん」
だから、そう答えておいた。
「ありがとうねぇレンちゃん!」
そう言って微笑むバニラおばぁちゃんは、本当に綺麗なお姉さんだ。
これでおばぁちゃん呼びに拘らなければ完璧なのに……。
それから簡単な操作方法を聞いて私とアーネスト以外は皆カプセルに入っていった。
この部屋に来れるのは今は私達だけらしいので、安全との事。
まぁ、一応私の魔力で包んでおいたけどね。
それから、皆はVRの世界へ、私とアーネストはバニラおばぁちゃんと共に会社の案内をしてもらった。
皆仕事中なのに、作業を止めて立ち上がって挨拶してくれる。
私もアーネストも、そっち側だったんだけどなぁと苦笑しながら、皆と挨拶を交わしていった。
「バニラさん、アプリ開発までしてるんだね……」
「うふふ、アーネスト君が持ってきてくれた中で、面白そうなのがあったからねぇ。この世界でも流行ると思ったのよぉ」
なんてウインクしながら言ってくるバニラおばぁちゃんは、抜け目ないなぁと思った。
「なぁバニラおばぁちゃん、これから作るスマホに、そういったゲームとか入れれるかな?」
「できると思うけどぉ、レンちゃん達だけで使うんでしょう?」
「あー、それもそうか」
「スマホは私達だけで、でもVRゲームを広めて、皆でできるようにしたら良いんじゃないかアーネスト」
「そうだな!」
「ええ、機械にはプロテクトをかけておくから、誰も複製できないようにしておくから安心してねぇ。我がユグドラシル社の専売よぉ、うふふふふふ……」
なんて笑うバニラおばぁちゃんがちょっと怖かった。
アーネストと二人苦笑する。
うん、味方で良かったよこの人……いやハイエルフ。
「それはそうとぉ、VRはまだまだ試作段階だから、色々とこうした方が良いとか聞きたいのぉ。だから、レンちゃんの学園に持っていっても良いかしらぁ?」
「「え?」」
アーネストとハモる。
いやだって。
「え、えっと、私の一存で決めれるような事じゃないような……」
「大丈夫よぉ。シオン先生からお手紙が来てて、レンちゃんの言う事は大抵許可しますって言われてるからぁ」
なんでですか!?
あぁ、母さんの子供だからか!
あの人本当に理事長で良いのか!?
「そ、そうなんだ。それじゃ、良いんじゃないかな、もう……」
「やったぁ!ありがとうねぇレンちゃん!」
なんて言ってくるバニラおばぁちゃんに、脱力する私だった。
「それじゃ、私も学園に行く準備しなくちゃねぇ。すまぁとふぉん?だったかしら、それを創ってから、学園に行くからねぇ」
そっか、バニラおばぁちゃんも学園に来るのか。
それはちょっと嬉しい、ような、また騒がしくなりそうなような……。
「はは。そんじゃ、挨拶回り終わったなら、そろそろVRゲーム俺達もしたいんだけど……」
とアーネストが言うので、同意しかけたら……。
「あらぁ、本社はこれで終わりなんだけどぉ、まだ第二、第三支部がそこにあるから、まだまだ付き合ってねぇ?」
なんて言われて、アーネストと顔を見合わせる。
「「うそぉ!?」」
なんて声を大にして言っても、しょうがないよね。
それから、私とアーネストが皆の元に戻れたのは、日が暮れかけた夕方だった。
学園の規則もあるので、これで帰らねばならず……。
結局私とアーネストはVRゲームをプレイできなかった、くっそぅ!