119.ユグドラシル社
『ポータル』を使い、王都・エイランドに着いた。
そこからバニラおばあちゃんの家へ歩いて向かった。
今回は認識阻害魔法を全員に掛けてから向かったので、騒がれる事もなかった。
え?もちろん私とアーネストが気付いたんですよ?
……嘘言いましたごめんなさい。
私とアーネストはそのまま行こうとしました。
皆ちゃんと気付くんだもん、凄いよね。
まぁそれはそれとして。
まさかカレンとアニス、明先輩まで来るなんて……。
-遡る事数十分前-
「「蓮華お姉様ー!!!」」
「ごふぅっ!?」
皆で話していたら、走ってきて飛びついてきた二人によって、呻き声をあげる私。
「「蓮華お姉様蓮華お姉様蓮華お姉様ー!!」
「あははっ!あははははっ!こしょばいから、こしょばいから!?」
すりすりと頭をこすりつけてくる二人にやめるように懇願する。
「あー、すまん蓮華。理事長室に行ったら、二人が理事長と話していてさ。事情を理事長に簡単に話したら、二人も行くって聞かなくてさ」
なんてアーネストが経緯を説明してくれる。
まぁ、二人にはお世話になってばかりだし、仕方ないね。
「ええと、二人とも仕事は良いの?」
「蓮華お姉様とご一緒できる事以上に大切な仕事など、この世に存在致しませんわ!」
「はい!カレンお姉様の仰る通りです!」
二人のあんまりな発言に、私だけでなく皆苦笑している。
それで良いのかインペリアルナイトマスター。
ちなみに、二人の影に隠れてしまってはいるんだけど……。
「セルシウスさん……!今日も素敵だっ……!」
なんて目を輝かせてる明先輩も居た。
「アーネスト?」
「いや、その、な。帰り道に明とも会ってさ。なんやかんやでついてきたんだよ」
「すみません蓮華さん、前生徒会長も、現会長と同じく話を聞いてくれませんので……」
と申し訳なさそうに言うアリシアさんと、明先輩の登場で露骨に嫌そうにするセルシウスに苦笑してしまう。
「また結構な人数になったね……。バニラさんの迷惑にならなければ良いんだけど……」
「あー、まぁ大丈夫じゃないか。あの人ならむしろ喜ぶんじゃないか?」
それもそうな気はする。
という事で、初めて話した人達も居るので自己紹介とかも終えて、今に至る。
ぞろぞろと歩いているので、認識阻害魔法をかけていても、ちょっと目を引いてしまうみたいで、見られてはいる。
まぁ騒ぎにならないので、気にしないでおこう。
そうこうするうちにバニラおばあちゃんの家に着いた。
相変わらず立派な家だけど、バニラおばあちゃん居ないのかな?
大声で呼びかけても誰も出てこないし、見渡しても誰も居ない。
おかしいな、メイドさんとか結構居たはずなのに。
「なぁ蓮華、気付かないうちに隣に高層ビルが建ってんだけどさ、もしかしてそっちに居るんじゃないか?」
うぅ、見ないようにしていたのに、言ってくるアーネスト。
そりゃね、同じ敷地内にね、こんな大きい建物があって、目につかない方がおかしいけどさ。
「うん、そうかもね……。バニラさん、なんてもの建ててるのさ……」
このファンタジーに似つかわしくない建物。
しかも、原理がどうなってるのかさっぱりだけど、逆三角形なんですけど。
上に行くほど広がってるんですけど。
物理法則を無視してるっていえばファンタジーだけど、なんてもの建ててるんだろうか。
よく見たら、入口に石碑がある。
掘られた文字に私とアーネストの言葉が重なる。
「「ユグドラシル社ー!?」」
この奇妙な建物は会社ですかそうですか。
「ねぇ蓮華、アンタ会社まで経営してるの?」
「これは驚いたな。その若さでもう社長なのか、もしかして」
なんてノルンとタカヒロさんが言ってくるけど、そうじゃない。
私達の知らない所で、知らない間にそうなってるだけで。
とりあえず、もう認識阻害の魔法は解除して、逆三角形の建物の中に入る事にした。
ちょっと進むと、受付のお姉さんが席に座っているのが見えたので、そこに向かう。
「あの、すみません。バニラさん居ますか?」
って聞いてみただけなんだけど……。
「こ、これは社長!!ようこそおいでくださいました!!皆!蓮華様とアーネスト様、並びにご友人の方々がいらしたわよ!!」
そう大声で言ったかと思うと、凄まじい数の人達が、一斉に集まってきた。
ちょ、流石に予想外すぎるんですけど!?
「蓮華さん、アーくん、なにやったらこんな事になるの……?」
なんてアリス姉さんに言われるけど、私が知りたいです。
パンパン
「はーい皆ぁ。レンちゃんにアーネスト君が来て嬉しいのは分かるけどぉ、仕事に戻りなさいねぇ。後はアタシが案内するからねん。大丈夫、ちゃんと皆とも顔合わせできるようにするからねん」
「「「はいチーフ!!」」」
そう言って皆さん元の場所へ戻って行った。
いや受付の人、すぐ傍で目を輝かせてこっち見てきてるけどね。
「いらっしゃぁーい、も変かしらぁ。お帰りなさいかしらねん。レンちゃん、アーネスト君。それに、カレンちゃんにアニスちゃんもぉ、お久しぶりねん」
「そうですね、お久しぶりですわバニラ卿」
「お久しぶりですバニラ卿」
二人が騎士の挨拶をする。
「あれ、二人も知り合いだったの?」
「はい蓮華お姉様。私達インペリアルナイトにロイヤルガードは、主に王族貴族の護衛をする事が多いですので、社交界でお会いする事が多いのですわ」
「あらあらぁ。レンちゃんの事をお姉様だなんてぇ、レンちゃんったらぁ、お・ま・せ・さん」
「ちょっ!?私なんにもしてませんからね!?」
慌てて言うけど、バニラおばあちゃんは笑ってるし、二人は頬を赤くして俯いてしまった。
おい!?なんでそこで俯くのかな!?
「あー、とりあえずバニラさん、ここじゃなんだから、場所変えられないか?」
というアーネストのセリフに、悲しそうな顔をしてアーネストを見つめるバニラおばあちゃん。
「………」
「………」
沈黙するアーネストにバニラおばあちゃん。
だけど沈黙を破ったのは、やっぱりアーネスト。
「ば、バニラおばあちゃん」
その言葉で途端に笑顔になるバニラおばあちゃんと、その言葉を聞いて噴き出したアリシアさん。
「っ!っ!!か、かい、会長がおば、おばあちゃんって!っ!!」
「おい、笑うならそんな我慢せずに笑えやアリシア」
「あはははははははっ!!」
「本当に笑うのかよ!?」
なんてやりとりをしていて、私まで笑ってしまった。
でも、しょうがないんだよアリシアさん。
バニラおばあちゃんのあの表情には勝てないんだよ……。
「うふふ、それじゃ皆さん、こちらへついてきてねぇ。ゆっくりできる部屋に案内するわねぇ」
そう言ってくれたので、皆でバニラおばあちゃんの後をついていく。
この人は相変わらずだなぁ、なんて思いながら。