118.雑談と外出申請
「ふぅん、それじゃ今日は学園を周るのね」
いつもの場所に着いたので、思い思いの場所に座って話し始める私達。
「うん、色々あったけど、まだ私達学園に来てからそんな経ってないし、闘技大会にというかノルンの襲撃に備えて、あんまり移動しなかったからなぁ」
「アンタ、本人目の前にあっけらかんと言うんじゃないわよ……」
ノルンが若干引き気味に言ってくるので苦笑する。
「ぶはっ!ははははっ!!」
でも、タカヒロさんが物凄く笑ってる。
「タカヒロ!」
ノルンが怒って言うけど、こたえてないねあれは。
「はは、すまんすまん。いや、本当にもうなんとも思ってないんだな蓮華さんは」
「どういう事よ」
「冗談として言えるくらい、軽い事にしてくれてるんだノルン。蓮華さんの遠回しな気遣いだぞ」
その言葉に真っ赤になったノルンの頭をポンポンと叩いてるタカヒロさん。
うーん、良い人だなぁ。
こっちの意図もすぐ気付いてくれるし。
やっぱり猫好きに悪い人はいないね!
私は犬も好きだけど。
話が逸れた。
「あの、こんな事聞くのもなんなんですけど、タカヒロさんって亡くなった時いくつだったんですか?」
「ん?ああ、俺は40だったな。まぁ普通におっさんだな。ラノベとか好きだったし、よく読んでたんだけどさ、まさか自分が体験する事になるとは思ってなかったよ」
そう笑って言う。
私達より年上だったのか。
それに、この世界に来たのも私達より早そうだ。
「タカヒロさんはこの世界にきてから、どんくらい経つんだ?」
アーネストが私の気になっていた事を聞く。
「ああ、俺は今38歳だ。元生きてきた歳と合わせたら、78歳だな。今思うと凄いな、俺爺ちゃんじゃねぇか」
「「ぶふぅっ!!」」
その言葉に吹き出す私とアーネスト。
他の皆は何を言っているのか分からないといった感じで聞いている。
にしても、38歳とは思えないくらいに見た目が若い。
もしかして、この世界では人間じゃないんだろうか。
「ノルンと会ったのは俺が28歳の時でな、ノルンはまだ5歳でさ、もう10年になるか」
「ロリコン疑惑が出てたものねタカヒロ」
「それはお前だけだからなアスモデウス!!」
「「ぶはっ!!」」
また吹き出す私達二人。
この人は私達を笑い殺す気か!
「あははははっ!腹痛てぇ!タカヒロさん、元の世界でもこの世界でも、換算して俺達より年上だけど、面白すぎるわ!」
アーネストが笑いながら言う。
私も我慢できずに笑ってるので、何とも言えない。
「ねぇ、身内の恥を晒すようで凄く恥ずかしいのは私だけなの?」
「俺は今なんも恥ずかしい話をしてねぇよな!?」
私も笑いすぎてお腹が痛くなってきた。
タカヒロさんの話を聞いていると、日本に居た感覚に戻ってしまう。
「タカヒロさん、俺達の居た時はまだ平成だったんだけど、令和ってどれくらいの年号なんだ?少なくとも、俺達聞いた事ないんだよな」
「ああ、するとお前達は一つ前か。平成の次だ」
そっか、私達が召喚された後、年号が変わったんだ。
「あれ、アーネスト一旦戻ったよね?その時年号はどうだったの?」
「平成だったぞ?多分、時間軸が違うんじゃないか?」
「成程なぁ……」
なんて会話をしていたんだけど。
「ねぇ蓮華さん、お話についていけなくて寂しいよぅ」
ってアリス姉さんが制服の袖を軽く引っ張って、悲しそうな顔をして見てきた。
うぐ、それは私の精神に凄まじいダメージを与えるのでやめて欲しい。
「こ、この話はまた私達だけで!ね!?」
その私の言葉に、苦笑して言ってくれる二人。
「はは、分かった。確かに、この話は俺達にしか分からないよな」
「だな。蓮華さん、アーネストさん、二人が話しやすい人達で良かった。まぁ俺は魔界に戻る事になるが、それまでノルン共々、仲良くしてくれ」
「水臭い事言うなよタカヒロさん。別に魔界に帰ったって、俺達はもう友達だろ?あー!スマホとかあればなー」
その言葉に閃いた。
「なぁアーネスト、バニラおば……バニラさんに相談してみないか?」
危ない、皆の前でバニラおばぁちゃんと言う所だったよ。
あのバニラおばぁちゃんは、何故かおばぁちゃん呼びを強要してくるので、無意識に出てしまうようになってる。
まさかこれを狙ってるのか、バニラおばぁちゃん、恐ろしい子!いや子じゃないけど。
「それだ!!」
なんて言い合う私達を不思議そうに見る皆。
そこで、皆にバニラおばぁちゃんについて説明する事にした。
転生者である事、希少なハイエルフである事。
そして前世の記憶を取り戻している事。
さらにはその前世が、私やアーネスト、タカヒロさんと同じ国に生きていた事。
色んな人にその話をするつもりはない。
だけど、ここには私の信頼する皆しか居ない。
ノルンやアリシアさん、タカヒロさんだって、私はもう信用してる。
だから、話す事にした。
「成程な……そのバニラさんがこの地上に車やテレビを普及させたのか。合点がいったよ。なんせ俺がこの世界に転生した時には普通にあったからな、また日本に生まれたのに前世の記憶持ちとかやったぜ!とか最初思ったからな」
その言葉に苦笑する私とアーネスト。
気持ちは分かるからだ。
「ねぇ蓮華さん、スマホってなーに?」
「離れていても連絡が取れる機械っていうか……」
「魔術でそういうのできるよ?マーガリンとリンスレットも使ってるし」
「あー、そういう特定の人しかできないのじゃなくて、誰にでも使えるものなんだよ」
アーネストが補足してくれる。
「それ、軍事利用されたら不味いんじゃないかしら?」
なんてセルシウスが言ってくるけど、確かに。
「ああ、俺達が元居た世界でも、戦争から普段の生活水準の向上に繋がってたからな。その懸念はもっともだと思うぞ」
タカヒロさんもそう言う。
うーん、良いアイディアだと思ったんだけど。
「アンタらアホなの?なら、私達だけで使えば良いじゃないのよ。なんで皆に公表しようとか思うの」
その言葉に驚いた。
確かにそうか。
「流石だなノルン、その発想は普段ボッチだったお前だからこそ出たんだな」
感心したように言うタカヒロさんだけど、うん、それは。
「褒めてないわよねソレ!?」
ですよねー。
「あはは。でもありがとうノルン、確かにそうだね。なら、今日のする事は決まりかな」
「なら、理事長に外出許可をひとっ走りとってくるわ。アリシア、お前も付き合えよ」
「あら、デートのお誘いですか会長?」
「俺の会話の最初をすっ飛ばすんじゃねぇよ!?」
「ははははっ!」
タカヒロさんがまた笑ってる。
「アーネスト、任せたぞ。アリシアさん、よろしくね。私達は二人が帰ってくるまでここで雑談してるから」
「おう、待ってろよ蓮華。ほら行くぞアリシア、俺だけだと最初の書類の申請の仕方が分かんねぇんだよ」
「はぁ、私ができる事は全て私に回すせいですよ会長……。分かりました、少しの間お待ちくださいね蓮華さん」
そう言い残して、二人は出て行った。
「やれやれ、アレは脈はなさそうだな」
「アリシアさんは、アーネストを狙ってるんですか?」
「ああ、どうやらそうらしい。まぁ残念ながら、好意を持たれるどころか苦手意識を持たれてるみたいだが……」
と苦笑しながら言う。
うーん、そういえばアーネスト、アリシアさんの事嫌がってたからなぁ。
なんでだろう、あんなに妖艶で綺麗な人なのに。
私が男なら諸手を挙げて歓迎した気がする。
今はそんな気ないけど。
アーネストもそういう感じなんだろうか。
でもアーネストは男だしなぁ。
なんて考え事をしていたら、背中からアリス姉さんに抱きつかれた。
「蓮華さーん。せっかくゆっくりできるんだから、考え事してないで、お話しよーよー」
そう言いながら、背中に抱きついて揺らすのやめてくれませんかね。
「あはは、ごめんねアリス姉さん」
それから、アーネストとアリシアさんが戻ってくるまで、たわいない話をして過ごした。