116.闘技大会終了
「レンちゃん、良く頑張ったね。制御もちゃんと出来ていたし、暴走する気配もなかった。安心したよ」
その胸に抱きしめた蓮華の耳元で、そう告げるマーガリン。
蓮華とマーガリンの元へ、アリスティアとロキ、それに舞台の近くで待機していたミレニアも来た。
「ありがとミレニア。控えていてくれて」
「構わぬ、イグドラシルの時のような事があっては困るでな」
そう微笑むミレニアに、マーガリンも微笑む。
「アーちゃんとレンちゃんを本当は連れて帰りたいけど、これは学園の行事だものね。なら、学園の医務室で寝かせるのが良いよね。任せて良い?アリス」
「うん、まっかせてよ!もう、二度とあんな失態は犯さないんだからっ……!」
強い決意を秘めた瞳で、そう言うアリスティア。
以前、ノルン……いやイグドラシルにより蓮華の身が危険に晒された事を、アーネスト以上に気に病んでいるのだ。
「アリス、あれは……」
「良いの、気休めはよして。アレは私がしっかりしてれば防げたんだから。アーくんのおかげで助かったから、結果的に良かっただけ。私は、大好きな蓮華さんを、今度こそ絶対に守りきるんだから……!」
そう告げるアリスティアを、優しい表情で見るマーガリン。
「そっか。アリスが居てくれるなら、後は大丈夫ね。私はシオンと話してくるから、ロキとミレニアは先に帰って良いわよ」
言ってから、歩き出すマーガリン。
「それでは、私は帰りますよ。アリス、二人を任せましたよ」
そう微笑んで去るロキ。
ロキにとって何よりも大切な二人の元に、他の者が残るのなら、異を唱えていた。
だが、二人の元にアリスティアが居るのならば、何も心配はいらないという、ロキなりの態度の示し方だった。
それが分かっているアリスティアは、ロキを見て驚いた表情を見せた後、微笑んだ。
「では、妾達も帰るとしよう。蓮華とアーネストに良い戦いであったと伝えておくれ」
「ん、ちゃんと言っておくよミレニア」
その言葉に微笑むミレニア。
「帰るぞシャル」
「はい、ミレニア様。それではアリスティア様、またお会い致しましょう」
そう言って去っていく二人。
最後まで蓮華とアーネストの事を案じていた二人に、頭が下がる思いのアリスティアだった。
「それじゃセルシウス、蓮華さんを医務室に運ぼっか」
「ええ。私が抱くわ。貴女じゃ体格的に変だから」
「あはは、そだね。……ねぇセルシウス、未来の"精霊王"は、とっても優しくて、強くて、一緒に居てとても心が温かくなる人だね」
セルシウスは微笑んで言う。
「そうね、元"精霊王"の貴女が入れ込んでいる程だものね」
「あはは」
二人微笑みながら、医務室へ向かう。
安らかな寝顔をしている蓮華を見て、心が温かくなるのを感じながら……。
目が覚めた。
白いベッドから身を起こす。
周りを見渡すと、いつもの部屋じゃなかった。
薬品の匂いがする。
ここは、保健室、かな。
横を見ると、ベッドに頭を置いて、眠っているアリス姉さんが居た。
徐々に意識がはっきりしてくる。
そっか、母さんとの戦いで、気絶しちゃったんだった。
大会はあの後どうなったんだろう。
考えていたら、扉の開く音がした。
「あら、目が覚めたのねレンゲ。丁度朝食を取りに行っていたのよ。また無駄にならなくて良かったわ」
「おはようセルシウス。またって事は、もしかして私、結構長い間寝てた?」
「ええ。もう3日は眠ってたわね」
「うそぉ!?」
その声に、アリス姉さんが目を覚ます。
「蓮華さん!?」
がばっと頭を起こし、その近くにあった私の顎にぶつかる。
ゴン!!
「「いだぁ!?」」
顎を抑える私と、頭を抱えるアリス姉さん。
「起きて早々、何をやっているのよ貴女達は……」
と苦笑しながら、テーブルに食事を置いてくれているセルシウス。
「あ、アリス姉さん、飛び起きるから……」
ちょっと涙目な私だった。
「ご、ごめんね蓮華さん。だって、全然目を覚まさないから、心配でぇ……」
そう涙目で訴えるアリス姉さんが可愛くて、つい頭を撫でてしまう。
「心配かけてごめんねアリス姉さん。それと、ありがとう」
そう言ったら、花を咲かせたような笑顔を見せてくれる。
「それにしても、3日かぁ。それじゃ、闘技大会だけじゃなくて、他の大会も終わっちゃったんだね」
「そうだねー、私は蓮華さんにつきっきりだったから、見てないけど……」
「あ……ごめんねアリス姉さん」
「そういう意味で言ったんじゃないよ蓮華さん!?私にとって蓮華さんの居ない大会なんて、見たって楽しくもなんともないから!」
「ふふ、そうね。私もそう。だから、一緒に居たのよ」
そう微笑む二人に、私も笑顔で返す。
二人が本当に私の事を大切に思ってくれているのが分かるから。
「そいえば、アーネストは?」
「アーくんはその日のうちに目が覚めて、他の大会を仕切りに行ったよー。生徒会長は大変だね」
ああ、成程。
確かに私と違って、やる事一杯だろうなぁ。
「カレンとアニスも?」
「あの二人は一応生徒じゃなくて教師側だから、見回りだけどね。それでも、何回も様子を見に来てたよ」
「そっか」
「ふふ」
いきなり笑うセルシウスを見る。
「ごめんなさい。だって、起きてからレンゲは他の人の事ばかり聞くんだもの、おかしくって」
そうだったっけ。
「ちゃんと私の事は最初に聞いたよ?3日寝てたんだよね?」
「そうだけれど、普通は自分の体調を気に掛けるんじゃないかしら」
そういうものだろうか。
でも、二人が私を診ててくれたなら、私より私の事を知ってくれてる二人だし、何の心配もいらない。
だから、気になるのは皆の事だからなぁ。
「だって、二人が見ててくれたんでしょ?なら大丈夫だろうしなぁ……」
と言ったら、何故か頬を赤くする二人。
あれ?
と思っていたら。
「そ、それより、蓮華さんはまず食事をとって!まだ体が重く感じるはずだから、ゆっくり食べるんだよ蓮華さん!」
「うん、ありがとうアリス姉さん」
お礼を言ってから、テーブルに向かい食事を食べはじめる。
確かに、少し歩くと体が重く感じた。
だけど、その感覚も食事を食べていると、段々と回復してきた。
「ドライアドが持ってきてくれた野菜なんだけど、やっぱり効果高いわよね」
「だねー、普通の野菜にここまでの回復効果はないよ」
この野菜ドライアドが持ってきてくれたのか。
サラダとか、歯ごたえがあって新鮮さが凄く出てるんだよね。
ドレッシングをかけなくても十分に美味しい。
それに、このコーンポタージュも甘くて美味しい。
もう召喚して直接お礼言ってやろうかとか考えたけど、流石にやめておいた。
いや、多分ドライアドは怒らないだろうけどね。
食事も終わり、という時に、また扉が開いた。
「お、蓮華!目が覚めたんだな!」
そう言って駆け寄ってくるアーネスト。
「ああ、心配かけたよな、ごめん」
「良いって事よ。お前が元気なら、それで良いさ。そんで、体調はどうだ?もう動けるか?」
「うん、大丈夫だよ。ご飯も食べたし、今から出ようと思ってたんだ」
「そっか、なら丁度良いな。理事長から目が覚めたら来るように伝言預かってるから、大丈夫なら行こうぜ」
「ん、了解。アリス姉さん、セルシウスも良い?」
「ええ」
「うん!大丈夫だよ蓮華さん!」
そう微笑んでくれる二人に笑顔で答える。
「それじゃ、行こっか」
この後、母さんが言っていた言葉の意味を理解する事になるのだった。