115.蓮華・アーネストVSマーガリン(エキシビジョンマッチ)(2)
-観客席・蓮華side-
「うっわぁ、マーガリン大人げない……」
そう零すのは、大きなピンクのリボンが特徴的な、小柄な美少女アリスティアだ。
「まったく、威力は加減しているようですが、大人げないですね」
普段仲違いをしている二人だが、蓮華とアーネストの事になると意見が合う事が多い。
「蓮華さんとアーくん、勝てると思う?」
可愛らしく首を傾げ、見上げるような仕草で尋ねるアリスティア。
普通の者なら、この仕草にやられてしまい、虜になってしまうであろう可愛さである、が。
「……無理、でしょうねぇ」
それを一切見もせず答えるのは、端整な顔立ちをしており、そこにただずむだけで、まるで一枚の絵画のように映るロキである。
「やっぱり?」
「ええ、流石に年季が違いますからねぇ……魔力は同等かもしれませんが、経験が違いすぎますよ」
「そうだよねぇ……蓮華さんとアーくんも滅茶苦茶強いんだけどなぁ。アーくんと戦ってみて、それを実感したもん」
「……勝ち目があるとすれば、アリスの負けた方法、でしょうかね」
「あぁー……マーガリンに効くかな?」
「さぁ、そこまでは分かりませんよ。アリスと違って、マーガリンは事戦闘においては、抜けていませんからね」
「さりげなく私をディスるのやめてよね!?」
言いながら、マーガリンとの戦いを見守る二人。
二人はなんだかんだと、このエキシビジョンマッチの観戦を楽しんでいた。
-観客席・蓮華side・了-
-観客席・ノルンside-
「うっわ、あんなのアリなわけ……」
そう零すのは、蓮華と双子かと言わんばかりの見た目ではあるが、髪形をツインテールに変えたノルン。
「流石にアレは凄いな。あんなのスキル使っても出来ねぇぞ俺は」
「え、タカヒロでも無理なの?」
「ああ、無理だな。あれはただでさえ魔術と魔法の混成だ。常人にできる事じゃねぇ。よくあれをコントロールできるなって話だ」
そうノルンに言うのは、ノルンの実質の育ての親でもあり、先生でもあるタカヒロ。
彼は転生者である。
「マーガリンは私と同じ、原初の者だからな。あれでも力は大分抑えているぞ」
そう答えるのは、魔界の王であるリンスレットである。
魔界の各領地を総べる七人の大罪を背負う悪魔達。
その悪魔達を総べる王。
「それじゃ、リンスレットとどっちが強いの?」
そんなノルンの純粋な興味の質問。
「さぁ、な。私達は本気で殺り合った事が無い。だが……もし殺り合えば、私もただでは済まないだろうさ」
その真剣なリンスレットの言葉に、喉をゴクリとならすノルン。
「ノルン、話半分で聞くと良いですよ?まず、あのマーガリンとリンが戦うなんてありえないから」
そう苦笑して言うのは、ヴィクトリアス学園生徒会副会長アリシア……ではなく、魔王の側近として来ている彼女は、アスモデウスの姿をしている。
「はは、そうだな。そんな時が来るとしたら、それはこの世界の終焉の時だろうさ」
そう笑って言うリンスレットに、アスモデウスは苦笑する。
「やれやれ。神話の世界の話とか、異世界だって実感するわ。あの蓮華にアーネストだっけ?あいつらもかなり強いと思うがなぁ」
「当然よタカヒロ。私に勝ったのよ蓮華は」
そう言うノルンに笑顔を向けるタカヒロ。
「ああ、そうだな。でも、次は勝てよ?学園の間、俺とアスモデウスも近くに居るから、特訓つけてやるからな」
「うん、お願いタカヒロ」
「えぇ、私生徒会の仕事があるのに……」
「お前はあの会長と居たいだけだろ……」
「むぅ、お前達は良いな。いっそ私も本当に入学するか」
「「「ダメに決まってる!!」」」
「……言ってみただけじゃないか」
口を尖らせる魔王に、苦笑する三人だった。
「ねぇリンスレット、蓮華と会長はやっぱり勝てない?」
「当然だな。だが、アリスティアの件もある。絶対は無いだろうさ」
「そっか」
リンスレットとの会話を終え、二人の戦いに視線を戻すノルン。
その瞳は、真剣だった。
-観客席・ノルンside・了-
「「おおぉぉぉっ!!」」
バリンバリンバリンバリン!!
魔法の砕ける音が響き渡る。
私とアーネストは、母さんが放つ魔法を全て破壊しながら、前へと駆ける!
「やるねレンちゃん、アーちゃん!なら、これならどうかな!『トルネードランサー』」
通常のトルネードは、上に向かって竜巻が巻き上がるが、それがこちらへ向かってくる!
これは消せないと判断して、私達は避ける。
私は右へ、アーネストは左へ。
『トルネードランサー』は私達の横を通過したのに、消えない。
……まさかっ!
「ふふ、気付いたかな?追いかけなさい!」
ギュォオオオオオッ!!
凄まじい音を鳴らし、竜巻が後ろから向かってくる。
「アーネスト!」
「ああ、来い蓮華!俺も行くぜ!」
そうして私はアーネストの元へ、アーネストは私の元へ駆ける!
ギュォオオオオオッ!!
後ろから迫ってくる竜巻を確認し、私とアーネストがぶつかるという瞬間で、左右に飛ぶ。
私達を追っていた竜巻はぶつかり合い、消滅した。
「ふふ、やるね。でも、休ませないよ!『フィアフルフレア』」
キュドドドドドッ!!
大きな火球が咲き乱れ、こちらへ飛んでくる。
「今度は火の球の嵐かっ!アーネスト、斬れるか!?」
「任せろ!『二刀疾空・連装牙』ッ!!」
アーネストの放った真空の刃の数々が、母さんの魔法を破壊していく。
これならいけるか!?
「ふふ。それじゃ、これもプレゼントだよ。『ヴォルケイン・メテオスォーム』」
瞬間、空から隕石の群れが落ちてくる。
「マジか!蓮華、俺の手数じゃ足りねぇ!」
「分かってる!ソウル、力を解放するぞ!変形・ガンモード『ダブルアームクイックドロウ』!!」
ドドドドドドドッ!!
ソウルを二丁の銃に変形させ、隕石に向かって魔弾を乱射する。
「おま、その魔剣銃にまでなんのかよ!?」
アーネストが驚いているが、最初は剣だったんだよねソウルは。
だけど、私が頼んだから刀になってくれただけで、なんにでも形どれると聞いた。
それも、魔剣に血を吸わせれば吸わせるほど、ギミックが解除されていく。
これはその中で得た一つの力。
ドゴンドゴンドゴンドゴン!!
連射で壊していくも、隕石の数が多すぎる!
「くっ……これじゃ防ぎきれないか!なら……特大のでいってやる!ソウル、二丁を合わせる!いっけぇぇぇぇ!超魔銃『アルティメットリボルバーカノン』!!」
ゴオオオオオオオオオッ!!
空に向かって、特大のエネルギーが発射される。
それは隕石を飲み込み、結界にぶち当たった。
バヂバヂバヂバヂバヂ!!
結界の軋む音がする。
凄いな、この結界。
私の全力でも壊れないのか。
と思って周りを少し見ると、魔王リンスレットさんが結界に魔力を送っているのが見えた。
成程ね。
パチパチパチパチ
拍手の音が聞こえた。
母さんだ。
「凄いよアーちゃん、レンちゃん。まさか今の魔法まで防がれるとは思ってなかった。うん、本当に凄い」
そう微笑んだ母さん。
だけど、そこから雰囲気ががらりと変わる。
「なら、私も少し本気出しちゃおうかな」
瞬間、背筋がゾクリとした。
圧倒的な強者の気配。
凄まじい悪寒を感じる。
「アーちゃん、レンちゃん。私は魔術師であり、魔道師でもあるけど……武器の使い方を教えてあげたように、近接も得意なの」
チャキ
そう構えるのは、母さんよりも長い槍だ。
「この槍はね、『Gungnir』と言って、私の最高傑作の一つなんだよ?これで、二人の相手をしてあげる」
そう微笑む母さん。
アーネストを見る。
「やべーな、めっちゃ怖いんだけどさ、同じくらいドキドキしてんだよな。お前はどうだ蓮華」
「ああ、同じだよアーネスト。私達は、とんでもない人が母さんだったんだな」
「はは、そうだな。行こうぜ蓮華、母さんに勝つぞ!」
「おうっ!」
弾かれたように地面を蹴り、母さんの元へ駆けるアーネスト。
私は『ワープ』を駆使し、母さんの後ろへ現れる。
先程までは魔法と魔術が入り乱れて使う事が出来なかったが、今は母さんは魔法も魔術も使っていない。
この方法を使わない手は無い。
「ふふ、はぁっ!!」
ギン!ギギン!!
「「!?」」
一つの槍が、私とアーネストの攻撃を一度に防ぐ。
ど、どうなってるんだ!?
「驚いてるねー。単純に、私の方が速いだけだよー?」
言いながら、槍で突いてくるのを避ける。
いや、避けたつもりだった。
ドスゥッ!ドスゥッ!
「がっ!?」
「ぐぅっ!!」
私とアーネストはその一撃で吹き飛ばされる。
「うっそだろ……視え、ない!?」
「お前もか蓮華。俺もだ、気付いたら受けてたぜ……やべーなこれは」
弾き飛ばされ、体制を整えながらアーネストと話す。
そこに、母さんが現れた。
「「!?」」
「ほらほら、私の攻撃はまだ続くよー?攻撃してこないと、やられちゃうよー?」
ギギン!ゴスゥ!!
「うぐっ!!」
ギギン!ギギン!ゴスゥ!!
「おわぁっ!!」
ドサッ!ドサッ!
またも私とアーネストは弾き飛ばされる。
私の剣撃を防ぎ、一撃を入れ、アーネストの二刀の攻撃を防ぎ、一撃を入れる。
その行動を、一瞬で行っている母さん。
強すぎる。
正に大人と子供の戦いだ。
こんなに、遠いのか……!
ブンブンブン、チャキン
母さんが槍を華麗に薙ぎ、構える。
その姿は本当に綺麗で、戦いの最中だというのに見惚れてしまった。
「久しぶりだけど、まだまだ衰えてないね私も。二人とも、もうおしまいなのかな?私はまだまだいけるよー?」
そう微笑む母さんに、立ち上がって応える。
「まだまだ!何度だって挑むよ母さん!」
「ああ、行くぜ蓮華!」
何度弾き飛ばされても立ち上がり、母さんに向かっていく私達。
魔法防御は破られ、制服はかなりボロボロになっている。
いつしか、闘技場は静まり返っていた。
そして、私達二人がもう何度目かの弾き飛ばしにあい、また立ち上がった時……アーネストが倒れた。
「アーネスト!?」
「悪い、蓮華。俺は、ここまでみてぇだ。もう、体が動かねぇ……」
気付けば、アーネストの体の節々から、血が出ている。
母さんから受けたのではない、これは体の内側から破れている。
そこで気が付いた。
アーネストは、魔術の重ね掛けを行っていたんだ。
体への負担は、例え攻撃を受けなくても毒のように蓄積していく。
それを耐えて、ここまで戦ってくれたんだ。
「アーネスト……後は私に任せてくれ。母さんを少しくらい、焦らせてみせるさ」
そう言って笑うと、アーネストも微笑んで言ってくれた。
「ああ、お前なら任せられる。ちょっと、見れそうにないのが、残念だけどな……」
そう言って、アーネストが目をつむった。
恐らく、気を失ったのだろう。
「アーネスト選手、戦闘続行不可能と判断致しますわ」
審判のカレンからそう告げられる。
「アーちゃん、よく頑張ったよ。それだけのコントロールが出来てるなら、心配いらないね」
「母さん……?」
「さぁレンちゃん、アーちゃんはもう居ない。レンちゃん一人で、私の攻撃を凌ぎきれるかな?」
また凄まじい覇気を感じる。
母さんは本当に強い。
私とアーネストが本気を出しても、全く通用しない。
どうせ効かないなら、本気の一撃に賭ける。
残された全魔力を、ソウルに込める。
「そう、レンちゃん。それが正しい。さぁ、受けてたってあげる」
母さんが槍を構える。
アーネスト、これが私の今出せる全力だ。
お前と後で笑いあえるように、私も全ての力を出しきる!
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!
私の魔力が舞台を覆い、地響きを鳴らす。
「凄いわねレンちゃん。今の状態でそこまで……」
「行くよ、母さん。これが今の私の出せる、最高の力」
私はソウルを構える。
対する母さんは、私から目を離さない。
『ワープ』を使い、母さんの目の前に出る。
「!!」
「奥義!『逆鱗刀龍断』!!」
ビキビキビキビキビキッ!!
「なっ!?」
一枚、二枚と母さんの魔力障壁を破っていく。
「『Gungnir』の上から、斬撃を通してるのレンちゃん!?」
そう、この奥義は、目に見える斬撃だけじゃない。
『空間断絶』なのだ。
空間を削り取り、その歪みを直撃させる奥義。
これなら、例え母さんでも通じると思った。
「いけぇぇぇっ!!」
斬撃を続けていく。
十枚目の魔力障壁が割れた時、母さんからの反撃を受けた。
「『アイアンメイデン』」
突如私の下に、闇の衣が出現したかと思うと、全身を突き刺された。
「うぐぁっ!?」
かのように思ったのだが、今見ると何もない。
幻覚?そう思った時には、もう私は地面に転がっていた。
「体が……動、かない……」
「ふふ、レンちゃん良く頑張ったね。まさか私に『アイアンメイデン』まで使わせるなんてね」
何が起こったのか、全く分からなかった。
唯一理解できたのは、私は何らかの一撃を受け、倒れたという事。
「し、勝者!マーガリン=フォン=ユグドラシル!」
静まり返っていた観客達が、思い出したかのように騒ぎ出す。
負けた、か。
一矢報いる事もできなかったかな、ごめんアーネスト……。
「せ、『精霊憑依・解除』」
セルシウスが目の前に現れる。
「レンゲ!しっかりして!」
大丈夫、という声が出なかった。
心配しないで、と言いたかったな。
そう思いながら、私の意識は途絶えた。
目を瞑る前に、優しい表情で私を抱き起す母さんを最後に見て。