114.蓮華・アーネストVSマーガリン(エキシビジョンマッチ)(1)
カレンとアニスによる、観客達への説明が終わる。
要約すると、決勝で戦った私達二人が、母さんと戦うって事。
うん、要約も何もないな。
普通、決勝で戦って勝った方と戦うのがエキシビジョンマッチだったと思うけど、決勝で戦った二人っていうのが母さんらしい。
多分、母さん自体は何も考えてなくて、私達と遊びたかった(戦いなんだけど)だけなんだろうなぁ。
母さんはもっと自分の立場をちゃんと認識した方が良いと思う。
絶対に色々勘ぐられたはずだよ、各王国の人達に。
まぁ……私の考えが及ばないだけで、母さんには深い考えがあるのかもしれないけど……。
「♪~」
今も鼻歌を歌ってる母さんを見て、それはないなと思った。
アーネストの方をちらりと見ると、どうも同じ事を考えていたっぽい。
母さんを見てから、私の方を見て苦笑したから。
「そだレンちゃん、アーちゃん。戦いが始まる前に、このアメ食べておいてね。失った魔力と、魔術の使用回数を回復してくれるよ」
「「そんなアメが!?」」
アーネストとハモった。
なんか久しぶりだこの感じ。
「うん、名付けて不思議なアメだね!」
「なんかこう、レベルアップしそうだなアーネスト……」
「俺らはポケ○ンかよ」
二人揃って苦笑して受け取り、口に含んで舐める。
意外と甘い。
それに、普通の飴玉と違って、口に含んだらすぐに溶けていく。
「あれぇ、なんか不評……。それじゃ、不思議なキャンディにしようかなぁ……」
それ、球体からより食べにくくなるというか、絵面がなんとも言えなくなるのでやめて欲しいです母さん。
なんというかこう、小学生の子が食べてるイメージしかないよ……。
更に微妙な顔をする私達に、母さんは更にあさっての方向に話を持っていく。
「そ、それじゃ不思議な棒アイスとか!」
不思議な、から離れたら良いんじゃないかな……。
「母さん、命名なんてどうでも良いから。俺達が悪かったから」
「えぇぇ……一生懸命創ったのにぃ」
母さん作かーい!!
あ、そっか、名付けてとか言ってたし、そうだよね。
というか、家で普段何してるのかよくわかるよね、前の呪われた包丁もそうだけど。
「あの、そろそろ良いでしょうか……?」
ってカレンとアニスが近づいてきて、聞いてくる。
なんとも会話に割り込みにくそうだけど、仕事だから一生懸命勇気を振り絞ったんだろうな、と思いつつ。
「うーんと……そうね、二人とも大分回復したみたいだし、良いわよ」
……驚いた。
母さんは話しながら、私達の回復を診ていたのか。
アーネストも同じようで、驚いているのが分かる。
「蓮華、母さんはあーだから油断ならねぇよな」
「分かる。アーネスト、勝算はあるか?」
舞台中央に向かいながら、アーネストと話す。
「あると思うか?ま、やるだけやってみるさ」
「ああ、そうだな」
簡潔に話を済ませ、母さんと相対する私達二人。
ちなみに、私は『精霊憑依』を解いていない。
さっきのアメでかなり魔力は回復したし、この一戦くらいならまだいけるはずだ。
「ふふ、二人とも良い顔してるよ。ワクワクするなぁ」
なんて母さんが言ってくる。
そっか、母さんはやっぱり楽しんでるんだな。
なら、私達も楽しむとしよう。
「それでは皆様、お待たせ致しました。このエキシビジョンマッチ、運営側としても異例の出来事ですが、全国に名を馳せる氷の大魔女マーガリン様が戦ってくださるという事で、一も二もなく開催が決定致しましたわ!」
ワァァァァァァッ!!
「対するは、この闘技大会で素晴らしい戦いを魅せ続けてきてくれた二人。準決勝、決勝と、我々の目を釘付けにし、彼らのようになりたいと願った生徒達は多いのではないでしょうか!」
観客達の多くが、その話を真剣に聞き、頷いたり、こちらに目を輝かせて見てくるのが分かる。
この闘技大会が始まって思うけど、カレンはこういう実況というか、話をするのが凄く上手いと思う。
私にはできないや。
「決勝では惜しくも敗れたアーネスト選手ですが、どちらが勝ってもおかしくはない、迫真の戦いでした。その二人が!次は協力して戦うのです!これに興奮しない者などおりましょうか!!」
ワァァァァァァッ!!
容赦なく煽ってくるカレンに苦笑する。
観客達のボルテージがヒートアップしていくのを感じる。
「おい蓮華、あの審判ノリノリだな……」
「ああ、うん、そうだね……」
二人苦笑するけど、こういうの、嫌いじゃない。
むしろ、好きな方だ。
「なぁアーネスト、本気で行くよな?」
「当然だろ蓮華。お前と一緒に本気で戦える相手なんだぜ?」
「あはは、そうだな」
母さんを見る。
いつもの優しい表情じゃなく、キリッとした表情をしている。
でも、その中にやっぱり、楽しそうな表情が垣間見えるんだ。
「レンちゃん、アーちゃん。おもいっきり来て良いからね?」
私とアーネストは、背中合わせに武器を母さんに向ける。
その瞬間、会場が湧いた。
お互いに、きっと不敵に笑っている。
そんな私達を見て、母さんも微笑んだ。
「それでは!ヴィクトリアス学園主催、闘技大会エキシビジョンマッチ!レンゲ=フォン=ユグドラシル並びにアーネスト=フォン=ユグドラシル対、マーガリン=フォン=ユグドラシル!」
体に力を入れる。
母さんに、届くように。
「「試合開始!!」」
カレンとアニスの宣言と同時に、駆ける私とアーネスト。
「考える事がワンパターンだよレンちゃん!アーちゃん!『アースウォール』」
ドゴオオオッ!!
いきなり地面から岩の壁が出現して、私達の行く手を阻む。
「くっ!アーネスト、回り込むぞ!」
「ああ、分かってる!」
多分母さんはそのまま突破してくると思ってるだろうから、あえて割らずに回り込む事にした。
だけど、甘かった!
「ふふ、そこは上を飛び越えてきてほしかったかな?『グランドダッシャー』」
岩の突起が無数に出現し、私達を串刺しにしようと襲い掛かってくる!
幸い直線だったから、横に飛びのいて避ける。
そこに、次の魔法が飛んできた。
「『アイシクルランサー』『ライトニングレーザー』『フレイムブレッド』」
次々と飛んでくる、属性違いの弾に光線。
これじゃ近づけないっ……!
「アーネスト!避けながらいけるか!?」
「無茶言うな!魔法の隙間を埋めるように魔法が放たれてて、避けるのが精一杯だっつの!」
「お前のスピードでも無理なのかっ……!」
なんとか全ての魔法を避けきった後、結果的に私達は母さんから、開始時より距離を離されてしまった。
「ふふ、魔術師との戦いは、如何にして距離を詰めるか。そう教えた事を実践してるのは偉いけど、魔術師だってその対策を用意してるんだからねー?」
近いようで、遠い。
「アーネスト、私が壁になる。お前は私の後ろから突っ込め」
「……それしか無さそうだな。俺の魔術防御じゃ、母さんの魔法と魔術の混成攻撃は防げねぇ。頼む、蓮華」
「分かった、行くぞアーネスト!」
「おう!」
そう言って駆ける。
今度は、避けない!
「考えたねレンちゃん。でもね、魔術も魔法も、攻撃だけが手段じゃないよ?『フォレストバインド』」
しまった!
全て受けるつもりでいたから、回避ができずに絡め捕られる。
「アーネスト、避けろ!」
「チッ……!」
瞬時に理解して横に飛ぶアーネスト。
「アーちゃん、そこにはもう仕掛け済みだよー?」
ドゴオオオオン!!
「おわぁっ!!」
アーネストが吹き飛ばされる。
な、何が起こったんだ!?
「っぅ……!『マイントラップ』か……!」
な!?いつのまにそんな魔法を……!?
唱えてる所なんてなかったのに!
「あれ?レンちゃん分からない?魔術に言霊は不要なんだよ?」
「あ……!」
そうだった。
魔術は頭の中でイメージするだけで発動できる。
それが魔法との違いで、言葉が不要なのだ。
だから、アーネストは『オーバーブースト』を唱えていない。
母さんも私も、魔法を詠唱こそしないけど、言霊は発する。
こんな身近に居たのに、魔術を使えない私は失念していた。
目に見えるモノが全てじゃないんだ。
「だから、こんな事もできるんだよー?」
そう言った瞬間、母さんの後ろの空間に様々な球体が浮かぶ。
あれは、まさか全属性の魔術!?
「ふふ、気付いたかな?私は並列で魔術、魔法を使えるからねー、こんな風に。一度にたくさんの魔術と魔法を同時に使えるんだよ?」
観客達が唖然としているのが分かる。
私だってそうだ。
もう、母さんはどこまで凄いのだろうか。
体に絡まっている蔦を、炎の魔法で焼きとる。
「母さん、その魔術を空で放たずに維持してるのは、更に空間魔術の併用だね?」
「ふふ、そうだよ。さーて、そろそろアーちゃんも動けるよね?」
「げっ、隙を伺ってたのに、なんでバレるんだよ」
「私はレンちゃんとアーちゃんの事なら、なんでもお見通しだよー?」
これは、長期戦は云々より、最初っから全力でいかないとどうしようもないな。
アーネストを見る。
「ああ蓮華、分かってる。やっぱ最初っから、全力で行くしか道は無かったって事だな」
私とアーネストの表情が変わる。
それに気付いた母さんは笑う。
「良いね二人とも。その気迫、素敵だよ。さぁ、どれだけ強くなったのか、私が試してあげる!」