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113.決勝戦・蓮華VSアーネスト(3)


-ノルン視点-



 蓮華に会長の戦いを見て、ただただ感心していた。

 二人とも、器に胡坐をかいていない。

 ただひたすらに前を向いている。

 私の15年は、ずっと、ただひたすらに辛かった。

 タカヒロとの勉強の時間だけが、私の生き甲斐だった。

 どうせ、私という存在は消える。

 そう思って生きてきたのだから。

 だから、感情を殺した。

 でも、イグドラシルと完全に分離した私は、逆に困ってしまった。

 だって、どうせ消えると思っていた。

 だから、全部投げやりだった。

 ただ、私と同じ存在という蓮華、そいつを一目見て、戦えればそれで良かった。

 だけど、そんな私を、蓮華は友達だと言ってくれた。

 会長も、笑って同意してくれた。

 それからは、蓮華に勝ちたいという想いでタカヒロに訓練を頼んだ。

 驚いた顔をしていたけど、どことなく嬉しそうに見えたのは、私の気のせいだろうか。

 そして勝負をした今日、私は蓮華に負けた。

 不思議と悔しいとは思わなかった。

 どこか、負けて当然だと考える私がいたのだ。

 それは、私達の元だとか、そんな理由じゃない。

 蓮華は、この世界を本当に楽しんでいる。

 会長もだ。

 私は、今まで楽しんで生きていない。

 その差だと思っている。

 私の生は、あの時から……蓮華と会長に救われたあの時から、始まったのだから。

 だから、今は負けても良い。

 でも、次は負けない。

 そう思って、今も激しいぶつかり合いをしている二人を見ている。

 蓮華の大精霊の魔法は初めて見たし、会長もあんな魔術をアリスティアさんの時には見せなかった。

 あの二人は、心から認め合う二人なのだろう。

 私も、あんな風に二人となれるだろうか。


「ノルン、同じ時を生きる友に、あの二人が居る幸せを噛みしめると良い。そうある事ではないぞ」


 そうリンスレットが言う。

 驚いた。

 リンスレットが人を、地上の者を褒める事なんて初めてだったから。


「あいつらが、ノルンが急に特訓してくれって言ってきた原因だな。はは、とんでもない奴らと同世代に生まれたなノルン。あいつらと張り合うのは骨が折れるぞ」


 そう笑って言うタカヒロに、リンスレットも同意している。


「あ、ノルン。いくらノルンでも会長はあげませんからね?」


 なんてアスモデウスが言ってくる。

 安心して良い、そういう興味は無いから。


「お前、あーいうのがタイプだったのか?」


「最初は違ったんだけどねー?」


「ほぅ、アスモが気に入ったなら、私も目をかけねばならないな」


 なんて話をしだす身内に溜息をつきながらも、二人の戦いからは目を逸らさない。

 二人は激しくぶつかり合っているが、その顔は楽しそうだ。

 きっと、この大会も二人にとって、家での訓練の延長みたいなものなのだろう。

 ちょっと、羨ましく思ったのは秘密だ。

 二人の息が大分乱れているのが分かる。

 観客席は結界で守られている為感じないが、恐らく中では凄まじい魔力のぶつかり合いで力場が発生し、その場に居るだけでも体力を奪われているだろう。

 会長の使っている魔術は『オーバーブースト』で、身体能力を数倍に引き上げているのだろう。

 それでも、蓮華の『精霊憑依』の強さは凄い。

 私の『イグドラシル・解放』状態ですら、ほぼ互角に近い力だった。

 それに見合う力を出すとなれば、普通は行わない魔術の重ね掛けしかない。

 行わないというか、行えない、が正しいけれど。

 どちらにも言える事は、体の負担が半端無いだろうという事。

 長期戦はお互いに無理なはず。

 観客の生徒達や、各国の重鎮達が口をあんぐりとあけている様は中々に面白いけれど、決着はもうつくだろうと予測している。

 どちらが勝つかは、私にも分からないけれど。

 でも、これだけは言える。

 私に勝ったんだから、負けるなんて許さないわよ蓮華。


-ノルン視点・了-



「『氷陣煉獄殺』!!」


「『双華連迅斬』!!」


 ギギギギィン!!


 私の技をアーネストが技で防ぐ。

 魔力による波動は受けているはずだが、それを微塵も感じさせない。


「「はぁっ……はぁっ……」」 


 お互いに一旦距離を置き、呼吸を整える。


「ふぅ、やるなアーネスト。私はこれでも結構本気でやってるんだけどな」


「馬鹿言え、俺もだよ蓮華。少しは上いったかと思ってたんだけどな、当てが外れたぜ」


 お互いに微笑む。

 だけど、私もかなり魔力を消費してきている。

 このまま戦えば、先に魔力が尽きて私が負ける。

 だから、ここで決着をつけなければならない。

 そう考えていたら、アーネストから言ってきた。


「このまま続けたら、どっちが先に倒れるか分からねぇけど、それじゃつまんねぇよな。普段の訓練なら、それでも良いけどよ」


「奇遇だなアーネスト、私も同じ事言おうと思ってたよ」


「はは、そうか。さぁ、王覧試合の再現と行こうぜ蓮華。今回、勝つのは俺だけどな」


 そう言って双剣の片方を私に向ける。

 私もそれに倣う。


「言ってろ、勝つのは私だ」


 そして、あの王覧試合そのままのセリフを思い出し、言った。

 アーネストも思い出したのだろう、不敵に笑う。

 瞬間、凄まじい覇気をアーネストから感じる。

 恐らく、強化魔術を限界まで掛けたのだろう。

 勝負は一瞬でつく。

 私はどうせ、アーネストの姿を追えない。

 だから、覚悟を決める。


「行くぜ、蓮華っ!!」


 アーネストの姿が消える。

 文字通り、消えたのだ。

 右か、左か、正面か……!?


「おおぉぉぉぉぉっ!!」


 上かっ!!

 左腕に魔力をありったけ込めて、前に出す。


 ガギィィィィィィ!!


「なっ!?蓮華、お前っ!!」


 つぅっ……!全魔力でガードしたのに、切り落とされるかと思うくらい痛い。

 

 だけど、このタイミングを逃さない!


「肉を切らせてってやつだ、アーネスト!!喰らえ!『奥義・凍刃獅吼爆砕撃』!!」


 ゴスゥゥゥゥゥ!!


「ぐぉぁぁぁっ!!」


 ドンっ!ゴロゴロゴロッ!


 直撃したアーネストが、地面を転がる。

 本来この技は両手で使うとセルシウスから聞いているけど、毎回片手だな私。

 そんな事を考えていたら、アーネストが立ち上がる。


「いっつぅ……ったく、ノルンはこれを喰らったのか、そりゃ倒れるわ……」


 そう言って、双剣を構えるアーネスト。

 まだ、動けるのか!

 正直、私は今ので魔力がほぼ尽きかけている。

 あの奥義で仕留められなかった以上、私の負けだな……。

 そう考えていたのだけど。


「はは、お前の、勝ちだ蓮華。ったく、今回、だけだからな……次は、負け、ねぇ……」


 ドサァ……!


 アーネストが、地面に倒れる。


「アーネスト!!」


 私は悲鳴にも近い声を上げ、アーネストに駆け寄る。

 カレンとアニスによる勝利宣言が聞こえたが、そんなものは頭には入ってこなかった。


「アーネスト!しっかりしろ!アーネスト!!」


 ぶんぶんと体を揺らす。


「ちょ、ま、やめろ蓮華、俺を殺す気かっ……!」


 そんな声が聞こえて、我に返る私。


「だ、大丈夫なのか!?」


「あ、ああ。お前の技で動けなくなったっていうより、魔術の重ね掛けのし過ぎっつうか、反動で体が動かなくなっちまったんだよ……」


 そういう事か……。


「なんだ、焦って損したじゃないか」


 抱き上げていたアーネストを落とす。


 ゴン!


「いでぇ!?蓮華!俺は動けないっつってるだろ!?」


 地面に落とした事により頭を打ったアーネストが抗議してくる。

 心配かけた罰として受け取ってくれ。

 気づけば、母さんと兄さん、アリス姉さんが傍に来てくれていた。


「おめでとうレンちゃん、優勝だよ!アーちゃんも素敵だったよ!」


「おめでとう蓮華。そしてアーネスト、惜しかったですよ。どちらが勝ってもおかしくのない、良い戦いでした」


「おめでと蓮華さん!アーくんも惜しかったね!」


 そう口々に褒めてくれる。

 うん、ようやく実感が湧いてきた。

 母さんと兄さんが回復魔法をかけてくれる。

 あー、あったかい……。


「それじゃ、次は私とだねレンちゃん、アーちゃん♪」


 その母さんの言葉で、勝ったという実感も余韻も消え去った。


「マジですんの……」


 アーネストが心底嫌そうである。

 うん、私も気持ちは凄く分かる。

 観客達の興奮も冷めやらぬ中、審判のカレンとアニスから説明が入る。

 聞く耳のない私はアーネストの横に寝転がる。


「ねぇ、帰って良いアーネスト」


「俺も帰りてぇ……」


 という私達の言葉に、無情にも聞こえる母さんの一言。


「だーめ♪」


 くっそう。

 普段可愛い母さんの笑顔が今ばかりは悪魔に見える。

 はぁ、やるしかないか。

 こうして、アーネストとの戦いの余韻を味わう暇もなく、母さんとの戦いが始まる事になった。




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