111.決勝戦・蓮華VSアーネスト(1)
いよいよこの時が来た。
王覧試合以来の、アーネストとの一対一の戦いだ。
カレンとアニスに呼ばれ、舞台中央へ行く。
まだ『精霊憑依』は使っていない。
アーネストが、試合開始してから使って良いと言ってくれたからだ。
だから、舞台には私とセルシウスの二人で来た。
ちなみに、セルシウスと一緒に戦っても構わないんだけど、私はアーネストと一対一で戦いたいから、それはしない。
「アーネスト生徒会長と蓮華さん、どっちが勝つだろうな……まったく予想が出来ないよ」
「ええ、準決勝はどちらも私達の想像を超えていたもの」
そんな言葉が多々聞こえる。
普段なら恥ずかしがっていたかもしれない。
でも、今は高揚感からか、そんな気持ちはない。
今はただ、アーネストと戦うのが楽しみで仕方がない。
あのアリス姉さんとあそこまでの戦いをして、勝ったアーネスト。
凄い、純粋にそう思ったんだ。
今の私の力は、アーネストに通用するだろうか?
私の攻めを、アーネストはどんな風に対処するだろうか?
ワクワクが止まらないんだ、アーネスト。
「はは、楽しみって顔に書いてあるな蓮華」
そう笑いながら言うアーネストに答える。
「分かるか?私さ、今すっごくドキドキしてるんだ。お前と戦えるのがこんなにワクワクするの、初めてだ」
「ああ、それは俺もだ。お前があれからどれだけ腕を上げたか、確かめさせてもらうぜ?」
私とアーネストが不敵に笑う。
カレンとアニスが近づいてきて、告げた。
「会場の皆さん、お待たせ致しましたわ。もはや待ちきれないでしょう。これよりヴィクトリアス学園主催、闘技大会決勝戦……レンゲ=フォン=ユグドラシルVSアーネスト=フォン=ユグドラシルの試合を始めさせていただきますわ!」
ワァァァァァァッ!!
物凄い歓声が上がる。
それだけ私達の戦いを期待してくれているのだろう。
私はアーネストを見つめる。
アーネストも、不敵に笑い私を見ている。
「両選手、準備は良いですか?」
その言葉に、私はソウルを抜刀する。
アーネストも双剣を構えた。
「それでは、ヴィクトリアス学園主催、闘技大会決勝戦!試合開始ですわ!」
ワァァァァァァッ!!
合図は出たが、私達はまだ動かない。
アーネストが話しかけてきた。
「なぁ蓮華、まずはおさらいといこうか」
その言葉に、私は笑ってソウルを鞘に仕舞う。
戦いの前に鞘から抜刀したのに、それを仕舞ったので、不思議に思った人達も多いだろう。
でも、これから出す技は居合の技なのだ。
アーネストの意図を組んだ私は、だから鞘に仕舞う。
「お前の得意技だよな、居合。ま、俺もなんだけど、もう俺は刀を使って蓮華にゃ勝てねぇだろう。だけど、剣なら別だぜ?」
そう言って、私が出す技を熟知しているアーネストは構えを変える。
「アーネスト、御託は良い。避けるか受ける、二つに一つだろ?」
そう言ってソウルに魔力を通す。
ソウルの刀身が光輝き出す。
「はは……!来い、蓮華!!」
「ああ、喰らえアーネスト!『地斬疾空牙』!!」
刀を鞘から抜き放ちながら空を斬る。
私の元の世界での居合の制空権は大体1.5mだった。
2mでもギリギリ届かせる事が可能だったが、まぁ避けられてしまう。
でも、この世界に来て、この体に馴染んで、その距離は留まる事を知らない。
なんせ、いつものように居合術を使うと、真空の刃が発生するのだから。
私はそれを応用して、縦と横に飛ばす、本来の居合術とは違う使い方をする事にした。
その一つがこの『地斬疾空牙』で、地面に刀を振り衝撃波を生み出す。
衝撃波は縦に長く、まっすぐ飛んでいく。
そしてすぐに、私は更に居合で空を斬る。
二撃目の居合は『地斬疾空牙』に追いつき、クロスする。
交差する衝撃波の威力は、単純に2倍以上の威力になるはずだ。
だというのに……。
「刀一本で器用な真似をしやがって!でもな蓮華、こっちは元から双剣なんだぜ!『二刀疾空・連装牙』ッ!!」
ドォォォォオン!!
私の放った技の衝撃波を、アーネストの放った無数の衝撃波が掻き消した。
あの技は確か、王覧試合で使った……!
「どうした、もう終わりか?……なんてな」
そう笑って言うアーネストに、私も笑う。
「あはは。良いね、お前……最高だよ。勝ったら……ってもう名前知ってるからな。勝ったら逆に月光仮面って名乗らせてやろうか」
「おま、それは酷くねぇ!?」
戦いの最中だというのに、私達は普段通りだ。
お互いに笑いあい、武器を構える。
「蓮華、面白いモンみせてやるよ」
そう言って双剣を手前に寄せる。
「『幻影創兵術』!!」
アーネストがそう唱えた瞬間、無数の黒い影が出現する。
剣を持った影、槍を持った影、中には鎌やモーニングスター、更には馬に乗った騎兵の姿をした影まで。
「ま、まさか質量を持った残像か!?」
「ちげぇよ!どこのガン〇ムだよ!?これ全部魔術による影だけどよ、ちゃんと戦えるんだぜ?」
ちゃんと私のボケを拾ってくれるアーネストに笑いつつも、説明してくれた事について考える。
ざっと見る限りで20人くらいかな……いきなり一個小隊を作り上げたってわけか。
よく見ると、それぞれが持つ武器に属性が付与してある。
「気づいたか蓮華。そう、こいつらはそれぞれに属性を付与してるんだぜ。まぁ、本来は相手の苦手な属性にするんだけどさ、お前全属性使えるしな。だから対処しにくいように、満遍なくさせてもらったぜ」
そう不敵に笑うアーネスト。
『幻影創兵術』か、私はそれは使えない。
おそらく、魔術のみだろう。
それにしてもいきなり一対多数か。
あのラフレシアってどう対処したんだっけ。
ラフレシア、か……そうだ!
「アーネスト、お前も修行頑張ったみたいだな。私はこんな魔術知らないし、兄さんとの秘密の特訓の成果か?」
「まぁな」
「そっか。でもな、特訓してたのがお前だけと思うなよ?」
「げ……まさか、お前」
「ああ、お前が兄さんと特訓してるのはすぐ分かったからな。私は母さんに特訓つけてもらったんだよ」
「なにぃ!?」
-観客席-
「マーガリン師匠、私になんと言ったか覚えていますか?」
「だって、レンちゃんに頼まれて、私が断れると思うー?」
「思いませんね」
「でしょう?」
「ええ」
「お主ら……」
少し前に似たようなやり取りを見たばかりなので、呆れて二人を見るミレニア。
すぐに視線を蓮華とアーネストに戻しはしたが、二人の会話に耳は傾けている。
「それで、蓮華にはどのような特訓を?」
「ふふ、見ていれば分かるわよロキ。それに、今回の特訓、私は特に何もしていないからね」
「そだね、マーガリンはどっちかって言うと、口出ししてただけだよね」
「し、仕方ないじゃないアリス」
「まぁ、あれはマーガリンでもどうしようもないもんねー」
「ふむ……」
三人も舞台に視線を戻す。
自分達の大切な家族であり、弟子でもある二人を見守る為に。
-観客席・了-