10.ギルド
「大きい……というか、北と東と西で3つも同じような大きさの建物があるのはなんで……?」
と口に出してしまったのもしょうがないだろう。
だってギルドって一つじゃないの……?
クスクスと笑いながら、マーリン師匠が言う。
「レンちゃん、ギルドは3つあってね。東にあるハンターギルド、北にある冒険者ギルド、西にある商業ギルドってなってるんだよ」
3つ!?成程、それで大きな建物が3つあるのか。
でも、違いがよく分からない。
「商業、はなんとなく分かるんですけど、ハンターと冒険者って、何が違うんですか?」
「ハンターギルドっていうのは略称でね、正式にはモンスターハンターギルド。要は、魔物を専門に狩る組織の事だよ」
その言葉に納得する。
そういえば、そんなゲームもあった気がする。
「冒険者ギルドはね、市民の依頼を受けるのが主だよ。もちろんこちらも魔物を倒す依頼も受けるけどね」
成程、一口にギルドと言っても役割は分かれてるのか。
「それじゃ、簡単な説明も終わったし、ギルドカードを作りに行こうか。とりあえず、冒険者ギルドとモンスターハンターギルドの二つに登録で良いかな?」
「「はいっ!!」」
私達の元気良い返事にマーリン師匠が微笑む。
「なら行こっか」
全員で北にある冒険者ギルドの方へ歩き出す。
ざわざわと賑やかだ。
だが、マーリン師匠が扉を開けて中に入った途端、静まり返る。
「お、おい、あれ……マーガリン様にロキ様じゃねぇか!?」
「ほ、本当だ。あの方々がなんでギルドに!?」
等々、聞こえてきた。
それらを無視してマーリン師匠は受付と思われる場所へ進んでいく。
私も後を追いかける。
「失礼、ギルドマスターに取り次ぎをお願いできる?マーガリン=フォン=ユグドラシルが会いに来たと言えば分かるはずだから」
「こ、公爵様!?し、失礼致しました!少々お待ちを!」
受付の人が慌てて走っていく。
公爵、様?
少し待つと、凄い音を出しながらこの場に青年?が現れた。
「はぁっ!はぁっ……!ま、マーガリン様、お待たせしてしまい、誠に申し訳ありません!!」
すっごい平謝りだった。
なんだこれ。
ギルドマスターっていうくらいだから、このギルドで一番偉いんだよね?なんでこんな低姿勢なの?
「大丈夫、待ってないよ。それより、場所を移したいんだけれど?」
「畏まりました!こちらへどうぞ!」
なんていうか、国王対応というか、そんな感じを受けた。
ついて行こうとすると。
「失礼ですが、貴方達はお通しする事はできません」
と言われてしまった。
まぁそりゃそうか。
と戻ろうとしたら。
「その子達は私の弟子だから、構わないわよ。次、同じ事したら、許さないからね?」
氷のような表情でマーリン師匠がそう言った。
「は、はぃ!も、申し訳ございませんでした!!」
と土下座をするような勢いで謝っている。
こっちもドン引きである。
「え、えっと、マーリン師匠、邪魔なら私達は出てますよ……?」
と遠慮して言ったのだが、これが不味かったらしい。
「レンちゃん……ごめんねアーちゃん、レンちゃん、不愉快な想いをさせちゃって。覚悟、できてる?」
凄い魔力がマーリン師匠を包む。
気が付けばロキさんも同じような状態だった。
ギルドマスターを見れば、ガタガタと震えて声も出ていない。
これはまずい。
「そ、そうじゃなくて!二人とも落ち着いて!マーリン師匠にロキさんは私達の事を当たり前に知ってるけど、他の人達はまだ分からないよ!?」
「そ、そうそう!仕方ないって!」
アーネストもここぞと便乗する。
はっきり言って震えてるギルドマスターや他の人達が不憫すぎたのだ。
この二人、私達の事になると沸点が低すぎる……。
「優しいなぁアーちゃんにレンちゃんは」
いえ、普通です。
「あ、ありがとう、ありがとうぅ……」
何もしてないのに、ギルドマスターから凄く感謝されて、複雑な気持ちになった。
多分アーネストも同じだろうな。
「それで、今日私が来た理由は一つ。アーちゃんとレンちゃんに、ギルドカードを作ってあげてほしいんだよ」
言われてこちらを見るギルドマスター。
「そのお二方ですね。畏まりました、と言いたいのですが……」
「規則は大丈夫。依頼は適正年齢になるまでは受けさせないし、身分証みたいなものだよ」
「成程、マーガリン様がそう仰るのでしたら、承ります。ランクは如何なさいますか?」
「なんでも良いけどね、どうせすぐ最高ランクになるから」
「!?そ、そこまでの実力をお持ちなのですか?」
「うん。まぁ用事が片付いたら、あの学校に入学させるつもりだから、手配しておいて」
「か、畏まりました」
どんどん話が進んでいる。
初耳の話もあるんだけど、口が挟めない。
ランク?まぁそれは大体分かる。
でも学校がどうとか……本人目の前に本人がついていけない話はやめてほしいんですけど……。
「ま、とりあえずギルドカードを作っておいて。あと王の証も入れたいから、アレスに連絡いれといてくれる?」
「こ、国王陛下にですか!?か、畏まりました。伝えておきます」
「モンスターハンターギルドの方にも連絡入れといてくれる?そっちの方が早いよね」
「畏まりました。早急に手配しておきます。お二方のお名前を伺っても宜しいでしょうか?」
「こっちの男の子がアーネスト、女の子の方が蓮華だよ。よろしくね」
もうどこから突っ込んだら良いのやら。
今度は国王陛下とか出てきたよ。
確か、世界樹を中心に、12か国あるんだったっけ。
証を入れるっていうのもよく分からないけど。
「ふふ、悪いようにはしないから、安心してねアーちゃん、レンちゃん」
と私達に微笑んでくれる。
それを見たギルドマスターが、驚いた顔をしている。
信じられない、といった顔だ。
「さて、これでカードについてはなんとかなるからね。後は実際に依頼を受ける時が来たら、詳しい事を教えてあげるね。今は、必要ないからね」
「わ、分かりました。マーリン師匠って、凄い方だったんですね」
心からそう言った。
「アーちゃんにレンちゃん程じゃないよ」
笑顔でそう言う。
またもギルドマスターが驚愕してる。
この人大丈夫なんだろうか。
「さて、それじゃもう用はないから戻ろっか」
「「はいっ!」」
マーリン師匠が先頭で私達が続きロキさんも後ろから続く。
部屋を出ると、またも視線が集まるが、マーリン師匠もロキさんも気にした様子もない。
慣れているんだろう。
普段ぐーたらなマーリン師匠しか見ていないので、驚きの連続だった。
ポータルを使い、世界樹の泉の傍にワープする。
「お疲れ様。疲れたろうけど、もう一仕事付き合ってね」
「もう一仕事?」
「うん、このポータルは、行った事のある町へなら大抵行けるからね。だから、アーちゃんとレンちゃんには、12か国の王都に一度連れて行っておきたいんだ。まぁ、この世界樹の泉だけは、私達4人以外これないけどね」
「もしかして、オーブの為ですか?」
「ピンポーン。もちろんオーブの安置されている場所は王都からも離れてる。だけど、各王都に一気に飛べれば、時間を大幅に短縮できるでしょう?」
成程、それなら確かに、移動時間が大分減る。
マーリン師匠が大丈夫と言っていた理由が分かった気がした。
「そういえばマーリン師匠、さっき公爵様って言われてましたよね?」
気になっていたので、良い機会だし聞いてみる事にした。
「あ、あー……まぁ隠す事でもないんだけど。二人は貴族制度について、どこまで知ってるかな?」
多少はこの世界の本を読んで勉強したので、答える。
「まずは頂点が王族で、その王族に限りなく近い立場なのが公爵家で、その次に侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家でしたっけ?」
騎士は功績を積めば男爵の位を得て貴族になれる、と書いてあった。
「うん、しっかり勉強したんだねレンちゃん。その中で私は、特別公爵っていう、別枠の公爵家に該当するんだ」
貴族っていうだけでも驚きなのに、その中でも王族に近い公爵で、さらに特別ときましたか。
「その特別というのは、なんなんですか?」
「ええとね、普通貴族はその国に尽くすものだけど、私の公爵家は全ての国に関係しているから、全ての国での公爵家なんだよ。だから、特別公爵家って呼ばれてるの」
全ての国……もしかして。
「それは、世界樹が真ん中にある事に関係してます……?」
少し驚いた顔をするマーリン師匠。
「ふふ、流石レンちゃん。その通り。私の公爵家の領地は、世界樹周り全て。ユグドラシル領って地図では載ってたんじゃないかな?」
はい、そう載ってました。まさかマーリン師匠の土地とは思わなかったけれど。
「それでね、世界樹は全ての国に恩恵を与えてる。だからどこかの国が独占もできないし、一部を分ける事も難しい。となれば、世界樹を一つの国として作るかという案も生まれた」
それは……。
「無理、な気がします。だって、そんな事をすれば、その国が頂点になる」
「そうだね。それを危惧した各国の国王は、ある貴族に管理を任せる事にした。その貴族は全ての国で地位を確立させ、全ての国に平等な立場で居られる事にして、ね」
「それが……特別公爵家、なんですね」
「その通り。全ての国で、公爵家なんだよ」
成程……そういうわけか。
そりゃ、皆畏まるわけだよ。
だって、全ての国で国王と同等の権力があるんだから。
「そっか、マーリン師匠は公爵家の令嬢様だったんですね」
何気なく呟いたのだが。
「え?私は当主だから、令嬢じゃないし継ぐとか関係ないかなぁ、あはは」
もはや言葉も出なかった。
そんな私達に続けてマーリン師匠が言う。
「あ、アーちゃんとレンちゃんは、私の子供って事にするからね。名前の後ろに、フォン=ユグドラシルってつけてね?」
「「!?」」
もはや言葉も出なかった、再。
ロキさんがクックッと笑ってる。我慢してたみたいだけど、見えてるよロキさん……。
「えぇと……良いんですか?私達みたいなのが、その……子供で」
純粋にそう思ったので言ったら、マーリンさんが凄く真剣な表情で言った。
「アーちゃん、レンちゃん。私はね、もし二人がどうしようもない子だったら、私の本名は明かさないつもりだったの」
「「……」」
「だけど、二人は違った。私とロキの為に、一生懸命だった。関係のない話だったのに、自分の命を賭けて、私達の為に戦ってくれた」
「えぇ、私も感謝しているんですよアーネスト、蓮華」
二人の話を黙って聞く。
「だからね、私は二人の事、大好きなの。二人が嫌じゃなかったら……貰ってほしいな、私の家名」
そう、不安そうに言うマーリン師匠。
そんな姿を見て、私達が断れるわけがなかった。
「マーリン師匠、逆ですよ」
「逆……?」
「私達は、私達なんかが、マーリン師匠の本当の家族になっても良いんですか?という意味で聞いたんです」
その言葉を聞いて、マーリン師匠は慌てて言う。
「あ、当たり前だよ!?二人じゃなきゃ嫌だよ!?」
なんて、涙が出るくらい嬉しい事を言ってくれた。
だから……。
「「よろしくお願いします、母さん」」
と言ってしまった。
二人揃って。
ポタッポタッ…
見れば、マーリン師匠の目から、大粒の涙が流れていた。
「私を、母と呼んでくれるの?貴方達を勝手に呼んだ、私を……」
「前も言いましたよ。なぁ蓮華」
「うん。私達は、幸せだよ」
言った瞬間、マーリン師匠……いや、母さんに抱きしめられた。
今日この日、私達は本当の家族になった。
感動してる所へ、ロキさんから爆弾が投げられた。
「それじゃ、蓮華は私の事を兄と呼ばないとダメになりましたね。楽しみです」
私は固まった。
え?そういう事になるの?
母さんが言う。
「あぁ、ロキも公爵家で引き取ったからね。表向きは弟子だけど、私を継ぐのはロキになるわ」
うそん。
「やった!これで本当の兄貴になってくれたんですよね兄貴!」
アーネストが本当に嬉しそうに言う。
「ええ、そうですね。私も可愛い弟と妹ができて嬉しいですよ」
私は尚も固まっている。
ひょっとして、公爵家の令嬢っていうのに自分がなってしまったのか……。
「レンちゃん、嫌なら無理にとは……」
母さんが悲しそうに言う。
「ち、違うよ!?嬉しいよ!本当だよ!」
慌てて言う。
母さんがニッコリ笑って。
「ありがとう」
そう言ってくれて。
あぁ、この人には敵わないなって思った。
「それじゃ、とりあえずポータルを覚える為に飛びまくりだよアーちゃん、レンちゃん♪」
嬉しそうに母さんが言う。
「「うへぇ……」」
私達は早速溜息をつくのだった。