108.アーネストVSアリスティア(2)
-マーガリン視点-
アーちゃんとアリスの試合に目が釘付けになった。
まさか、アーちゃんがあそこまでアリスに善戦するなんて、思っていなかったからだ。
アーちゃんは確かに強い。
こちらの世界に召喚した際に、魂を複製したお詫びと言うか、自己嫌悪の代償に、私の魔術回路を複製し、アーちゃんの魔術回路に融合させた。
私の魔術回路は、別名原初回廊と呼ばれ、普通の魔術回路とは異なる。
魔術回路とは、擬似神経でありパイプライン。
その線は大抵が直線であり、繋がっている。
けれど、私の原初回廊は違う。
それぞれが独立して存在し、複数の枝分かれした回路が絡み合った回廊なのだ。
つまり、"魔術を並列して同時施行する事が可能"なのである。
その数は、枝分かれした数だけ無数に。
そんな特別な回廊だが、もちろん今は単純な回路しか使えないようにはしている。
徐々に慣れさせなければ、神経が焼き切れて廃人となってしまうからだ。
大好きなアーちゃんを、そんな事態にさせはしない。
召喚された人が、どうしようもない人だったなら、制限を即取り払うつもりではあった。
そんな人がどうなろうと、知った事ではないからだ。
でも、アーちゃんもレンちゃんも、とても良い子だった。
私は二人の事が大好きになったからこそ、大切に導いてあげたいと思っている。
今、アーちゃんも回廊のほんの一部は解除している。
それを使いこなせているかは別問題としても……あのアリスとここまで戦えるのは意外だった。
隣のロキを見ると、微笑んでいるのが見て取れた。
「ロキ、貴方相当な修練を積ませたわね?」
そう、学園に戻るまでの数日、ロキがアーちゃんに何かしているのは知っていた。
特別な結界の中で行っているようで、中の様子は分からなかったけれど。
「ええ。アーネストたっての願いでしたのでね。この私がアーネストの願いを断るとでも?」
思わない。
昔のロキならありえないと断言できるけれど。
「はぁ、にしたってアレはやりすぎでしょう。あのアリスと善戦できるとか、アーちゃんの肉体の負荷は大丈夫なの?」
「安心してください。この私が、アーネストの体を壊すような真似をすると思いますか?」
思わない、再。
溜息をついて、一言。
「レンちゃんにいじけられても知らないからね?」
その言葉に、衝撃を受けた様子のロキ。
面白い位に固まった。
「くはっ!!あまり妾を笑かせるでないマーガリン。紅茶を吹いてしまう所だったではないか」
「おかわりをお注ぎいたしますミレニア様」
「うむ、頼む」
そうして再度紅茶を飲みながら、アーちゃんとアリスの戦いを見るミレニア。
固まっているロキを放置して、今も善戦しているアーちゃんを見守る。
アリスの強さは、この世界に生きる者達とは逸脱している。
私の創ったアーティファクトでかなり抑えているとはいえ、その力は神々の上位と言っても過言ではない。
それでも、アリスが負ける未来は想像できないけれど……。
けれど、決着は思わぬ形で着いた。
-マーガリン視点・了-
-アーネスト視点-
ズザァァァァッ!!
もう何度目かのアリスのハンマーによる吹き飛ばし。
闘技場の凸凹に当たり、なんとか押し留まる。
「くそっ、すこっしも衰えねぇな!その馬鹿力もだけど、本当に凄いのはそのスタミナだなアリス!」
俺のその言葉に、アリスは笑う。
「ふふ、私にスタミナなんてないよ?私ってアストラル体だから、疲れなんて感じないからねー♪」
「ずっけぇ!?」
言いながらも、アリスの連撃を避ける。
やべぇ、そろそろこっちの息がきれてきた。
このまま体の動きが悪くなったら、アリスの狙いを外せなくなる!
「そぉーれぇっ!」
ドゴォォォォン!!
また闘技場が割れる。
もはや、割れた個所に更に叩き付ける事によって、舞台は滅茶苦茶になっている。
場外負けがなくて良かったよ、そんなルールがあったら俺はとっくに負けてる。
避けながら、何度もアリスを狙って双剣を振るうが、全てあのハンマーで防御される。
何度目かの『オーバーブースト』の効果が切れた。
すぐに掛け直す、この間1秒も差は無い。
兄貴との特訓の一つで、魔術の効果時間をはっきりと覚える修行をした。
おかげで、効果がいつ切れるかを完全に把握している。
効果が切れたその瞬間に、さもずっと続いているように掛け直すのだ。
魔術の使用回数が他の者より大幅に多い俺だからこそできる荒業。
でも、それをしてなお、アリスに俺は攻めきれないでいる。
このままでは、疲労が溜まって俺が負けるだろう。
アリスも、それを理解しているからか、単調な攻めを続けてくる。
それでも、効果は抜群だ。
なんせ、俺はアリスの一撃でも受けたら立ち上がれないダメージを負うだろう。
いくら『オーバーブースト』で防御が上がっていても、あれを受けきれるとは思えない。
「アーくん、そこだぁっ!!」
「しまっ」
ドゴオオオオオオッ!!
衝撃が闘技場全体を揺らす。
結界をバヂバヂと鳴らせ、その威力がどれ程の物だったかを物語っている。
「はぁっはぁっ!」
「あっれぇ、今のは捉えたと思ったのにー。やるねぇ、アーくん!」
冗談じゃない。
『オーバーブースト』を掛けている上から、『スピードアップ』の魔法を掛けて、ぎりぎり避けたのだ。
それでも、その衝撃で発生した真空の刃までは避けきれず、服がボロボロになっている。
鎌鼬を受けたかのように、制服の中の腕の肉が裂かれている。
このままでは負ける。
一か八か、賭けるしかない。
アリスには隙が無いが、この試合という点において、油断があると思っている。
俺はそこを突く。
「アリス、やっぱ強いなお前は。俺の奥の手、使うっきゃねぇな」
アリスは不敵に笑う。
「あはは、流石アーくん!まだ奥の手があるなんて、楽しみだなー!でも、それも防ぎきってみせるよ!その防がれた後に、私の一撃、避けられるかな?」
思った通り、アリスは俺の攻撃を凌いだ後のカウンターを狙うようだ。
奇しくも、蓮華がノルンに放ったように。
でも、それは決着がついた後に、できるかなアリス。
「行くぜ!」
言葉と同時に、『オーバーブースト』を発動している上に、『オーバーブースト』を発動させる。さらに、『アタックアップ』、『スピードアップ』を並列で複数重ね掛けを行う。
瞬間的に、俺の力は数十倍となる!
「アーくん!?」
その力を感じたのか、アリスが驚愕の顔をする。
俺は地面を思いっきり蹴り飛ばす。
アリスの目の前に辿り着き、双剣を振るう!
「おおぉぉぉっ!!」
ガギィィィン!!
「くっ!?」
予想通り、アリスはハンマーで防御する。
だけどその瞬間後ろはがら空きだ。
残像を残し、アリスの後ろへ周る。
アリスは振り向こうとするが、俺の方が一瞬速い。
その喉元に、片方の剣を突き立てる。
「!!」
アリスは一瞬静止した。
もちろん、この攻撃だって、多分アリスは通じないのだろう。
そう、生死を賭けた戦いならば。
だけど、これは試合だ。
一般的に見て、喉元に剣を突かれた状態をどう見るか。
「「勝者、アーネスト=フォン=ユグドラシル!!」」
カレンとアニスの宣言が聞こえる。
ワァァァァッ!!
観客達の歓声がやけに大きく聞こえた。
俺は剣を降ろす。
「はぁ、やるねアーくん。私、それ効かないから、注意してなかったよ」
そう、アリスには効かないだろう、この攻撃は。
その命を奪う事の出来ない行為。
だからこそ、アリスは防御しない。
それがこの"試合"では仇となった。
「へへ、言ったろ。勝つってさ!」
そう笑って言ったら、アリスも笑って言う。
「うん、アーくんすっごく強かったよ!楽しかったね!」
と。
勝ったぜ、蓮華。
実力の勝利とは言いずらいけど、それでも俺は全力を尽くした。
気持ちは晴れやかだ。
うん、楽しかったな。
-アーネスト視点・了-