107.アーネストVSアリスティア(1)
-アーネスト視点-
蓮華とノルンの戦いが終わる。
終始ハラハラさせられたけど、蓮華が勝って嬉しいと思うより、二人の勝負を見て羨ましく思ってしまった。
互いが互いを認め、本気で戦いあった二人。
俺もあんな戦いがしてぇ……!そう思った俺は、いつのまにか握り拳を作っていた。
そうして、蓮華とノルンが戻ってきた。
「蓮華!ノルン!すげぇ戦いだったな!」
控室に戻ってきた二人に、声を掛ける。
「うん、ありがとうアーネスト。次はお前とアリス姉さんの戦いだろ?勝算はあるのかアーネスト。はっきり言って、アリス姉さんは強いぞ?」
あの蓮華をして、そう言わせるアリス。
「ねぇ蓮華、あの子只者ではないと思っていたけれど、貴女がそこまで言う程なの……?」
ノルンがそう聞く。
なんせ、ノルンに勝った蓮華が言うのだから、その言葉の重みは以前より重いだろう。
蓮華は言う。
「うん、強いよ。私はアリス姉さんに勝ったことが無いし、勝てるイメージも湧かない」
そう真剣な表情で言う蓮華に、ノルンは驚いた顔をし、アリスを見つめる。
アリスは小柄な体格をしてるし、童話のアリスを具現化したような華奢な見た目だ。
だと言うのに、剣では蓮華の上を行くと聞いた。
アリスは蓮華には手加減をできるらしいが、それでも圧倒的な力の差があると。
そんなアリスが近づいてきた。
「なになに?私の事話してたの蓮華さん?」
そう言って笑うアリスに、強者って感じはまったくしない。
とても可愛らしい少女にしか見えないのだから。
流れるような美しい金髪に、ピンク色の大きなリボンがとてもよく似合っている。
良く笑うこの少女は、蓮華の姉で俺の妹という、変な立場になってはいるんだけどさ。
「うん、アリス姉さんは強いよって」
「あはは、蓮華さんに褒められると照れちゃうなー」
「褒めてはいないけどね?」
「うそぉ!?」
なんてやりとりを蓮華とするのを見ると、普通の少女なんだよなぁ。
でも、潜在魔力を探ろうとすれば分かる。
その魔力の深さ、濃いさに足が竦むほどだ。
俺は、アリスに勝てるだろうか。
「アーネスト」
蓮華が俺に声を掛けてきた。
振り向くと、笑ってる。
「気負うなよ、アーネスト。お前ならアリス姉さんにも勝てるかもしれないって、私は思ってるんだぞ?」
そう言ってくれる。
その言葉に、俺は気持ちが軽くなるのを感じた。
やっぱ、お前は俺の親友だよ。
お前の一言で、俺はこんなにも簡単に前を向ける。
萎えかけた心を、奮い立たせる事が出来る。
「おう、期待して見てろよ蓮華。俺はアリスに勝つ!」
そう笑顔で言ったら、蓮華も笑顔で返してくれた。
「こらー!私の目の前で私を倒す相談とかやめてよねー!?蓮華さんにアーくん、酷いよー!?」
そのアリスの言葉に、俺と蓮華は笑う。
ノルンはやれやれといった感じで俺達を見ている。
そして、カレンから呼ばれたので、舞台に行く事にする。
「それじゃ、行ってくるぜ蓮華、ノルン」
「行ってくるねー!」
「ああ、頑張れアーネスト!アリス姉さんも一応ね?」
「酷いよ蓮華さん!?」
「ふふ、まったく。私は平等に応援するわ。でも、アリスティアさんが蓮華がいう程の強さなら、会長に期待してしまうわね」
「おう、見ててくれよな!」
「私の周りに味方がいないよぅ!?」
そんなアリスのセリフに笑いながら、舞台中央へ。
直前の会話のおかげか、体はリラックスできてる。
「アーネスト様、アリスティア様。よい表情をされておりますわね。期待しておりますわ」
そう小声で言うカレンに、俺達は微笑む。
「会場の皆さん、第一試合の素晴らしい戦いの熱も冷めぬうちに、これよりヴィクトリアス学園主催、闘技大会準決勝、第二試合を開始させて頂きますわ!」
ワァァァァァァッ!!
「それでは選手紹介をさせて頂きますわ!まずはこちら、小柄で華奢なその可愛らしい姿から、一部の生徒達に尊いと崇められておりますが、その実力はあの蓮華お姉様が恐れる程!その体からは想像もつかないようなパワーを誇りますわ!予選では生徒達を気遣い、そのパワーを使わずに負けようとするなど、優しいお方ですわ。そして、あの蓮華お姉様の姉でもありますの!その名、アリスティア=フォン=ユグドラシル!」
ワァァァァァァッ!!
その紹介の内容に笑ってしまう。
「ちょっとぉー!?カレンちゃん言い過ぎだからねー!?」
なんて言ってるアリスにも笑ってたんだけど、矛先が俺にきた。
「続いてこちら、ヴィクトリアス学園生徒会長、アーネスト=フォン=ユグドラシル!もはやこの学園において、知らぬ者は居ないと言っても良いでしょう!あのレンゲ=フォン=ユグドラシルの兄であり、更に対戦相手であるアリスティア=フォン=ユグドラシルの兄でもありますわ!今回の戦いは兄妹での戦いとなりますわね!この会場には母親であるマーガリン様も来られておりますし……マーガリン様、一言どうぞですわ!」
「アーちゃん!アリスー!見てるからねー!」
母さんが大声で言ってくる。
観客が湧き上がる。
やめてくれ、恥ずかしさでヤバいっての。
アリスと目を合わせる。
アリスも真っ赤だ。
多分、俺もそうだろうな。
「アーネスト!アリス姉さん!頑張れよー!」
蓮華の声が聞こえる。
そちらは向かないが、きっと笑ってるんだろうな、想像できる。
「それでは両選手、準備は良いですか?」
俺は双剣を構える。
対するアリスは、なんだぁ!?剣かと思ったら、どでかいハンマーを手にしてる。
「それでは、試合開始!!」
その言葉が終わるも、俺とアリスは動けずに睨みあっている。
だから、俺が声を掛ける。
「おいアリス、俺は剣を使うって聞いてたんだけど、違うのか?」
その両手で持っているどでかいハンマーを見て言う。
「私は剣も使えるってだけだよ?蓮華さんが刀を使うから、剣を使ってたの」
「なら、俺にも剣で相手してほしかったんだけどなぁ?」
「えへへ、ごめんねアーくん。だって、刀と剣の戦いはさっき見たし、どうせならタイプの違う戦いをしたいじゃない?」
そう笑って言うアリスだが、一部の隙もない。
これはやべーな、控室や普段話をしていたアリスとは別次元の存在だ、これは。
これを知ってるから、蓮華はあー言ったのか。
「それじゃ、行くよアーくん?」
瞬間、とてつもない気迫を感じた。
闘気とでもいうのだろうか、魔力とは違うその感じ。
寒気を感じた俺は、後方へ跳躍する。
ドガァァァァァァン!!
アリスが俺が居た場所へ、ハンマーを振り下ろした。
舞台が凹み、大きなクレーターができあがった。
ちょ、マジでか!?
カレンとアニスを見ると、ちゃんと避けているようで安心した。
けど、よそ見をしたのが不味かった。
アリスが飛んでくる。
「ちょいやぁぁっ!!」
ドガァァァァン!
ドゴォォォォン!!
アリスが空を斬って地面にそのハンマーを叩き付ける事に、地面が、舞台が破壊されていく!
「うぉぉっ!?マジかよ!馬鹿力すぎだろアリス!!」
悪態を吐くが、アリスの連撃は止まらない。
「どうしたのアーくん!逃げてばかりじゃ、私には勝てないよ!」
そう言いながら、ハンマーを回転させるアリス。
その華奢な体に不釣り合いなもんぶん回しやがって!
良いぜ、やってやるよアリス。
俺も、遊んでたわけじゃねぇ。
兄貴にも訓練をつけて貰ったんだ。
双剣を構える。
俺の気迫に気付いたのか、アリスの表情が変わる。
「良いね、アーくん。その顔つき、ゾクゾクするよ?」
そう微笑むアリスに、俺も微笑み返す。
「『オーバーブースト』……行くぜアリス!!」
この魔術は、『アタックアップ』『ディフェンシヴ』『スピードアップ』という3つのパワーアップ魔術を、全て一度に行える魔術だ。
攻撃力、防御力、速度に一気に補正を掛ける。
そして俺は、それを最高伝達力で掛ける事が出来る。
普通の者が使えば、大体効力は1,1倍から1,3倍までのその効果も、俺が使えば3倍にまでなる。
これは奥の手だからまだ使わないけど、俺はそれを重ね掛けができる。
つまり、一度重ね掛けをすれば、9倍にまで効果を高められる。
ただ、魔術回路に負担が物凄く掛かる為、体が悲鳴を上げるけどな。
「おらぁぁっ!!」
アリスの背後を取り、二刀のうち一刀で斬りつける。
ほんの少し前までそこに居たアリスは、一瞬で回避する。
あまりの速度に、残像が残っていたんだろう。
「甘い、アーくん!」
そう言って振り下ろしてくるハンマーを、もう片方の剣で受け流す。
ドゴオオオオン!!
地面が割れる。
体制を崩されかけたので、後ろへ跳躍する。
が、アリスがついてきてる!
「マジか!?」
「マジだよ!空中のその体制で、避けられるかなアーくん!」
「空中ではそのパワーも万全じゃねぇだろ!」
「そう、かなっ!!」
そう言ってアリスは体を捻り、物凄い勢いでハンマーを振り回してくる!
体を最適に使ってるのか!これを直撃したらやべぇ!
「『シールド』!!」
空中に結界を張る。
「甘いよアーくん!そんなもの、貫通するよ!」
「ちげぇよアリス!これは俺の足場だ!!」
空中に出来た結界を蹴り、アリスよりも早く地上に戻る。
「うそっ!?」
空中で空振りをするアリスを見て、降りてくる場所へ駆ける。
「うらぁぁぁぁっ!!」
ガギィィィィィン!!
「っとぉ!!あっぶなーい、やるねアーくん!!」
ブォン!!
ズザァァァァッ!!
「くっ!!」
ハンマーで受け止められ、そのまま振るわれて後ろへ下げられる。
地面は凸凹だらけだが、また俺とアリスは睨みあう形となった。
-アーネスト視点・一時了-
二人の戦いを見て、体が震えた。
凄い、凄いよアーネスト!
あのアリス姉さんと、互角に戦えるなんて!
アリス姉さんはあの見た目と違って、物凄いパワーとスピードを誇る。
私なんて、何度アリス姉さんにやられちゃった事か。
なのに、アーネストは初めて戦うはずなのに、互角に戦っている。
アリス姉さんが巨大なハンマーを出現させた時は驚いたけれど……。
あれはブレスレットウェポンと呼ばれる物で、魔力を通すと武器になる腕輪だ。
多分、母さん作。
もっと小型の物、指輪とかでも作れるそうだけど、そうすると耐久力が弱く、壊れるらしい。
一般の人はそれでも大丈夫だそうだけど……。
アーネストとアリス姉さんとの戦いを見て、体が震える。
「……蓮華、あの二人強いわね、本当に」
そうノルンが言ってくる。
その瞳は真剣に二人の戦いを見ている。
「うん。自慢の家族だよ」
そう言える自分が、誇らしかった。
アーネスト、アリス姉さん。
その勝者が、私と戦う。
どちらが勝っても、今の私は嬉しい。
素晴らしい戦いを魅せてくれる二人と、戦えるのだから。