104.エキシビジョンマッチって何
アーネストの言った通り、闘技場の入口で理事長や他の先生方が待っていた。
母さんを降ろして、皆と一旦別れる。
母さんが私達と離れるのをすんごく嫌がったけど、兄さんとミレニアに引きずられていった。
「「母さんは本当に……」」
私とアーネストが同時に一字一句違わずに言うのを、苦笑して見守るアリス姉さんにセルシウス。
観客席には続々と生徒達が席についていっている。
また凄い数だね……今回は準決勝からという事もあり、予選に出ていた人達も観客席にいける。
そういえば、予選に出ていたユリィ君だけど、どのブロックだったの?って聞いたら、Aブロックだったらしい。
俺オワタって言ってたらしいよ、なんか聞こえた気がしないでもない。
それから選手控室に向かう前に聞く。
「セルシウスってどうなるんだろ?」
大精霊だし、生徒っていうわけでもない。
制服も着てないからねセルシウスは。
「ああ、セルシウスは問題ねぇよ。っていうか、なんでもありだから、お前はセルシウスを"使え"るんだぞ?」
とアーネストが言ってくるけど……。
「アーネスト、セルシウスは友達なんだ。お前の事だから深い意味なんてないだろうけど、そんな言い方はやめてくれ」
「はは、お前ならそう言うと思ってたよ。けどな、なら言い方を変えるけど、セルシウスは自分の力をお前に貸したいはずだぞ?」
その言葉にハッとする。
「レンゲ、貴女の気持ちは嬉しいわ。だけど、そんな貴女だからこそ、私は、私達は貴女に力を貸したいの。だから、あえて言わせて貰うわ。レンゲ、気にせずに私達を使って頂戴」
「……ありがとうセルシウス。そうだね、皆私を信じて契約してくれたんだ。それを、私が壁を作ってるみたいなものだったんだね」
セルシウスは微笑んでくれる。
うん、大精霊の皆は、私を信じてくれている。
なら、それに応えないとね。
「行こうセルシウス。だってセルシウスは私のだもんね」
そう笑って言ったら、セルシウスが赤面した。
あれ?
「蓮華、お前……」
「蓮華さん……」
二人に溜息をつかれた。
なんで?
「まぁいいや、行こうぜ。開会の挨拶とか、今回は国の重鎮もたくさん来てるから、話は長そうだしな」
アーネストの言葉を聞きながら、選手控室へ向かう。
もちろんセルシウスもね。
舞台の両端に選手の控室があり、本来は相手となる人と反対側にそれぞれ行くらしい。
だけど、今回皆顔見知りな事もあり、全員同じ場所に集まった。
「ノルン」
「アンタ達遅かったじゃない。ああいえ、理由は分かってるけどね。大変よね、過保護な親を持つと」
その言葉に激しく同意する私達だった。
ノルンがセルシウスを見て、何か頷いた。
「そっか、蓮華もようやく『精霊憑依』を使う気になったのね」
「『精霊憑依』?」
ってなんだろう?
「……え。『精霊憑依』を使うから、セルシウスをここに連れてきたんじゃないの?」
「……」
「ちょっとアンタ達!!なんでこの子にそういう事教えてないの!?」
「いやだって、俺はてっきり知ってるもんだと……」
「あはは、忘れちゃってた。てへぺろ☆」
うん、アリス姉さん、それ結構大事な事だったりしない?そんな可愛く言っても許されないよ?
「っていうかセルシウス、アンタもなんで教えてないのよ!?」
「だって、レンゲは私達を"使う"のを躊躇っていたから」
「あぁー……」
なんかノルンが納得する。
そして、私に向き直って言う。
「良い、蓮華。精霊達を行使するのは、確かに無理矢理従えるのもあるわ。それに精霊術師なんて職は、精霊の力を強制的に借りるようなもんだし。だけど、アンタは違う。むしろ精霊側がアンタに力を貸したいと思ってるのよ。なのにアンタが遠慮してどうするのよ!」
「う、うん。それさっき言われた……」
その言葉に顔を真っ赤にするノルン。
「アンタね、そういう事は先に言いなさいよ!?」
「ご、ごめん。言う暇が無かったじゃないか……」
「ぶはっ!ノルン、お前良い奴だな。俺誤解してたわ」
そう笑って言うアーネストに、ノルンはフン!と鼻を鳴らす。
顔は真っ赤だけど、怒ってはいない、それが分かる。
今も、私の為に言ってくれたんだ。
「良い、勘違いしないで。私は本気のアンタに勝ちたいのよ。そんな手加減された状態のアンタを倒しても、なんの自慢にもなりはしないわ。その為に敵に塩を送ってるわけ、分かった!?」
うん、顔を真っ赤にして言われても、それが照れ隠しにしか思えないから困る。
だけど、ここは茶化さずに言おう。
「分かってる。今度こそ正々堂々、戦おうノルン」
そう真剣に言った。
ノルンは居住まいを正した。
「それで良いのよ。良い顔つきになったじゃない。それでこそ、勝つ意味があるってものよ」
そう言って微笑んだ。
「はは、強敵だな蓮華」
アーネストが言ってくる。
うん、分かってる。
ノルンは強い、手加減なんてできる相手じゃない。
だから、試合が始まる前に、聞いておかないと。
「セルシウス、『精霊憑依』ってどうやるの?」
「簡単よ。私がレンゲの中に入るの」
「ああ、世界樹の中に入る時に、俺の中に入ったあれか?」
「いえ、あれとは違うわ。私と言う存在、そのものをレンゲの中に入れるの。つまり、一時的に同化するのよ」
「同化!?つまり、フュー○ョンか!?」
アーネストがヤバい事を言うけど、私もそれをイメージしたので怒れない。
「その言葉がなんなのかは知らないから何とも言えないけれど、私の意思は残らないわ。ただ、私の力全て、レンゲが使えるようになるの」
「大精霊の、セルシウスの力を、全て!?」
驚いた。
それは、とてつもなく凄いんじゃなかろうか。
「時間制限はあるけれどね。それに、私だけじゃない。レンゲなら、私を憑依させたまま、他の大精霊も憑依させられるはずよ」
「それってつまり、例えばセルシウスとイフリートを憑依させたら、氷と火を同時に極限まで扱えるって事?」
「ええ。だけど、注意して。これは魔力をかなり多く使う。いくらレンゲでも、数種の大精霊を同時に扱えば、一気に魔力が枯渇するわよ。今のレンゲだと、もって5分ね」
成程、強力な力だけに、制限もキツイわけか。
「それって、私が魔力の扱い方を学べば、もっと時間は伸ばせるって事?」
「もちろんよ。それに、レンゲはまだ体内の魔力に制限を受けてる。貯蔵庫が10個くらいある感じで、そのうちの1個しか使えていないわ。しかも、その1個を使いきるだけで、魔力切れと体が勘違いするようになってる」
ああ、それが制限なのかな。
「そっか、修練あるのみだね」
「ええ」
話は終わったんだけど、ノルンを見たら両耳を両手で塞いで目を瞑ってる。
えっと、何してるんだろう。
「おい、ノルン。何してんだ?」
アーネストが肩を叩く。
すると目を開けたノルンが、終わった?って聞いてきたので、首を縦に振る。
「ふぅ、アンタ達話すのは良いけど、ここに敵が居るって忘れてない?」
なんて言うノルンに笑い出す私達。
「な、なんで笑うのよ!?」
どこまでも律儀なノルンに、穏やかな気持ちになるのを止められない。
すると、何かがぶつかってきた。
「おぅっ!?」
あまりの衝撃に変な声でちゃったよ。
後ろを振り向いたら誰も居ない。
あれ?
と思って何度か回転するも、誰も居ない。
「何してんだよカレン、アニス」
そのアーネストの言葉に私から離れる二人。
成程、私に引っ付いたままだったから、私が振り向いたら同時に後ろに回ってたのか。
「えへ、蓮華お姉様分をチャージしておりました」
「同じく、です」
私分ってなんだ。
「久しぶりだねカレン、アニス。心配を掛けてごめんね、それとありがとう」
そう二人に礼を言う。
「とんでもありませんわ蓮華お姉様。むしろ、アーネスト様やアリスティア様に任せきりになってしまい、申し訳なく思っておりますの」
「はい、すみません蓮華お姉様……」
そう言う二人に、言葉を続ける。
「そんな事ないよ。二人は、自分にできる事を一生懸命してくれたんでしょ?だから、被害が少なかったって聞いてるよ。頑張ったね、偉いよ」
そう微笑んで、頭を撫でる。
二人は猫みたいに気持ちよさそうにしてて、なんか和んでしまう。
「あれが天然ね……」
「だな……」
なんてノルンとアーネストが言ってくるけど、天然てなんだ。
ただ頑張った二人を褒めただけじゃないか……。
「それで、そろそろ試合開始なのかな?」
二人が来たので、そう思ったんだけど。
「はい、それもなんですが、選手の皆さんに説明にきましたの」
「本来、私達は分かれて説明に向かうのですが、皆さん同じ場所でしたので、二人できました」
とカレンにアニスが言う。
成程ね。
「とはいえ、皆さんはすでにご存知ですし、省略しますね。なので、新たに追加された事だけお伝えいたしますわ」
「新たに追加された事?」
「はい。それは、エキシビジョンマッチとして、決勝に進んだ二名と今回特別に、あの氷の大魔女マーガリン様が戦ってくれるとの事ですわ!」
カレンが目を輝かせてるけど、何やってくれてるの母さんー!?
「ま、マジで?」
アーネストが恐る恐る聞いた。
気持ちは痛いほど分かる。
冗談であってほしかった。
「マジですわ。先程、マーガリン様直々にそう仰られましたので。会場は湧き立ちましたわよ?その事を知って、各国の王に連絡が行き、直接見れなくても映像で見たいという声が多くて処理に追われているはずですわ」
母さん、何考えてんの……。
「あのマーガリンと戦えるの?何それ凄いじゃない……これは負けられない理由が増えたわね」
なんて一人やる気になっている者がいるけども。
身内はと言うと。
「アーくん、私今日力が出ないかもしれないよ?やったねアーくん」
「俺もなんか腹が痛くてさ、本調子で戦えないかもしれねぇ……」
往生際の悪い二人にチョップをする。
「いでっ!わ、分かってるよ蓮華」
「あいたっ!うぅ、蓮華さん酷いよぅ……」
気持ちは分かるけど、そんな事許さないからね。
っていうか、母さんが会う度に魔力が増えていくのは感じてた。
きっと、失った魔力がどんどん戻っているんだろう。
修行の時の母さんと、今の母さんは別人と思った方が良いだろう。
「それでは、試合の時間になりましたら、もう一度呼びに参りますね。頑張ってくださいまし蓮華お姉様」
「応援、しております。本当は、どなたかに肩入れをしてはいけないのですけど……私達は、蓮華お姉様を応援しておりますので」
そう言う二人に苦笑する。
周りの皆も、特に気にしていないようだ。
横に居るノルンを見る。
私が見ているのに気付いたノルンは、不敵に笑う。
うん、負けないよノルン。