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103.皆来たよ

 少しの間、アーネストやアリス姉さん、セルシウスとゆっくり歓談した後、時間が迫ってきたので闘技場に向かう。

 すると、凄い数の生徒達が、闘技場の中に入らずに集まっていた。

 それも、闘技場への道を避けて。

 良く見ると、闘技場の入口までに赤い絨毯(じゅうたん)、だろうか?が敷かれている。

 嘘でしょ、あれ校門の所まで続いてるような……。


「アーネスト、あれって?」


「あー……ほら、母さんって特別公爵家当主だろ。他の人達からしたら、いきなり国王様が来るような感じなんだよ」


「うっそぉ……」


 私はまだ、考えが至らなかったみたいだ。

 って事は、かなり慌てたよね、他の教師の皆さんは。


「それに、蓮華は知らないだろうけど、ミレニアってかなり名の知れた家でさ。発言力が凄げぇ高いんだぜ。王家も逆らえないらしいしな」


 うへぇ……この世界の王家って弱すぎない?母さんやミレニアが凄すぎるだけなのかもしれないけど。

 というか、そんな人達が一気に来るとなったら困るよね。

 元の世界で言えば、一つの学園に大統領とかがいきなり来るわけでしょ。

 そりゃ慌てるよ。

 ぼけーっと眺めていたら、ざわめきが強くなってきた。

 理事長や他の教師の先生達が、先導して歩いてきた。

 その後ろには、見知った顔が。


「レンちゃん、アーちゃん!」


 そう大きな声で呼びかけてくる母さん。

 ちょ、こんな皆いる所で大声で呼ぶとか勘弁してほしいんですけど!?


「アーネスト、呼んでるよ」


 ちょっと引きつった顔で言う私。


「いや、お前もだよ!」


 アーネストが観念しろとばかりに、私を引きずって連れて行く。

 いーやぁぁぁぁぁぁ!

 こんな大勢の前でとか恥ずかしいんだぁー!

 と抵抗も空しく、母さんの前に連れて行かれて、アーネストと共に抱きしめられる。


「レンちゃん、アーちゃん!もぅ、会いたかったんだからー!」


 母さん、数日前に会ったばかりだから!

 それと皆の前で抱きしめないで!

 恥ずかしいんだよ、本当に!

 母さんから解放されて、横を見る。


「蓮華、アーネスト。今日を楽しみにしていましたよ」


 そう言って微笑む兄さんに、周りで見ている女生徒達の悲鳴のような声が聞こえた。

 うん、元男なので分かりたくないけど、分かるよ。

 兄さん格好良いもんね。


「妾もじゃ。シャルも見たいと言うのでな、連れてきた」


「お久しぶりです、蓮華様、アリスティア様。そしてお初にお目にかかりますアーネスト様。私はミレニア様に仕えるメイド、シャルロッテ=リーズ=カルデロースと申します。以後、お見知りおきくださいませ」


 とシャルロッテが丁寧にお辞儀する。


「あ、ああ、よろしく。……おい蓮華、このメイドさん、俺達より強くねぇか!?」


 とアーネストが小声で話しかけてくるのに、同意する。


「マジかよ、世界は広ぇどころか、こんな身近にまだ上がいんのかよ!」


 うん、その気持ちはよく分かる。


「シオン、ここから先は案内は不要よ。レンちゃ……コホン、蓮華やアーネスト達と共に行くから。闘技場の中で待っていてくれるかしら?」


 シオンとは、理事長の事だ。


「畏まりました、マーガリン様。では、私共は先に闘技場の中へ入って、ご案内できるようにしておりますので」


 そう言って理事長は恭しく礼をして、闘技場へ職員の先生方を連れて先へ行った。


「いや、母さん達も一緒に行けば良かったんじゃ……」


 そう思ったので言ったら……。


「嫌よ!せっかくレンちゃんとアーちゃん、それにアリスも居るのに、なんで他の人達と行く必要があるの!」


 そう熱弁されてしまった。

 アーネストもやれやれと言った感じで言う。


「まったく……母さん、外向けの顔はどうしたんだよ。これじゃ家に居る時と変わらねぇじゃん」


 と。

 だけど、母さんは堪えてない。


「良いのよ、私はレンちゃんとアーちゃんの前ではこうなの。別に知られても困らないし、むしろ知れ渡っていいもん」


 と口を尖らせて言う。

 なんだこの可愛い母さん。

 アリス姉さんが苦笑してる。

 そう思っていたらいきなり兄さんに頭を撫でられる。

 私とアーネスト、両方だ。


「兄さん!?」


「兄貴!?」


 二人して言ってしまう。

 それくらい衝撃だったんだよ。


「ふふ、マーガリン師匠がそういう態度をとるなら、私も弟弟子と妹弟子との仲が良好なのを知らしめようかと思いまして」


 そんな子供じみた事を言う兄さんが可笑しくて、二人して笑ってしまった。


「やれやれ、ロキは本当に二人の事になると変わったものじゃな」


 そう言うミレニアも笑っているし、隣のシャルロッテは信じられない物を見たような顔をしてる。


「アーネスト、私観客席の事よく分からないんだけど、案内できるの?」


「ああ、俺は知ってるけど、多分理事長が入口で待ってんじゃねぇかな。俺達はそこまで連れてくだけだよ蓮華」


「そっか、なら良っか。ていうか、この絨毯居心地悪いんだけど……」


 足元が柔らかすぎて、変な感じがする。

 こんなとこにお金かけるなって言いたい。


「凍らせようか?」


 ってセルシウスが聞いきた。


「うん、それしたら滑るよね」


 って答えておいた。

 苦笑するセルシウスだったけど、割と目が本気だったので、あれはしてと言ったらするな。


「じゃぁ燃やしちゃう?」


「甘いですよマーガリン師匠、塵も残さず消し去ってあげましょう。蓮華を不快にさせる物に存在価値などありません」


 そう言う二人を慌てて止める。

 なんでそんな意見になるのかさっぱりだよ!


「蓮華、お前発言禁止な」


「そんな理不尽な!?」


 アーネストがそう言うから、すぐに反論する。

 アリス姉さんが笑い出した。


「あはははっ!蓮華さん、ホント発言には注意しないとね!」


 うん、面白がってますねアリス姉さん。

 そうこうしてたら、後ろから声が聞こえ始めた。


「だから、観戦なんてしなくて良いから!!」


「そうはいかん。お前の晴れ舞台だ、直接見ないでなんとする」


「リンスレットは仕事で忙しいでしょ!!」


「お前の為なら、そんな時間くらい気合で空けれる」


「気合の入れ所間違ってるからね!!」


 なんて声が。

 あれはノルンと確か、魔王さんじゃ!?


「あら、直接会うのは久しぶりねリン」


「マーガリン、息災な様だな」


「貴女も見に来たの?」


「ああ、ノルンがお前の娘と戦うと連絡が来てな。見に行かずにはいられまい?」


「分かる、分かるわリン!」


 そう言って二人、握手を交わす。

 なんで魔界の王とフレンドリーなの母さん。


「ロキにミレニア、久しぶりだな」


「そうですね」


「そうじゃな」


 なんか、こっちは淡泊だけど。

 だけど、険悪なムードじゃない。

 自然な流れと言うか、そんな感じを受ける。

 魔王さんが微笑んだかと思うと、こちらへ向きなおる。


「蓮華、改めて謝罪する。すまなかったな。それと、我が子ノルンと、仲良くしてくれた事、感謝する」


 そう、頭を下げてくれた。

 一国の王ならぬ、魔界の王が頭を下げるなんて、よほどだろう。

 だから、慌てて言う。


「あ、頭を上げてください!私はイグドラシルとも、ノルンとも友達なんです!だから、謝罪される事も、感謝される事もありません!友達になった事に、感謝されるなんておかしいじゃないですか!?」


 そう言ったら、一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに優しい微笑みに変わった。


「……そうか。お前は良い奴だな。魔界に戻るまでの短い間だが、ノルンをよろしく頼む」


 そう言って、先へ行く魔王さん。

 その後ろから、ノルンにアリシアさん、名前は知らないけど、男性が続いて行く。


「蓮華、ありがと」


 そうボソッと、すれ違いざまにノルンが言ってきた。

 その言葉に嬉しくなる私だった。


「なんか、アイツ変わったか?」


 そう言うアーネストに、私は微笑むだけだ。

 というか今思ったら、地上の重要人物に魔界の王様が観戦に来る闘技大会なんて、初めてなんじゃないの?

 そう思ってアーネストに聞いたんだけど……。


「当たり前だろ、むしろ今地上と魔界の注目の地だぞここ」


 なんて答えが返ってきた。

 ですよねー。

 なんせ、地上と魔界を騒がせた中心が集まってる。

 しかも、渦中の二人が戦うんだから、注目も集まろうってものだよね……。

 ノルン、普通に戦いたかったのに、なんか注目集めながら戦う事になっちゃったよ。


「それじゃレンちゃん、アーちゃん、案内よろしくねー♪」


 と言いながら、私達を抱きしめてくる母さん。

 いや、このままじゃ歩きにくいんですけど。


「母さん、これじゃ歩けないって」


 アーネストが私の気持ちを代弁してくれる。

 良いぞもっと言え。


「まっすぐなんだから、良いでしょー♪」


 普通、まっすぐなんだから抱きつかなければ、すぐ行けると考えませんか……。

 いや、すぐ行けないように考えてるのか。


「狡いですよマーガリン師匠。蓮華かアーネスト、どちらか私に譲ってください」


「どっちか……?そんなの選べるわけないじゃない!?」


「それは、そうなんですが……」


 そこで負けないでほしい、兄さん。

 というか両方離すという選択肢は?


「なら、アーネストから教わったジャンケンで決めましょうマーガリン師匠」


「良いけど、負けた方をどっちにするつもりなの?」


「それは……やはりこれはなしですね」


 ダメだ、この二人に任せていたら、一歩も進まない。


「アーネスト」


「おう、分かってる蓮華」


 私達二人は目配せをして、母さんを抱き上げる。


「きゃっ!?」


「よし、このまま連行だ蓮華!」


「よしきた!」


 そう言って、母さんを連れて行く。


「うわぁ、これ幸せー♪」


 なんて言う母さんと。


「ズルイマーガリン!蓮華さん!アーくん!私も後でそれしてー!」


 って言いながらついてくるアリス姉さん。

 兄さんとミレニア、シャルロッテも微笑みながらついてきてくれる。

 うん、もう場所がどこでも私達には関係ないかもしれない。



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