ちょっともうこれ見世物小屋じゃないの
「でも、どうなのかしらねぇ、
この子はただオネエに憧れてるだけで、
女になりたいって訳じゃないじゃない?
根本からあたし達と違うじゃない?
ママ(男)はまだどしようか迷っていた。
「でもママこの子、
ゾンビのツギハギとかなかったら
すごく綺麗な顔してると思うわよ、
女の子みたいじゃない」
ゾンビ少年(四十歳)、
確かに縫い目や致命傷の後さえなければ、
元々はすごい美少年だったと思われる。
「ホントだー、カワイイー」
「ちょっとあんた、
エステにでも行って来なさいよ、
綺麗になるかもしれないわよ」
エステでどうにかなるとは思えないが、
周りのオネエさん達も
元の顔がいいことには同意する。
「ぼ、僕、
女の子の服とか着てみたいですし……」
ゾンビ少年も必死にアピール。
「まぁ、いいか、
いいのか、これで」
ママもとりあえず
お店で働くこを許可するのだった。
-
「ゾ、ゾン美で~す」
入店したゾンビ少年、改めゾン美、
お客のテーブルに付き接客をするが。
「こ、この間、
起きたら片目取れちゃってて……」
緊張しながらギャグを言ってみたが、
寒い空気が漂いだけである。
後でものすごく落ち込んで、
余計に自分が嫌いになりそうな勢いだ。
「もうやだ、この子ったら、
いきなり滑ちゃって」
すかさずフォローするママ。
「ほらあんた、
異世界に住んでた時の話でもしなさいよ、
いろいろあるでしょ」
ゾン美としては
面白い話をしたつもりもなかったが、
こちらの人間は知らないことばかりなので、
思いの外盛り上がり、
異世界ファンタジー好きな客などは
食い入るように聞いていた。
その後、ママに呼び出されるゾン美、
接客態度とかいろいろ怒られるのかと思い、
びくびくしていたゾン美だったが。
「あの異世界トーク、あれはイケるわね」
「あんたアレ
持ちネタになさい、
鉄板ネタになるわよ、鉄板」
異世界トークした時の客の反応を見たママが、
これはゾン美の売りになると思って、
いろいろとアドバイスをしてくれるということだった。
無理に他の人と同じことをするのではなく、
自分の個性の中から売りをつくりなさいという、
これまたママの有り難いお話が延々と続く。
しかし、そのお陰もあってか、
ゾン美目当ての客も増え、
ゾン美もやり甲斐を感じるようになり
少し自分に自信を持てるようにもなる。
-
そんなゾン美が
ある日知り合いの半魚人を連れて来た。
「みなさんのお話したら
半漁人さんがエラく感動して
是非自分もこのお店で働きたいと……」
「自分も他人の目を気にするんじゃなく、
もっと自分らしく生きたいと思い……」
結果、半魚人も入店して働くことになる。
「ちょっとこれ、
ますます化物小屋みたいになって来たわね」
元異世界住人である二人のトークが受け、
ネットで話題になった影響もあり、お店は繁盛。
連日満員の客足に
人手が足りないということで、
半魚人の知り合いである
リザードマンにヘルプで入ってもらうことも。
「ちょっと、もうこれ
ただの縁日の見世物小屋みたいじゃないの」
しかし、異世界トークが聞ける店として
お店はしばらく繁盛し続けたらしい。