事故
それは学校の帰りに起こったことだった。
「またコンビニかよー」
「コンビニ弁当、意外と美味しいんだぜ」
「太っても知らねーぞ」
「仕方がないだろ。親は働いてるしさ、お前だって俺の家庭科の成績、知ってるだろ?お前はいいよな、息子の飯作ってくれる家族がいて」
「そんな大げさに言うなよ。いつかは作ってくれるだろ」
「いつかいつかって言って、結局は一年も作ってもらってねーんだよな」
「で、俺にコンビニまで付き合えと」
「そう!さすが俺の親友」
「いつものことだし」
俺らはいつものようにコンビニで輝のためのコンビニ弁当を買った。だが、今日はいつもより弁当を選ぶのに時間がかかったせいか、帰るのが遅くなってしまった。
「今日は別の道で帰ろうぜ。夜遅いしさ、ここら辺不良とかよく出るじゃん?」
「そうだな」
そこからは今度の期末試験の話とか、来年の高校についての話とか、”未来の話”について盛り上がっていた。今思えばこの時の俺にはまだ”未来”があると思っていたのだろう。
「この交差点を右に曲がるんだよな。早く行こうぜ」俺が先に横断歩道に出る。
「いや、ここは左だったような」確かに、言われてみれば左だったような気もしないでもなかった。どちらにするか横断歩道のど真ん中で迷っていると、突然怒鳴り声が聞こえた。
「こら!そこにずっといると危ないぞ!引かれてもいいのか?」見知らぬ通行人だった。
「あーはいはい。とりあえずここは左に行こうぜ」輝が俺の前を走って横断歩道を渡りきる。俺も走って付いていった。付いていっただけなのに、、、。
キキー!
何があったのかはよくわからない。俺が覚えているのは、何かに衝突した痛み、そして宙に舞い上がった浮遊感だけだ。
俺の記憶は野原から続いている。
「ワンワン!」どこからか犬の鳴き声がする。と言うことは、ここは病院ではないのか。「ワン!」鳴き声が次第に近づいている。
グシャ!
「うわ!」何かに踏まれた感覚だ。
「ワンワン!」鳴き声は再び遠ざかっていく。多分、犬に踏まれたのだろう。
ん…?犬に…踏まれる…?人間が犬に踏まれるなんてことは本当にあるのか…?
「うわ!」今度は何かに吹き飛ばされる感覚だ。しかし俺は飛ばされない。下半身が何かに埋もれているお陰だ。
それから数分間、俺はただただぼーっとしてた。