#4 オオカミ少女キリ
前回のあらすじ:
死刑囚のゲイルを殺されながらも、城から脱出したオレは森へと逃げ込んだ。
しかし、そこにオオカミが現れるのだった。
グルルルル……
オオカミが口の端を引き上げて牙を見せた。下顎から涎が垂れているのが月明かりにもわかる。
矢の刺さったオレの右腕からは、ぽたり、ぽたりと血が垂れている。
(ドク、ドク、ドク)
殺られる……。
その瞬間、オオカミは蹲った。体毛が薄くなっていく。毛が細くなり白い背中の表皮が見えてくる。
オオカミが立ちあがった。いや、人間だ。人間の女だ。変身したのだ。身長は140センチほどで、胸の膨らみもなく女というよりは少女だった。
「ゲイル様。ケガをされてるのですか?」
「オマエは?」
「わたしのことをお忘れですか?」
あの死刑囚ゲイルの味方のようだ。そして瓜二つのオレをゲイル本人と勘違いしているようだ。オレは流れに乗っかることにした。
「ああ、どうも記憶があいまいなんだ。オマエはたしか……」
「キリです」
「ああ、そうだキリ、なんとなく覚えている。だが、どこか別の世界から連れてこられたように、この世界のことが思い出せないんだ。教えてくれますか?」
「とにかく、ここは離れましょう。城に近すぎます。わたしに乗って下さい」
少女は四つんばいになると、またオオカミになった。いささか気が引けたが身を寄せられたので折り重なると、すくっとオレの体を持ち上げて、彼女は走り出した。
彼女の背に揺られながら空を見上げると、目玉焼きみたいなまんまるの満月が浮かんでいた。
「ゲイル様。すぐ着きますから。しっかりしてください」
その声がかすかに耳に残ったが、オレの意識は遠のいていた。
オレは夢を見ていた。
オレは部屋にいて首を吊ろうとしている。ロープの結び目をつくっている。
「おい、いるんだろ! あけろ、コラ!」
借金とりの罵声が玄関から聞こえる。
オレはあわてて死のうとするが、指が震えてロープが結べない。
玄関が開く。いかつい男達が侵入してくる。手には包丁やら、拳銃をもっている。
(死にたくない、死にたくない……)
オレは強く念じる。
ドサッ。
男の一人が前のめりに倒れる。仲間達が振り返る。立っているのはゲイルである。
「あんた、いい目になったぜ」
オレは目を覚ました。
ふかふかのベッドの上だった。左腕がズキリとしたが触れると包帯が巻かれている。服も着替えさせられている。この世界の一般的な服だろうか、作務衣のような形で着心地は悪くない。
部屋にはベッドのほかには、机と本棚があるだけだった。
ずらりと並んだ本の一冊を抜いて、パラパラとめくってみたが、見たことのない文字だった。オレは本を戻して窓を開けた。
二階のようだ。一面に草原と畑が広がっていて田舎の風景というかんじだ。
「あ、ゲイル様が起きた!」
振り返ると五歳ぐりあの男の子がいた。
「おねえちゃん、よんでくるね」
男の子は部屋を出て、ドタドタと階段を降りていった。すぐに複数人が上ってくる足音がして、あのオオカミ少女のキリが入ってきた。うしろには男の子とその母親らしいどっぷりした体の中年女性がいた。
「ゲイル様、いかがですか?」
「ああ、気分はいいんだが、まだ……」
「記憶が戻りませんか?」
「いろいろ教えてもらっていいか。聞いているうちに思い出すかもしれない」
オレはこの世界のことを知ろうと思い始めていた。
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