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#2 脱獄

前回のあらすじ:

異世界に転移したオレは死刑囚ゲイルとともに牢屋に閉じ込められていた。

門番が食事を運んでくる。

オレとゲイルは脱獄のための作戦を開始する。

「いま説明した通りだ。いいな?」


「待て、オレはやるなんて……」


 死刑囚のゲイルはうつ伏せになって、


「早く隠れろ」


「オレは……」


 牢屋番が階段を降りてくる足音。


「くそう」


 オレは反射的に牢屋の隅の暗がりで息を潜めた。


 ドク、ドク、ドク。鼓動が高鳴る。


「おい、極悪人、起きてるか? 飯の時間だ」


 革の胸当てをまとった牢屋番が現れた。左手には槍、右手には燭台を持っている。ろうそくの灯りを近付けて床のゲイルを照らす。


「なんだ、寝てるのか?」


「みたいっすね」


(そんなっ! 話が違う!)


 牢屋番は一人じゃなかった。もう一人、牢屋番の後ろに夕食のトレイを持った男がついている。槍はもっていないが、ラグビーかアメフトでもやっていそうなごっついモヒカン野郎。


(どうすんだよ?)


 ゲイルの表情は見えない。この状況に気づいていないか。


「寝たフリなんかしてんじゃねえよ。起きろっ」


 牢屋番がゲイルの頭に唾を吐きかけた。


 ピクリとも動かない。


「おい、どうしたってんだ?」


 牢屋番は舌打ちをしてから燭台を床に置いた。腰につけた鍵の束をジャラジャラさせながら、一つを選んで開錠した。


「まさか、もう死んじまってんじゃねえだろうな? オマエの処刑は明日だからな。勝手に死ぬんじゃねえぞ。国中がオマエの死刑を楽しみにしてんだ。この殺人犯が」


 オレは牢屋番の「殺人犯」という言葉にひっかかった。


(ゲイルは人を殺した?)


 ヤツは『黄金の蛇』とかいう宝を盗もうとして捕まったと言っていた殺人も犯しているのか?


「しょうがねえ。飯だけ置いていこう。せっかくのガーゴイル祭だ。こんな奴にかまってられねえ」


「そうだな」


 モヒカン野郎が入ってきてトレイを置いて、顔をあげた瞬間、


「ん?」


 オレと目がかち合った。


「なんだオマエは?」


 牢屋番もオレの方を見る。


「うっっ」


 牢屋番が足を滑らせたように倒れる。ゲイルが両足首をつかんで引っ張ったのだ。持っていた槍がオレの足元に転がる。


「拾えっ!」


 オレはゲイルの声に促されて槍を拾って、切っ先を牢屋番の目の前に突きつけた。

と、同時にモヒカンがゲイルを羽交い締めにした。


「ど、どうなってやがる……どうしてゲイルが二人……」


 牢屋番は槍に怯えている。


「俺を刺せ!」


 ゲイルが叫んだ。


「なにっ!?」


「俺ごとこの男を刺すんだ! 早くしろ!」


 ゲイルは左目をウインクさせた。ギャンブラーの勘ってやつでオレは理解した。


(ゲイルには作戦がある!)


「うおおおおおおおっっ!」


 オレは槍を構えて勢いよく駈け込んだ。

 ゲイルは足の踵を後ろに上げて、モヒカンの股間を直撃、羽交い締めにした腕が緩んだ刹那、前転してかわした。


ブスッ。


 オレの槍がモヒカンの腹に突き刺さった。口から吹き出た血液がオレの顔を濡らした。


(オレが……人を刺した……)


 ドク、ドク、ドク。


 たったいま、刺したときの、肉の塊に槍が突き刺さる感触を反芻して、思わず槍から手を離した。


「き、きさま!」


 牢屋番が声を震わせながら立ちあがった。

 ゲイルはモヒカンから槍を抜いて、130度回して牢屋番に向けて喉を突き刺した。急所をついた見事な一突きだった。

 牢屋番の鍵の束から、足枷の鍵を探して外した。解放された足首をさすって、


「成功だな。やっぱりアンタに賭けた俺の勘は間違いじゃなかった。行こうぜ」


「待て。ゲイル」


「ん?」


 脚が震えて力が入らない。


「俺に殺人はさせないと言っただろ……」


「しょがねえだろ、相手が二人いたんだ。いつもは一人なんだがな」


「さっき、オレに目で合図しただろ」


「ああ、アンタ、いいセンスしてるぜ。口で言わなくてもわかってくれた」


「殺せっていうメッセージだったのか?」


「まあ、そうなるな。結果論だけど。アンタ、殺しは初めてか?」


「あたりまえだろ!」


「ふーん。そっか。まあ、初めてだと。ちょっと震えるわな」


「くそう、なんでオレが人殺しなんか……」


「でも、あんたいい目になったぜ」


「いい目?」


「ああ、さっきまでの死んだ目じゃねえ」


(ドク、ドク、ドク)


 全身に変な汗を掻いている。久しぶりに運動をしたときのような心地良い興奮。


「オレが人を殺してワクワクしてるって言いたいのか?」


「いや、そうじゃねえ。生きてる目だ。誰もが自分が生きるためには、何かを殺してるんだ。さっきまでのお前は死人の目だった。殺される側だ。だが今は違う。生きようとしている目になった」


(生きようとしている目……)


「ぐずぐずはしてられねえ。俺は行くぞ。アンタどうする? 城を出たいなら一緒に来い」


 ゲイルは槍と燭台を拾って階段に向かって歩き出した。


(ドク、ドク、ドク)


「待ってくれ、オレも行く」


 ゲイルの後に続いた。


(つづく)


・初連載のため慣れていないことがたくさんあります。おかしな点があったら教えて下さい。


・不定期連載(月・木更新)のため、つづきが気になった方は「ブックマーク」していただけると嬉しいです。「評価」や「応援」いただけたら頑張って早く更新します。


・次回は11/12(月)5:00更新予定です

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