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#1 死刑囚ゲイル

前回のあらすじ:

大学生活になじめず学校をやめた青年は、ギャンブルに走り、ネガティブスパイラルにはまった末に首吊り自殺をしたが、気がつくと、そこは見たことのない牢屋の中だった。

 首を吊って死んだはずのオレは目を覚ますと牢獄の中にいた。


 壁に等間隔にろうそくが燃えている。火は凍ったように動かない。風がないのだ。


(地下室だろうか?)


 薄ぼんやりと照らされているだけで周りはよく見えない。前の前の鉄格子を握って、揺するがビクともしなかった。


「アンタ、どっから入ってきたんだ?」


 背後の暗がりから声がした。


 振り返ると、壁に寄りかかって座っている男がいた。

 顔はよく見えない。伸ばした足首には枷がはめられていて、その鎖の先は西瓜大の鉄球に繋がっていた。


 声の主は目を光らせてオレを視た。


「警備の兵士じゃねえな。かといって、新しい囚人ってわけでもなさそうだな。牢の扉を開ける音もしなかった。一体どうやって入った。アンタ、何者だ?」


「オレは……」


 頭がズキリと痛んだ。


(オレは……誰だ?)


 思い出せない。思い出そうとすると、


 ズキッ。


 痛みとともに、黒い馬が浮かんだ。


「エンドレスドリーマー……」


「エンドレスってのが、アンタの名前か?」


「いや、馬だ。馬の名前だ……」


「馬?」


「ああ、オレと同じ努力しても報われない可哀想な馬だ」


 暗がりの男は、鼻で笑った。


「笑わせんな。成功するのに必要なのは努力じゃねえ。大切なのは運だ。命をかけてでも自分の信じるものに賭ける。それが出来ねえやつは、一生うだつが上がらねえ」


 男は立ちあがって、ギギギギと足の鎖を引きずりながら姿を現した。


「俺の名前はゲイル。明日の朝、死刑されることになってる囚人だ」


「死刑?」


「ああ、命を賭けて負けた男ってわけだ」


 オレはゲイルと名乗ったこの男をどこかで見たことがあるような気がしていた。


「一体、なにをしたんだ?」


「んん、まあ、ちょっと、計画が失敗しちまってな。いわゆるこの国の家宝と呼ばれてるもんを騙し取ろうとしたんだが、バレちまってよ」


 『黄金の蛇』というのが、その家宝とやらの名前らしかった。


「どうでもいい。オレには関係ない」


「興味ないのか? この国の王こそが国民を騙していると極悪人だと言っても?」


「知らん。そもそも、オレはここがどこかもわかっていない。オレは……j


 ズキッ。


「オレは……」


(そうだ……首を吊ったんだった……)


「アンタ、死んでんな」


「なに?」


「目が死んでるぜ。オレは生きてるのがつらい、早く死にたいっ、誰か殺してくれって顔してやがる」


「ふっ……その通りだよ」


「だったらその命くれよ」


「あ?」


「さっき言っただろ俺は明日、死刑になるんだ。だったら俺と変わってくれよ」


「出来るものなら変わってやるさ。命なんか惜しくない」


 ゲイルはにやりと笑った。


 その瞬間、さっきから気にしていた、この男が誰に似てるかが分かった。


 片方だけ吊り上げるようにしたこの笑い方は……


(オレだ! この男はオレそっくりなんだ!)


 数日間、投獄されていたのかオレより髪や髭が伸びていて、やや筋肉質だが、身なりを整えれば、他人は見間違えるほどにはよく似ている。


「やっと気づいたか? 俺は一目見たときから感じてたぜ。アンタが俺に瓜二つだってな。それで思ったのさ、まだ俺にもチャンスはあるってな」


「チャンス?」


「ああ、生き残るチャンスだよ」


 ゲイルの作戦は単純なものだった。もうすぐ牢屋番が夕食を運んでくる。ゲイルにとっての最後の晩餐だ。その時、ゲイルは死んだふりをして寝る。確認するために牢屋番が入ってきたところでオレが襲う。


「相手は武器は持ってないのか?」


「槍を持っているが油断しているはずだ。俺がヤツの体にしがみつく、その瞬間にアンタが槍を拾ってブスッとやってくれればいい」


「オレが殺すのか?」


「殺せとまでは言わない。脅かす程度に傷つけてくれればいい。鍵さえ奪えれば後の始末はすべて俺がやる。どうせ、捨てようと思ってた命なんだろ? 俺にくれないか?」


 ゲイルは必死に訴えかけてくる。自分の命が賭かっているのだから当然だ。


「だがオレが裏切ったらどうする? オレが協力する理由はない」


 ゲイルは黙ったままオレを見た。


「やってくれるさ。あんたは俺に協力する」


「どうして?」


「どうしてもだ」


 ギャンブラーの眼だ。この男は俺に賭けたのだ。今まで賭けることはあったが、誰かに賭けられることは初めてだった。


 しかし、この男を言葉通りに信用していいのか、オレにはわからなかった。


(なに、今さら失うものなんてないじゃないか。オレは自殺しようとしたんじゃないか)


 同時にワクワクしているオレがいる。このゲイルという男が、オレをそうさせているのかもしれない。


 ドクドクドク。


 胸の鼓動が高鳴る。


 生きている実感。


 これだ。オレが求めていたもの。


 そのとき、廊下の奥からギギギイと扉の開く音がした。風が吹き込み、ろうそくの火が揺れた。


 牢屋番の階段を降りる足音が響いてきた。


(つづく)

・初連載のため慣れていないことがたくさんあります。おかしな点があったら教えて下さい。


・不定期連載(月・木更新)のため、つづきが気になった方は「ブックマーク」していただけると嬉しいです。「評価」や「応援」いただけたら頑張って早く更新します。


・次回は11/8(木)5:00更新予定です

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