八撃目
できた動画をアップして確認。
いまいちパッとしない出来に思える。
途中転ぶトラブルもあるし、せっかく腰のヒールを行なったが腰は特段赤くも無かったので私の手のひらがぼんやり光っただけに見えた。
パッとしないと感じたのは私だけでなく田中も同じらしく頭をポリポリ掻いている。
「ライブ数は、まぁ、多少は見てくれてたみたいだから見た人が拡散してくれるといいね」
田中は、そんな事を言うがライブ中のコメントのほとんどがヤラセ、CG乙、今時合成?、ネタが古い…などである。
酷いものだと女騎士なら脱げ!とかまである。
一方良いものでは、騎士様綺麗!素敵!日本語うまっ!などであり魔法についてではない。
「まぁ、はじめはこんなものだって。とりあえず昼飯豪勢にピザるか!」
田中は…前向きだ。
どうして、田中は私なんかを拾い、私の話を信じてくれたのであろう。
私は…そもそも生まれたときから誰にも期待されてきたことなんか無かった。
下流貴族の5人兄妹。
2人の兄様は、出世コースを目指し厳しい教育を受け親からも期待されていた。
姉様も、いいところの縁談が産まれて直ぐに舞い込み本人もそれに見合うよう日々努力を続けていた。
一番下の少し年の離れた弟は、母様が溺愛。
一番可愛がられていたし、確かに兄妹の中で一番可愛いかった。
それに比べ私は…そこそこな魔力しか持っておらず、縁談も10歳でようやく決まったのにも関わらず親に反対されたのを押し切り縁談破棄と一般兵への志願。
勘当されてから一度も親兄妹にも合っていない。
そもそも私なんか居なくても元の世界で誰も困っては居ないのではないだろうか…。
「おーい、おーい、きこえてますかー?」
田中が耳元で声を掛けてきた。
「ふおぉ!脅かすな!」
私は、耳を押さえ飛び退く。
「ラファ氏がどのピザ頼むか相談に乗ってくれないからですよ。何やら深刻な顔して押し黙ってるし」
田中が肩をすくめた。
そんな田中を見てふっ…と力が抜けた気がした。
「この世界のピザは、まだ食べたことがない…と言うより、似た様な物はなくもないが写真で見たピザと、私の知ってる食べ物はきっと別物だ。好きに頼むが良い」
「ハハッ、上から目線ですな!」
「フン!性分だ」
クスクスと田中と笑い合う。
さっきまでの暗い気持ちが嘘の様だ。
あぁ…ピザ…どんな味なのだろう?心が弾む。
私なら頭の中は今ピザで埋まっていた。




