五十三撃目
「えっ?ええっ!?」
余りの衝撃に辺りを見回す。
まさか王が!とも思い王の顔を見ようとしたが相変わらず見えない。
「そっちじゃないこっちこっち」
お偉いさんの中に田中が紛れ込んでいた。
「本当に田中の知人なんだな」
「えぇ、まさか一年も前に先にこっちに来るとは僕も思っても見なかったから驚きました」
「他のものはもう良い退がれ。
田中の知人だ、害はない」
そう誰かが言うと、サァーっと人々が引いていく。
残ったのは顔を見せた王とその側近2人。
田中と私の5人だ。
「ここでは話しにくいな、場所を変えるぞ」
王がそう言って立ち上がり、謁見の間から出ていく。
王の席の近くに別の扉があって驚いた。
完全に普通に見ると扉は隠れている。
「どどどどう言うことだ!?
説明しろ田中!」
「どうもこうもありませんよ。
むしろこっちが聞きたいくらいです。
一年間もどこほっつき歩いていたんですか?」
「一年間?どう言うことだ?」
王の後ろを歩きながら2人で質問しあう。
「僕がコッチに来たのは一年前なんです。
細かく言うと、ラファ氏が地球から居なくなって半年後に向こうを出発してはいるんですけどね!
にしても、ラファ氏がいる世界で本当に良かった!
来た当初…と言うよりつい先日ラファ氏が帰国されるまで他の世界か、他の国に来てしまったかと思っていましたよ」
なんと…田中は一年間もこの世界にいるらしい。
「な…なら、一年間ここでどのようにして過ごして来たのだ?
なぜ、ここにいる?」
「そうですねぇ。
まぁ、元の世界の知識を披露してたらいつの間にか名誉貴族の仲間入りをしていたってところですかね」
「異世界行ったら成功しましたを地で行ったというのか!?」
「ええ、まぁ、そんなところです」
「まさか…井戸にポンプを設置したり、紙を開発したりしてないだろうな?」
「しました」
「のおおおおおおぅ!
私がソレで、ガッツリ儲けようと思っていたのに!」
「いやー、元手がなくてはじめは大変でしたよ」
恨むぞ田中。
「でも、この世界には風車も水車もあるのでその辺は残念と言ったら残念でした。
たくさん資料を持ち込んだのが無駄になりましたからね。
まぁ、今は風車を使って発電を試みているところです」
「ぐぬぬぬ、田中恐るべし敵だな!」
「そんなに褒めないでくださいよ」
「褒めてない!」
「その方らは仲が本当に良いのだな」
王が笑う。
「そして、本当に同じところから来たのだな…」
笑ったと思ったら突然真剣な顔になる。
マズイ、王の御前であった…。
「ここで、お昼にしよう。
ラファージュランは、お腹が空いているのであろう?」
園庭にあるあずまやに通される。
テーブルの上にはお昼ご飯が用意されていた。
席に着き王が一口口にするまで待つ。
こどこの世界でも、目上の人が先に物を口にするのだ。
見た目は、豪華な食事に見える。
だが、所詮はここの世界の料理だ…と思いながら食事を口にした。
「なっ!」
口の中に広がる日本で食べたことのある味。
「コレもコレもコレもコレも!日本の味ではないか!」
若干興奮気味に食事を取る。
「お気に召していただき光栄ですが…醤油が無いから日本の味ってわけじゃ無いですけどね」
王ではなく田中が、答える。
「田中が作ったのか!?」
「僕初めて来た時、収入が無かったので料理人してたんですよ。
今日の料理はレシピ公開して王様の料理人に作ってもらいました」
「驚きの料理の数々であろう」
王も満足げである。
そう言えば、田中は家で毎日料理をしていた。
さすがだぞ田中!
「今は味噌を仕込んでますが…なかなかどうして難しいものですね。
味噌が出来たら、醤油にも取りかかれるのですが、醤油は何年か先になりそうです」
本当に田中は、こちらの世界で通用する知識を持っている。
なんと言うことだ…。
「田中を見ていると今まで召喚に失敗してきたのは何が原因なのだろうと思ってしまわないか?
異世界召喚は、禁忌魔法なのだがこれを期に世界中でまた流行るかもしれんな」
王が物騒な事を言う。
「僕がこの世界の住人でないことはこの国だけの秘密って、約束ですよ」
田中が、王に詰め寄る。
「わかってる、わかってるわい」
田中…仮にも王だぞ。
口を慎め…人のことは言えないけど。
よろしくお願いします




