五十二撃目
私は、職場に呼び出された。
事の顛末を話す。
話してもにわかに信じられないと言われたのでポラロイドカメラを一枚取る。
こんなこともあろうかとフィルムが無くなったら使えなくなる無駄な物を持って来て良かったと思った。
「なっ…なんだコレは!」
「ですから、地球という所はここよりも文明が発達しているのです。
私がどんなところに居たかコレで納得していただけましたか?」
「納得も何もドラゴンや神や…もう話が飛びすぎてわけがわからん。
その、それもう一枚出してはくれぬか?」
「ダメですよ!
使い切ったら替えのフィルム手に入らないんだから無駄には使えない」
「む…無駄とはなんだ無駄とは!」
「撮って欲しいだけなのバレバレだぞ」
「待て!そんな怪しいもの…魂がとられるかもしれんぞ!」
阿鼻叫喚とは、まさにこのこと。
しばらくは、この熱狂が治らないかもしれない。
「にとにかく!コレは上に報告する必要がある!
この写真とやらは、報告の際使わせていただくぞ!」
「あなた達の顔写真なんぞくれてやるが、カメラ自体は渡さないぞ。
壊されたく無いならな!
それから、時計。
コレは後で返してもらうがコレもあればより説明しやすかろう」
田中や小林、ドラゴン達との思い出写真は家にある。
写真はあれさえ没収されなければいい。
他にも持ってきた物は取られたく無いな…と本気で思うが、献上品とかいって没収されそうで嫌だ。
隠しておくか…。
「とにかく!上司から何か言伝があるまで謹慎だ!謹慎!」
そう言われ私は、護衛と言う名の監視の元帰路につく。
まぁ、監視しているのが仲間内だから気が楽だが。
「ルルカ、私は仕事をクビになったのでは無いか?なぜ謹慎で家の中に居なければならない」
「そうは言っても、現状危険人物…いや、不審者だからな」
「不審者とは失敬な」
「仕方なかろう、お前だって俺がそうなったらそう思うだろ」
「まぁな…、しかし自宅謹慎だと、飯は困るな」
「あぁ、お前女の癖に飯作れないもんな」
「女の癖にとはなんだ女の癖にとは!」
「まぁ、自宅謹慎と言えども飯くらい外でいいんじゃないか?
随分と面白い体験をしてきたみたいだからな、話せよ。
面白かったら奢るぜ」
「言ったな!」
久しぶりの同僚との会話は楽しかったが…飯が悲しくなるくらい不味く感じ途中本気で泣いた。
次の日も、自宅謹慎かと思いきや今度は城の騎士団に、呼ばれ同じ話をさせられ、午後は午後で神殿に呼ばれ神についてあれこれ聞かれた。
こっちの世界の、神に会えなかったことを伝えるとひどく落ち込んでいた。
夕飯時には、1組の貴族に、夕食なら招待され、ここでも、同じ話を繰り返した。
そして、同じように食事の味気なさに泣いた。
貴族の、食事を忘れていたがこんなものかと言うくらい地球の飯が恋しくなり、帰宅後大事にとっておこうと思ったポテトチップスを一袋あけた。
同じ芋なのに、何が違うのだろう…不思議だ。
そして、さらに次の日も似たように色々なところに呼ばれ午後にはとうとう王からの連絡まで来た。
3日後の朝から謁見である。
以前なら緊張し過ぎて右往左往していただろうが…最早神に対しても何ともなしに質問できるくらいまで神経が図太かなっている。
問題なかろう。
…いや?問題しかないかもしれない。
王に対し失礼なの事を言ってしまうかもしれない。
正直少し面倒に感じたのはいうまでもない。
そして、当日。
私は、この世界に戻って来た時と同じ服装で城門を、訪れた。
が…王に会うのだからと、これでもかというくらい身体を隅々まで洗われ服もせっかく地球の服を着て来たにもかかわらず新し衣服が用意されていた。
ローブの様に頭から被り腰に紐を通す。
無論、自身では着ずに着させてもらうのだ。
神や首相に会うにもラフだったので、本当に煩わしい。
ピカピカになった私は、謁見の間の前で長時間立ったまま待たされた。
朝から城に着てもう昼になる勢いである。
まぁ、時計も服とともに一旦預かられているので正確な時間はわからないが私の腹の虫がお昼を告げている。
ギィー…っと謁見の間の大きな扉の横の普通サイズの扉が開き、ローブを身にまとった老人が手招きをする。
それに続き私は部屋の中に入った。
部屋は魔法の光のせいかかなり明るく高い天井の隅までよくみえた。
豪華な装飾品、真っ赤なカーペット。
一番奥には王が座っている。
王の顔は見えない。
左右からお付きの者がふわふわの馬鹿でかい羽のようなもので隠している。
平民には顔を見せないのがこの国…いや、この世界の決まりである。
両サイドには、騎士やお偉いさんが立ち並んでいた。
とりあえず老人の後に続き指示された場所まで歩くとその場にひざまづいた。
「名を名乗れ」
王の側近から声がかかる。
「ラファージュラン・キタノ・オンターラと申します」
「その方、先日まで異世界、チキュウと呼ばれる国に居たと報告が上がっているが本当か?」
「正確には地球という場所の、日本という国です」
間違いを訂正する。
「口答えするな!」
間違いを訂正しただけなのに側近に怒られる。
なら間違えんな…と言いたいところだ。
「して、ドラゴン三匹と共に行動して居たと言うが間違いはないか?」
「相違ありません」
おおお!っと、どよめきが湧く。
「ドラゴンをここに呼び出すことは可能か?」
「出来兼ねません」
「何故出来ないのだ?チキュウではドラゴンと共におったのであろう?」
「この世界では、ドラゴンに連絡を取る術がありません」
しばし沈黙が流れる。
なるほど、ドラゴンは強力な力だ。
ドラゴンと知り合いなら私をエサにドラゴンを兵士として戦争や、威圧として利用する為に私を、ここに呼んだのか…。
ようやく王に呼ばれた理由を理解した。
なぜ、王に呼ばれたのか、不思議でならなかったからだ。
単にお話好きな王なのかと呼ばれた時には思ったが、理由もなしにこんな、短期間で王に会えるはずもない。
ならば、ドラゴンを呼ばない私は何の利用価値もないだろう。
あぁ、ならさっさとお昼ご飯を食べたいな…。
もうすっかり上の空である。
「チキュウでは、連絡をとる術があってここでは無いというのだな?」
「あ、えぇ。
地球には、スマホと呼ばれる便利グッズがあってそれで遠く離れた相手と話ができるんです。
まぁ、スマホは他にも色々な使い道がありましたが」
「ソレは持って帰ってこなかったのか?
色々な道具を持ち帰ったと聞いたが」
「ま、電波や電気が無ければ使えませんから持って帰っても無意味だったんで」
「コレ、その方王の御前である。
話言葉を気をつけたまえ。
それにさっきから全くわからぬ単語を…もっとわかりやすく答えなさい」
心ここにあらずなので言葉使いが、適当になってしまった。
にしても、言葉に気をつけながらわかりやすくとか…難問である。
用がないんだから正直もう帰らせて欲しい。
そう思った瞬間ぐうううううう〜っと腹の虫が鳴った。
そう…それはもう盛大に。
「くっ…ふはははははははははは!
相変わらずだなぁ!ラファ氏は!」
「ふへ?」
どこからともなく田中の声が聞こえた。
よろしくお願いします




